1 冷たい校舎村(別)
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[ 「どうして死のうとしたの?」
私、ヒナが帰ってきたら、そう聞くと思う。
どうして?って、私は今まで何度もヒナに聞いて、
そのたびにヒナは私の納得のいく答えをくれた。
私とヒナは別の人間だから、
大事にしてるものだって違うし、
価値観だって違う。
でも、ヒナの話を聞けば、
私とは違うものを大事にしてるヒナのことが分かった。
分かってた、と思う。
ヒナは可愛いの追求者。
だから私の中で、ヒナは可愛いランキング一位だった ]
[ でも、ヒナが死のうとした理由を聞いて、
私、その答えに納得できるのかな。
そうか、そうだったんだ、なるほどね。
そう思えるのかな。
好奇心を満たしたい。理解して、納得したい。
その気持ちの一方で、納得したくないとも思う。
そうだったんだ、なるほどね。
そういうことなら仕方ないね。
ヒナが死を選ぼうとしたことを、
そんな風に理解したくない。
理解したくない、なんて。
そんな気持ちは、初めてだったかもしれない ]
[ もし、誰かがヒナの代わりに残ろうとするなら、
私はその人にもどうして?って聞きたいよ。
どうして?
自分が死のうとしたわけでもないのに、
肩代わりして死のうとするの?
知りたい。
でも、きっと理解できない。
納得したくない。
そもそも、肩代わりしたら帰ってこれないんだから、
そんなこと聞くこともできないのよね。
私に一生解けない問題を抱えて生きていけってつもり?
そんなのは断固拒否だからね* ]
[ なぜ人は死のうとするのか。
生きていくのは辛いから、なんじゃないかなあ。
理帆ちゃんが死のうとして、考えたけど、
それくらいしか答えは見つからなかった。 ]
[ 辛いことを取り除いてあげられるならいいけど、
いちおー血は繋がってても、他人は他人だし。
理帆ちゃんに志帆がしてあげられることはない。
これからも“女”として生きていくなら、
病気が身体を蝕むだけだ。
代わりに産んであげるって言ったのは、
こころがしゅんとしたあてつけだけど、
5%くらいは本気だったの。言い訳がましいね。
代替案も受け入れられないなら、
なんもできないよ。できっこないよ。 ]
[ 琴子がどうして死のうとしたのか、わかんない。
生きていくのがつらいからだとおもうけど、
その辛さの理由を知らない。
理由を打ち明けられるような仲、じゃなかった。
結果を見て悲しいよ。教えてくれたらって思うけどね。
思うけど。
志帆には言えないこと、言わないことだったんだよね。
昨日までの琴子にできたことは、なんもないよ。
今思い返しても、特に変なこと、みつかんなかったもん。
死のうとして準備万端だなんて、
まさか夢にも思わなかったでしょ。 ]
[ さすがゆりーん!
そっか、ご先祖様に頼ればいいんだ。
だって絶対墓の下でしょ。ひいひいじいちゃんとか。 ]
……わかんない。
ことめろが困ってたら、助けてくれるとか、?
[ わからないなりに回答を用意してみる。
これならご先祖様4世代前に遡ったって、
子孫の為ならえんやこらーってしてくれないかな。
生きてるかもしんない琴子の祖父母に向かって、
心の中ですみませんと謝っておこ。 ]
夜ごはんもきっとこんにゃくなんだ……
可哀そう……
[ 勝手に担任へ憐みを抱いておく。
不名誉なレッテルを更に貼って、自販機へ。
病院の中は暖房がきいてる。あったかいね。
百合亜も上着をすこし緩めたかなあ。 ]
あ!お衣装だあ。
[ かわいいかわいい私たちをより引き立てる服。
着てきたんだねえと目を細める。 ]
……ことめろが、
ゆりーののこと見たら、ぜったい喜ぶよぅ。
[ ことめろの前に、なんていおうか悩んだ。
まだ会えないとか。
そういうのちょっと考えたくないね。ほんとね。* ]
[ 生きていくのは辛いから、死ぬ?
死ぬのも辛くない?
痛いし苦しいし、中途半端に失敗したら、
後遺症で生きるのがもっと大変になる。
……なんて、私今なら思うの。
だけど、そうね。
あの校舎で、メールを受け取った時、
あの校舎がどういう世界なのか知った時、
私、世界の主は私じゃないって断言できなかった ]
[ なにもできない相手に、
どうして怒りをぶつけるんだろうね。
何を期待してるんだろう。
黙ってサンドバッグになってろ、とか?
いや、無理でしょ(笑)
って、思わずワラをつけちゃう私は、
やっぱり無神経なのでしょうね ]
[ なにもできない私に、
どうして教えてくれなかったのって思ってしまう私も、
何様?ってやつなのかもしれない。
黙って死を選ばれてしまうのと、
相談されたのに力になれなくて、
結局死を選ぶのを止められないの、
どっちが辛いのかな? ]
……ヒナがご先祖様に愛されてたらいいってこと?
[ あいまいな“関わりの深い”の定義に、
謎は深まる一方です。
ヒナのご先祖様が情の深い人だったらいいのかな?
子孫のピンチのために駆け付けてくれる?
蝶々が舞い花が咲く文化祭の世界ですけど。
ご先祖様世界観が謎すぎてパニックになりそう ]
もやしも安くて美味しいからお勧めしてあげたいね。
[ こんにゃくだけじゃ0カロリーだものね。
勝手なことを言いながら自販機へ。
先生の買ってくれなかったブラックコーヒーが
がこんと自販機から落ちてくる。
そういえば、文化祭のパンケーキ、
たつみ先生も試食したんだっけ。
可愛いパンケーキが
びっくりするほど似合ってなかったと思う ]
[ 自販機コーナー付近はちゃんと暖房が効いてるのね。
缶コーヒーも温かい。
自販機前のベンチに座って、私は上着のボタンを外した。
目ざとくシホが反応する。
うん、スカートだけじゃわかりにくいけど、
上も見えるとばっちり衣装だってわかるよねえ ]
私ね、ヒナの作る衣装好きなの。
思わず服飾関係の進路勧めちゃったくらい。
[ 目を細めるシホに頷いて、私は自分の格好を見下ろした。
ヒナ、喜ぶかな、そうなのかな。
そういうの、私にはわからないんだけど ]
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