3 ディアス家の人々
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− 仮面舞踏会 −
[ ポーチュラカの軽い足音が遠ざかる。 泣かせたり、怒らせたりしないで済んで良かった。
彼女が元気でいれば、屋敷は明るい雰囲気に包まれる。 小さな太陽だ。]
あの子の結婚の妨げになるわけにはいかないな。
[ ぽつりとそんなことを考えていた。]
(23) enju3 2021/01/16(Sat) 19時頃
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[ 外気の温度がだんだんと下がってきて、日が落ちたと知れる。 夜に開く花の香りが届き始めた。
この木はここにあったのか。 見えていた頃には気づかなかった。
手を伸ばして小枝を折り取る。
このくらいの香りなら問題ない──
そう思った理由はよくわからないけれど。]
(24) enju3 2021/01/16(Sat) 19時頃
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[ 一瞬、音楽が途絶えた気がして、振り向けばアリステアが迎えにきていた。]
もう充分に堪能したよ。 仮面を外しにいこう。
[ 先導を促すように、杖の先を軽く浮かせる。*]
(25) enju3 2021/01/16(Sat) 19時頃
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[血のつながりを響かせて辿った先に、花の枝を手にした彼がいる。 白い小さな花は、薄暮に甘く香っていた。]
その香りがお好きですか?
[微笑んで、彼の手を取って、引き寄せる。]
今宵は寝室に、その花を散らしましょうか。
[忍びやかに、秘密めかして、囁く声は艶を帯びた。]
(26) nekomichi 2021/01/16(Sat) 21時半頃
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[彼を先導し、舞踏会の空気から逃れて向かったのは、結局は彼の私室だ。 扉を閉めれば、華やかな賑わいが遠くなる。]
今宵は楽しまれましたか?
[仮面を外す前に、問いかける。]
最後に一曲、私と踊ってくださいますか?
[引き寄せた彼の手に自分の手を乗せて、誘った。*]
(27) nekomichi 2021/01/16(Sat) 21時半頃
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[ 寝室に花を散らすなんて、新婚旅行のようだ。 アリステアの秘密めかした声が、そんな連想をさせる。]
これは、おまえに贈ろうと思って持っていたんだ。
[ まだ触れていなかったこめかみの辺りへ、花の小枝を摘んだ手を伸ばす。 その時点で、「寝室で花を散らす」の複合的な意味に思い至って、苦笑した。 いやはや。なまじっか知識があるのも困り物だ。言わぬが花。]
(28) enju3 2021/01/16(Sat) 23時頃
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[ アリステアの卒のないエスコートで部屋に戻り、ほっと息をつく。 この部屋自体がひとつの仮面、世間体の檻のようなもので、その中にいる限り、ウィリアムはディアス家の次男坊として、そっとしておいてもらえる。]
おおむね楽しかったよ。 …後から振り返れば、今日のことも楽しい思い出になるだろう。
[ アリステアからの質問を、ディアス家の者として分析し、答える。]
(29) enju3 2021/01/16(Sat) 23時頃
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[ ダンスの誘いに、そっと微笑んだ。]
おまえがワルツの名手であっても、もはや驚かないよ。
[ ここでなら、他の者とぶつかる心配もない。 重ねられた手をとり、くるりと回した。*]
(30) enju3 2021/01/16(Sat) 23時頃
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私に贈り物とは、ありがとうございます。
[さすがに彼の心の中までは読めないけれど、髪に挿された花の小枝はいっそう甘く香るようだった。 彼は香りに溺れたあの夜のことを覚えていないだろうけれど、きっと体は覚えている。]
こうしていれば、香りだけでもあなたを導けるかもしれませんね。
[悪戯な声で言って、けれどエスコートはしっかりと手を触れて行った。*]
(31) nekomichi 2021/01/17(Sun) 11時頃
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[部屋の中にいても、楽団の奏でる曲が遠く聞こえてくる。 曲に合わせ、彼が導くまま軽やかに回った。
互いの息を感じる程近く胸を合わせ、歩調を揃えてステップを踏む。 部屋の中を巡るほどに、花の香りが軌跡となって残った。
一曲を踊り終えても手は離さず、彼の腰をそっと抱き寄せる。]
仮面の時間はこれでおしまい。
[囁く声は濡れた吐息に滲む。 片手を彼の顔に伸ばし、仮面を外した。*]
(32) nekomichi 2021/01/17(Sun) 11時頃
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[ アリステアをパートナーに、ワルツを踊る。 こんなに気兼ねなく身体を動かしたのは久しぶりだ。
ついてこられるかと挑発するように、大きくステップを踏んでは、流れるような彼の動きに笑みを深くする。 さて、この腕に抱いているのは、しなやかな黒猫だろうか。
彼から、昨日、階段を落ちた時の後遺症は感じられない。 そのことに安堵する。
血が巡る中に、花の香りも旋舞して、華やいだ雰囲気を増していた。 闇の中、二人きりの舞踏会。]
(33) enju3 2021/01/17(Sun) 19時頃
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[ 息があがることはなかったけれど、曲は終盤に差し掛かり、やがて音は消えてゆく。
名残のように身体を寄せたまま、アリステアの手が仮面を外した。 それで視界が変わるわけでもなかったけれど、ウィリアムは小さく息を吐く。
魔法が解ければ、二人の立場は主人と使用人。 見えない世界で生きる術を模索する貴族の青年と、その身の回りの世話をする従者だ。]
おまえの望みは、これで良かったのか?
