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[ あたしはあの世界を夢だったとは思ってないし、
日食君もそうみたいだった。
こうやって話が通じるのが何よりの証拠 ]
……さて。先生来てるんだよね?
和歌奈ちゃんのご家族とか。
挨拶してくるよ。
日食君はまだしばらくここにいるの?
なら、誰か来るかもしれないし、出迎えよろしく!
[ あたしはそう言って、病院の奥へと足を進めた ]*
メモを貼った。
わたし
[そう、平塚莉希が死んでも
ママは悲しまない。
天野莉希の死を、悲しむだけ。
だってそういう人なのだから。]
わたし
[ 平塚莉希は 貴女の どこにいますか? ]
[文化祭が終わって春が近づくにつれ、
どんどん憂鬱になっていった。
進学するにしたって、ママが納得するところに
しか行かせてくれない。
レッスンやオーディションだって再開する心算
だろう。
……また雁字搦めの生活に戻る?
ううん、この三年間だって、
糸は絡まったままだったよ。]
[ まるで操り人形のように ]
―― 帰還 ――
―――――っ!
[何かに弾かれるようにばちりと目が覚めた。
鼓動が早い。
呼吸が浅い。
嫌な汗だって流れている。
まるで悪夢を見た時のように。
息を落ち着かせながら沈んでいたベッドから身体を
起こした。
えぇと、私何してたんだっけ?
……そうだ。ママと電話して一方的に色々言われて、
しんどくなってベッドに身を投げたんだ。]
[窓の外はとっぷりとした闇に染まっていて、
冬の空気が星の光をより綺麗に瞬かせている。
思わず窓を開けた。
窓はすんなりと開いた。
雪は積もってはいなかった。]
……夢、だったのかな?
[夜空を見上げれば綺麗だなぁと思ったけど、
身体が冷えればママに怒られる、とやっぱり
すぐにからりと閉めた。]
[やることやらなきゃと思って時間を確認しようと
ベッドに投げ出されたままだったスマホを手に取る。
そこでいくつか通知が入っているのに気づいた。
それは日食君、それから飯尾先生、和歌奈さんの
順に表示されていて。
どうしたのかなって、一番上の日食君から目を
通した。
病院? どこか怪我したのかな?
[もしかして送信先間違えた?なんて思ったけど、
次に飯尾先生のメールを開けば、その意味はすぐに
知れることとなる。]
……夢、じゃ、なかった?
あの世界は。
ホストは、和歌奈さんだったってこと?
[あの世界で見た同じ文面
確かにここにある。
その画面を凝視していると、もう一件、通知が
入った。
……行かなきゃ。
[七星さんも帰って来た?って思ったけど、
今はそんなこと気にしてる場合じゃない。]
『平塚莉希も帰還
病院、私も向かいます!』
[私もグルチャに返信を打って、部屋を飛び出した。]
[ 手術室に、人影が見えた。
手術中の赤いランプが灯ってるのも、見えた。
あたしはゆっくりと近づいて、頭を下げる ]
こんばんは。
[ 来たのか、と声を掛けてきたのは飯尾先生。
和歌奈ちゃんのお父さんは、
わざわざありがとうございます、って
子供のあたしに敬語で挨拶して、
頭まで下げられてしまって、あたしはちょっと慌てた。
和歌奈ちゃんのご家族には文化祭の日に会った。
覚えてる。
和歌奈ちゃんのご家族は他に誰か来てたかな。
皆さんお揃いだったかもしれないし、
もう夜も遅いから、お母さんと妹ちゃんは
お留守番だったかも ]
[ 和歌奈ちゃん、来たよ。って、
あたしは手術室の扉を見つめた。
この向こうに和歌奈ちゃんがいる ]
[ しばらくそうしてたけど、
先生が、ちょっと一服してきます、って
席を外そうとするのに、
あたしはついていくことにした。
先生にはちょっと話したいことがあったから ]
あ、あたし夜食持ってきてて。
ちょっと食べてきます。
[ ご家族にそう言って、あたしは先生を追いかけた ]
[ 病院って屋内には喫煙所作れないんだって。
あたしは煙草吸わないし吸う予定もないから
どうでもいいけど。
病院の外の特定屋外喫煙場所とやらで
そう言って嘆く先生の横で、
あたしはラップをめくっておにぎりを食べた ]
先生さー、教育者の端くれってやつでしょ、
だったらさあ、集団失踪事件の話、知ってる?
