14 冷たい校舎村10
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[思えば何もかも間が悪かった。 ぬいぐるみの、リボンのついた方の片耳を引っ張ったら、 思いがけず布が裂けて片耳のパーツがごっそり取れてしまったことも。 たまたま帰ってきたばかりの妹がそれを見てしまったことも。
気まずい沈黙はすぐに破られた。 妹は荒れた。大粒の涙を流して、 私がぬいぐるみを壊したのだと叫んだ。 違うんだと私は叫びたかった。 なのに口は動かないし頭も回らなかった。 ちゃんとやるための方法は導き出せないくせに、 妹に一番刺さる言葉だけはすぐに浮かんできた]
(123) 2021/11/14(Sun) 00時頃
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呼ばれたんだ。
[それはあの世界へ呼ばれたという意味だけじゃない。
今集まっているクラスメイトはみんな、この病院へ呼ばれたようなものだから。]
ここまで来て、今更後に引けるかよ!
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[泣き声のトーンが上がる。 たまらず首を横に振って私は告げた]
しょうがないじゃん、もう結構古いんだから! 新しいものを買ってもらえばいいじゃん!
[これが一番刺さる言葉。 あの子にとってこのぬいぐるみは唯一なんだって、 よーくわかってたのに。
私の言葉に妹は動きを止めて、 それから、駆け出した。 外だった。茜色が射していた]
(124) 2021/11/14(Sun) 00時頃
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[喧嘩に気付いたレイナさん――つまりは現在の母と慌てて探し回った。 あの子は意外と俊足だったようで、 大通り近くまで来ていて、飛び出したところを車に轢かれかけてた。
ちょっと擦りむいたくらいの傷にまた泣くあの子と、 ほっとして思わずあの子を抱きしめるレイナさんと、 ふたりを呆然と見やる私。 ココロに隙間が空いてびゅうびゅうと風が漏れていた。 感情の表し方がわからなかった。
わかるのは、そう。 どう考えても私が悪者だってこと。 私は取り返しのつかないことをしかけた。 あんなにいいお姉ちゃんでいようと思っていたのに、 失敗してしまった。
それにやっぱり――どっか壊れてるじゃないか、私のココロ]
(125) 2021/11/14(Sun) 00時頃
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[だけど父もレイナさんも私を責めなかった。 ふたりとも大人で、妹の気持ちも汲みつつ。 大人的には私の言ったことは間違いでもないんだって。
その後誤解は解けて、ぬいぐるみもレイナさんの手で修理されて、 それから洗われて綺麗になった。 めでたしめでたし――とは私には到底思えなかった。
あのぬいぐるみを見るたびに、一度の過ちをしたことを怖れ、 カレンダーがめくられ冬へと向かうにつれ、 私の中に焦りがこみあげた。 いつか取り返しのつかない過ちを犯す前に、 消えなくちゃならないってさ]
(126) 2021/11/14(Sun) 00時頃
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[――そうして私は死のうと決めた。 妹の誕生日が来る前に*]
(127) 2021/11/14(Sun) 00時頃
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[私が生きてるといずれ誰かがとっても困るかもしれないから。 そうなる前に死んだ方がいい。
これくらい言わないと分かりにくかったかな]
(128) 2021/11/14(Sun) 01時頃
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[――――そう思っちゃうくらいには、 見解の相違がある。>>116 あるいは平行線。 とにかく不知火真梛が何を言おうと、 和歌奈は己が認識している事実を曲げることはない。
彼女も彼女で固い意思を持っているようで。 和歌奈の家族のことを知らないのは仕方ないとして、 いったい河合和歌奈の何を知っているというんだ。>>117]
それは違う。 傷つかないよ、私は。
[確かめたことは勿論ないけどさ。 もし、自分のせいで誰かが死んだ時、 あるいは目の前で誰かが死ぬのを止められなかった時に、 悲しむことができるのか。 確信をもってそうと言えないから、何年も自分が怖かった。 それが妹の件でようやく、やばいなって思うに至ったわけ]
(129) 2021/11/14(Sun) 01時頃
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[ため息をつきたいのはこっちの方だ。>>118 これ以上壊れたやつに付き合う義理はないと、 どうすればわかってもらえるんだろう。
その時だ。 不知火真梛がさらに動いたのは。
車椅子は和歌奈の立つ位置を過ぎてもなお進む。 ようやく止まった時和歌奈には彼女の背中がよく見えた。 見た目以上に遠い。 そうして彼女は「和歌奈」と名前を呼ぶ。 音の響きだけがいつも通りだった。 それ以外のすべては、和歌奈の知らない君だった]
(130) 2021/11/14(Sun) 01時頃
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[かつて和歌奈が歩いたコースを真っ直ぐ辿って、 屋上から飛び降りるのはどんな気持ちか、>>37 確かめようとしてるみたいな君だった。
かけられた言葉>>119>>120がぐるぐると渦巻いている。 呪縛じみていた。 だけどそれを振り払って、]
っ、不知火ちゃん! わかってないのはどっちさ!