[ 「これでおしまい」で。*]
(34) enju3 2021/01/17(Sun) 19時頃
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[彼は、仮面の意味をはき違えている。 当然だ。 そこに別の意味があることなど、表の世界に生きる人間は気付かない。]
もちろん。 私の望みはあなたを――
[これで良かったのか、と紡いだ彼の唇に人差し指を当てる。 静かに、の形を作った指で彼の頬を撫でたあと、自分の仮面を外した。 テーブルに置かれた黒猫の仮面は、笑っているかのよう。]
おまえを、永久に私のものとすること。 ただそれだけだよ。
["仮面"を外しただけで空気を白檀の森に変えて、魔性は手にした獲物を掻き抱く。]
(35) nekomichi 2021/01/17(Sun) 21時半頃
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今宵、いよいよ、おまえを連れ帰る事ができる。
一緒に来てくれるね?
[声の一つ一つが艶やかな力を帯び、 同時に喜びに満ちあふれていた。*]
(36) nekomichi 2021/01/17(Sun) 21時半頃
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[ 唇に絹の指が立てられた。 言葉は要らない──あるいは、言葉以上のものを知れと。
彼もまた仮面を外し、素顔となる。
──窓が開いたわけでもないのに、空気が一変した。
神秘的な深みと広がりを感じる。 ここで交わされる言葉は、神託にも等しいだろう。]
(37) enju3 2021/01/17(Sun) 22時半頃
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[ 私のもの、と主従が逆転したかのような言葉に、ウィリアムは唇を引き結ぶ。]
おまえと、こういう話をしたのは、 今夜が初めてだろうか?
[ あまりに自信ありげなアリステアの様子に引きずられまいと、腰に回された手首を握る。*]
(38) enju3 2021/01/17(Sun) 22時半頃
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[手首を握る掌の圧が心地よい。 彼の声に潜むのは、畏れか。 超自然のものに対した時の、人間の自然な反応。
警戒するように、確かめるように彼が問う。 それに微笑み、頷き、彼に届くように言葉にした。]
その通りだとも。 私たちは夜ごと、語らった。 言葉と、それ以外の言語をもって。
[交わしたのは言葉だけではない。 それを示すよう、握られた手の指で、彼の手首をなぞる。*]
(39) nekomichi 2021/01/17(Sun) 23時半頃
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[ 意味深な様子でアリステアは答える。
彼が伺候してまだ月はひとつ巡っていないが、 その間の夜毎の語らいといったものを、]
おれは覚えていない。
[ きっぱりと断言する。
優しく触れてくる彼の指に、記憶とは違うものがざわつくけれど。*]
(40) enju3 2021/01/18(Mon) 00時頃
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そうだろうとも。
[断言した彼を鷹揚に認める。]
私が、そうした。 おまえの傍らに立ち続けるために。
夜ごとの記憶を夢に変えて眠らせた。 けれども、おまえの体は覚えているはずだよ。
私との触れあいを、全て。
[自由な方の手で、彼の胸に触れる。 ただ触れていることを伝えるだけの軽さで。*]
(41) nekomichi 2021/01/18(Mon) 11時頃
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[ 軽く、彼の手が胸の上に置かれた。 心音が跳ねるのを感じる。]
──…、
おまえがこの場で嘘をつくとは思ってない。 どのような方法で記憶操作を行ったのかも、一旦、置いておく。
ただ、おまえはこれまでしてきたことを、今日になって変え、 おれを連れて、どこかへ帰ろうとしている。
[ 状況を整理するように恬淡と語るが、脈はいつもより速かった。]
(42) enju3 2021/01/18(Mon) 11時半頃
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おまえが用意している場所でおまえは、これまでと同じようにおれに仕えてくれるのか?