誰かの頭の中にいた、みたいな話。
[ レンチンの焼きおにぎりは冷めても美味しい。
もぐもぐしながら聞いたら、
端くれ言うな、って小突かれた。
一応知識としては知ってる、とも ]
先生、あたしねー。
さっきまで、和歌奈ちゃんの世界にいた。
……って言ったら、信じてくれるー?
[ あたしがそう言ったら、先生は怪訝そうな顔をした。
大人を揶揄うもんじゃない、ですとな? ]
先生、こんな状況でそんな冗談言うほど、
あたし不謹慎なやつじゃないよー。
[ そりゃ夏見七星、お調子者ですけどね?
ハチャメチャガールズとか一部で言われてる
らしいですけどね?
言っていいことと悪いことの区別くらいは
ついてるつもりです! ]
和歌奈ちゃんの世界って、望高文化祭だった。
それでさ、あたしとか日食君は帰ってきちゃったけど、
その世界にまだ残ってる人がいるはずなの。
[ 路子ちゃんに、真梛ちゃんに、荒木君に……って
あたしは指を折って数える。
莉希ちゃんからのグルチャは
車の中で読んだ。
莉希ちゃんももうじき来る。
先生が信じてくれないなら、
莉希ちゃんからも言ってもらおう。
あたしたちは、和歌奈ちゃんの世界にいたって ]
だからさ、先生。
みんなが連れて帰ってくれるはずだからさ、
……和歌奈ちゃん、助かるよね。
[ おにぎり包んでたラップを小さく丸めて握りしめる。
俯いたあたしの頭に、先生の手がポンって乗った ]**
メモを貼った。
メモを貼った。
あの!私ちょっと望月病院に行ってくる!
[下にいた祖父母にそんな声をかけて慌ただしく
バタバタしていれば、驚いた二人から一体
どうしたのと声がかかった。]
あ、えっと、その、
友達が、運ばれたって…!
[祖父母は昔里帰りした時は気難しくて厳しい人たち
って印象だったけれど、今は孫として普通に接して
くれている、と思う。
たどたどしく説明をすれば、二人は顔を見合わせた。]
[望月病院は自転車で行けばそんなにかからない。
コートを羽織ってマフラーを巻いて、迷いなく
飛び出そうとしていれば待ての声が響いた。
こんな夜中に外出は関心しないと。]
で、でも……!
[確かに関心できないかもしれない。
でも私だって子どもじゃない。
どことなくママに似た面影に、雰囲気に、
反論の声はそれ以上出てこない。]
「夜道は危ないから送っていく。」
――――え?
[下を向きかけたら、降ってきた声に素っ頓狂な
声が出た。
私を、心配してくれた?
それともやっぱり世間体?
なんて考えてしまうのは失礼だっただろうか。
でも断る理由はない。
だって私は病院に行きたいから。]
……お願いします!
[そうして車に乗り込んで、病院を目指した。]
[私食堂に食料があるって書き込みだけ見たわけ
じゃないよ。
ちゃんと日食君についての書き込み
見たら、マネキンもちらっと確認した。
保健室のベッドは四つで、女子は五人。
路子さんはどこでも寝れるからとベンチで寝て
しまって
遠慮して空けるのも勿体無いなぁって思ったから
使わしてもらったけど、マネキンを見てしまった
せいかなかなか眠れなくて。
だから。]
首大丈夫?