[これは言葉足らずだ。 不知火真梛とて彼女自身のことをわかってないじゃないか、と言いたかった]
他人にばっかり優しくて、自分に優しくするのが不得手って言ってたけど、 その言葉、不知火ちゃんにそのまま返してあげようか?
(131) 2021/11/14(Sun) 01時頃
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[答えを待たずにまっすぐ駆け出した。 古香路子も荒木春満もとっくに動き出していたのかもしれないが、構わなかった。 これは自分の手で止めなきゃって。
走って、屋上と虚空を隔てるフェンスに近付いて、 その向こう側に、手を伸ばした。 和歌奈と同じことをしようとしている君をただ、引き戻したくて**]
(132) 2021/11/14(Sun) 01時頃
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[ 風が吹いている。>>74 簡単に煽られた髪があちこちに振れて、 その一部が頬に張り付いていた。
これで最後にするのだと君は言う。 背後からも声が聞こえて、>>110 わたしはまだその背中を見ていた。
なにか叫び返しそうになる自分を、 辛うじて押しとどめているような気持ちで。]
(133) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[ それは一瞬の出来事に思えた。 不意にまなちが動いた。>>121
和歌奈ちゃんのところへ行くのかと思えば、 彼女がまっすぐに向かったのは屋上の端だ。
ひゅっと息を呑む音が聞こえた。 ほかならぬわたしの喉から。
とっさに駆けだそうとしたわたしの脚は、 和歌奈ちゃんの動きを見て、はたと止まる。>>132 それから再び動く。二人の方へと。]
(134) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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──取り返せなくたって、だからって。
過去は変えられないよ。 でも、それで終わりにしちゃったら、
和歌奈ちゃんの最後は、 嫌になっちゃった自分のままなんだよ。
そんなふうに言うほど、 君がなにをしたっていうの。
[ 一歩一歩を踏みしめながら、 風に負けじとわたしは声を張り上げる。 同じ屋上に立っているはずなのに、 君の背中が果てしなく遠くに思える。 その距離を一歩ずつ詰めていく。]
(135) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[ 知ってる。 これがどんなに勝手で残酷な行為か。
終わりにしたいというのは、 君の明確な意思であるはずだった。
そうなんだねえと物分かりよく頷けば、 それは君にとって良い結末だったんだろうか。
文化祭をもう一度。 みんなと一緒に少しの間過ごして。
そんな考えが過ぎらなかったわけではなくて、 それでもわたし、言わずにはいられなかった。]
(136) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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──それに、 わたしは和歌奈ちゃんが好き。
たとえ、君自身が自分を嫌っても、 わたしは、わたしの目に映る君が好きだよ。
わたしの好きな人を勝手に殺さないで。
(137) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[ 触れられるくらいの距離まで近づいて、 わたしはその腕に手を伸ばした。
いつか──遠い過去に思える最近。 教室まで駆けだそうと掴んだときと、 今と、どちらのほうが強引だっただろう。
少なくともわたしは明確に、 君の腕を捕まえる意思を持ってそうした。
わたしの友だちを救おうと手を伸ばす、 これまたわたしの友だちである君に。]
(138) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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ねえ、ここにあるのは、 この世界にも、元の世界にも、存在するのは、 君が壊しちゃったものだけじゃないでしょう。
……プラネタリウム。 あの教室があの姿じゃなければ、 わたし、その時点できっと確信してた。 この世界はわたしのものじゃないって。
それだけの意味があるの。わたしにとっては。 それを作ったのは和歌奈ちゃん、君なんだよ。
(139) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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君が自分のこと、嫌じゃなくなるまで。 何度だって、どこまでだって付き合う。
なにされたっていい。 なんだってするって言ったよね。
だから死なないで。 わたしのこころを壊さないで。
(140) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[ じとりと手のひらが汗ばんでいた。 わたしの意思に関係なく指先が震えた。 それでも言葉を紡ぐ。できうる限りに冷静と。
理解しているつもりだ。 これがどれだけ身勝手な言葉か。 わかっていてそれを振りかざすくらいに、 わたしは、君に生きていてほしい。だから。]
和歌奈ちゃん。 わたしを……わたしたちを見て。
[ もう一度と名前を呼び、 わたしはただひたすらに君を見ていた。**]
(141) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[ ─── そう、君と私は平行線だから。>>129
きっと距離は縮まらないし、 交わる事もないのだろう。
フェンスの端から地上を覗けばぶわり。 一際大きな風が、前髪やスカートを揺らした。
そのまま特に気負うことなく、身体を傾ける。 しかしいつまで経っても 予想していた浮遊感が訪れる事はなく。 ]
(142) 2021/11/14(Sun) 02時半頃
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[ 不知火真梛も自分の事をわかっていない。 河合和歌奈の言い分もまた、 至極その通りかも知れない。
繋がる手。 暖かい指に屋上へ引き戻されれば、 顔をあげて、その持ち主を確認してから。
やっと重なった瞳に向けて、 まずは河合和歌奈が知らない彼女自身の事を。 得意げな顔で告げようか。 ]
(143) 2021/11/14(Sun) 02時半頃
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ほら、やっぱり君は優しいじゃないか。
(144) 2021/11/14(Sun) 02時半頃
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[ 精神の世界だ。 飛び降りたところで、 実際の死が訪れるとも限らないのに。
それすら放って置けなかった優しい瞳に向けて。 私は再度微笑んだ。 ]
(145) 2021/11/14(Sun) 02時半頃
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それにここだけの話だが。
目玉焼き、本当に練習したんだ。 君は忘れてしまったかも知れないけど。 自分で言うのもなんだが、 なかなか上手く焼けるようになった。
その、 だから……
[ 屋上に戻った後。 続けた言葉はこれまでとは一転、若干気まずそうに。 君の意思を尊重したいのだけれど。 真梛個人の感情を滲ませてしまった自身の不甲斐なさ ほんのり頬を薄桃に染めて。 ]
(146) 2021/11/14(Sun) 02時半頃
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君が食べてくれないと寂しい。
[ 何とか言い切れば、話は終わり。 元々口は達者な方ではない。
ならばと助けを請うように視線を傾ければ、 やはり君はそこにいてくれただろうから。>>138
自身を投げ出すことしかできない真梛とは違う。 彼女を繋ぎ止めてくれる、力強い腕。 ふふと、自然に浮かんだ笑みのまま。 ]
(147) 2021/11/14(Sun) 02時半頃
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委員長殿のお話だ。 しっかり拝聴しないとな、副委員長殿?
[ 悪戯っぽく瞳を煌めかせれば、 真梛は書記の義務を放棄する。
その後語られる彼女達の会話。 記録する事なく、エレベーターに向かえば、 そこにいただろう大きな猫に 「似合っているな」と一声かけた後。
階下に続くボタンに手を伸ばした。 ]**
(148) 2021/11/14(Sun) 02時半頃
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[ エレベーターに乗り込めば、 行きには擦れ違ってしまった雄火がいた。 ]
そうか。 君達もいなくなってしまったのか。
[ そして姿が見えないもう一人。 幣太郎も、おそらくは同様に。 君達はいつだって誰かの為に駆けられる人達だから。 屋上にいない時点で、察せられていた事。
痛々しい傷跡。 悼むような眼差しを向けた後。 ]
(149) 2021/11/14(Sun) 12時頃
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すまないな。 私では君を皆のところに運んでやれない。
[ いなくなり損ねた娘は。 そこにはいないだろう君達に向けて。 頭を下げると、自身の無力さを詫びた。 ]
(150) 2021/11/14(Sun) 12時頃
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[ 次に向かったのは体育倉庫だった。 特に理由はなかったけれど。 強いて言えば他の場所は全て回ってしまったから。
途中に通りかかった体育館。 ステージ上に莉希の姿はなくて。 春満が望みを果たしてくれた事を知る。
彼女には舞台が似合うと思うけれど。 やはり生き生きと動いて台詞を言ってこそだから。
その隣に雄火がいてくれた事。真梛が知る余地は、 猫カフェで交わせた会話次第だろう。]
(151) 2021/11/14(Sun) 12時頃
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