[自販機の所にその姿
開口一番にその細い首を確認した。
まぁ大丈夫じゃなかったら日食君も私もこんな
ところにいるわけないんだけど。]
本当に苦しかったな、あれ。
死ぬのって、あんなに苦しいんだね。
[日食君の身にどんな現象が起こったのかは
知らないけど、そんな言葉をぽつりと零す。
和歌奈さんも苦しかったかな、痛かったかな。
少なくともその胸の内は、苦しかったのだろう。
七星さんももうついていると教えてもらえば、
私はその姿を探したんだ。]
[ドラマとかでよくあるよね。
暗い病院に赤いランプが灯ってさ。
その前に家族が神妙な面持ちで待ってるの。
まさかリアルで体験することになるとは
思わなかったよ。
ご家族にぺこりと頭を下げた。
この扉の向こうに、和歌奈さんがいるんだ。
ランプはまだ、消える気配はない。]
七星さん、に飯尾先生。
こんばんは。
[二人がどこにいったかを教えてもらえば
そちらへと足を向ける。
[会いたかったのは飯尾先生じゃなくて七星さんだ。
脇目も振らず傍によればぎゅって抱きついた。
そんなこと今までしたことなかったけど、
しょうがないよね。
ちょっといろいろ情緒崩壊してるんだ。
だから許してね。]
……七星さんも帰って来たんだよね。
みんな、帰ってくるよね。
[二人が何を話していたのかなんて知らなかったけど、
その言葉を聞いたら先生も、信じてくれたかな。]**
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
[ 足音が聞こえた気がして、あたしは顔を上げた。
莉希ちゃんの姿を認めて、思わず目を見開く
莉希ちゃん!
おかえり!
[ ここは屋外であるからして、多少声が大きくても大丈夫。
なーんてこと、考える余裕なんかなかった。
反射的に口をついて出ちゃったんだよ。
ここが病院の外で良かった。
こんばんはって言う莉希ちゃんに、おかえりって返して
ぎゅって抱き返す。
今この一瞬だけは、和歌奈ちゃんを心配する気持ちより、
莉希ちゃんに会えて嬉しいっていう気持ちが
上回っちゃったかもしれない。
一瞬!一瞬ね! ]
うん、……うん。
[ 莉希ちゃんの質問に、あたしはうんうんって頷く。
七星さん「も」って莉希ちゃんは言う。
莉希ちゃんも帰ってきた。
つまりそれって……莉希ちゃんもきっと、あの世界で
死んだんだろうって思う。
痛かったよね。それとも、苦しかったかもしれない。
労いの気持ちを込めて、莉希ちゃんを抱きしめたまま、
その背中を撫でた ]
せんせー。
和歌奈ちゃんの世界で、莉希ちゃんも一緒だったんだ。
ね?莉希ちゃん。
[ 莉希ちゃんに抱き着いたまま、
あたしは先生の方に顔を向けた ]
[ 先生は、しばらく黙ってあたしたちの方を見てた。
けど、頭をぼりぼりした後、降参って感じで手を挙げる ]
「あー、わかったわかった。
……けどな」
[ 先生は、しばらく言葉を選ぶみたいに
視線をさまよわせた後、
少し声を落として、言った ]
「もし……河合が、……戻ってこなくても。
他の奴らを責めてやるなよ」
[ どきんと心臓が跳ねた ]
[ みんなが連れて帰ってくれるはずって
あたしは言った。
莉希ちゃんの言った「みんな」にも、
もちろん和歌奈ちゃんは含まれてるはずだ。
自分に言い聞かせるようにあたしはそう信じてる。
だけど、もし、和歌奈ちゃんが帰ってこなかったら? ]
……そんなの、当たり前、だし。
責めたりなんか、しないし。
でも……でも、帰ってくるよ。ね?
[ ぎゅってあたしは莉希ちゃんに抱き着く腕に力を込めた ]
[ 和歌奈ちゃんの世界にあたしたちが呼ばれた理由。
最期に一目会いたかったからじゃないか。
路子ちゃんはそう言ってたけど。
その言葉に、そうかもってあの時あたしも思ったけど。
っていうか、そういう気持ちもきっとあると思うけど。
それだけじゃなくてさ。
和歌奈ちゃんの中のどこかに、連れ戻してほしい気持ちが
あるからだったりしないかな。
だって。だってさ。
ひめちゃんの世界に、あたしは呼ばれなかった。
それって、ひめちゃんに
なんの未練もなかったからじゃない?
あたしを縛り付けるために命を捨てたひめちゃんだもん。
もし、ひめちゃんもあんな世界を作ってたなら、
そこにあたしが呼ばれないはずがない ]
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