[ 指を彼の顔の輪郭に滑らせ、顎に軽く添える。*]
(43) enju3 2021/01/18(Mon) 11時半頃
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[彼の指が輪郭を伝う。 その傲慢なまでに優雅な仕草は、きっと自分と似ている。
彼の手を取って、口に運んだ。 人差し指を歯の間に挟んで、ちろりと舐める。]
仕えるのではないよ。
おまえを愛する。 私の全てをかけて。
[中指の背に口付ける仕草は貴人への礼法に似て、もっと親密で深いものなのだった。*]
(44) nekomichi 2021/01/18(Mon) 12時頃
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[ 指先に濡れた暖かなものを感じた瞬間、思わず吐息が漏れる。]
おまえがここに来たのは、「愛」のためだったか、スペンサー。
[ どこで見染めたものやら、相変わらず謎の多い従者だった。]
不思議なものだな、そう言われてみると、自分の不甲斐なさを、なんとかしなければならないという闘争心に火がつく。
(45) enju3 2021/01/18(Mon) 12時半頃
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──おれは、おまえに囲われる気はない。
[ 接吻けを伴って恭しく捧げ持つ所作をする彼の手指に、己の指を絡ませて繋ぐ。]
おれが自立して活計の道を見つけ、家族に祝福されてこの屋敷を出ていけるようになるまで、力を貸せ。
[ それとも、おまえが欲しいのは逃げ出す心配のない盲目の人間か、と挑発的に嘯いた。*]
(46) enju3 2021/01/18(Mon) 12時半頃
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[絡まりあう指の熱が互いを巡る。 これは、互いに譲れないものを賭けた交渉だ。 それができる相手だからこそ、愛おしい。]
おまえは、私をどれだけ待たせるつもりだい? 今この瞬間にも、連れ去りたいと願っている者を。
[溜息のような声に情感が籠もる。]
私はおまえを遺漏なく私のものとするために、 これまでの時間を費やしてきた。
… もう、待てない。
[一歩を踏みだし、距離を詰める。 唇が触れあいそうな距離で、掠れた声で求める。]
(47) nekomichi 2021/01/18(Mon) 16時半頃
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[今までの夜は、このまま唇を合わせてベッドに押し倒していたものだ。 けれども、今欲しいのは彼の体だけではない。]
―――…、 けれども、 おまえが家族を思う気持ちはわかる。 私も、短い間だが共に暮らして、多少の情はある。
彼らに祝福されて送り出されたいというなら、待とう。 そうなるように、私が手を打とう。
ただ――
おまえの行く先に、人間としての暮らしは無いよ。
[穏やかな声で、端的に事実を告げる。*]
(48) nekomichi 2021/01/18(Mon) 16時半頃
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[ 息と白檀の香りが触れる距離に彼の顔があるのを感じる。 彼の声は、直接、肌に伝わるかのよう。]
ああ、おまえに意地悪をするつもりはなかった。 ただ、結果として、随分と焦らしてしまったようだ。
[ 同情の色を込めて謝り、まだ待つと言ってくれた彼に謝意を示した。]
(49) enju3 2021/01/18(Mon) 17時半頃
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[ 彼の求めに応じるならば、自分は家族に祝福されてここを出てゆくことになる。 もっとも、「人間としての暮らしはない」と彼が断言するからには、家族には「自立してしっかりやっている」と偽装をするということなのだろうが、そこは──妥協するしかないと割り切った。 傷痍軍人としての引目がある。 迷惑や心配をかけなければ御の字だろう。]
──了解した。 おまえが用意する新しい生活を、始める。
[ いくらか硬い表情で受諾を伝えてから、任せた、頼むと依願する。これは、望外のチャンスに違いない。
場違いだろうが、嫁ぐというのは、こういうものなのだろうかと思った。]
(50) enju3 2021/01/18(Mon) 17時半頃
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しかし、人間らしく扱う気がなくても、愛はあるのか?
[ 彼は、全てをかけてとまで言った。ペット扱いされる予感はしていない。 素直に、彼の世界観が想像できていないことを伝える。]
…それと…、おれがおまえを愛していないままでも、いいのか?
[ これではおまえを利用しているようだと、案じた。*]
(51) enju3 2021/01/18(Mon) 17時半頃
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[誠意を感じさせる声で謝罪し、用意された将来を受け入れる。 不安は多いだろうに、全てを任せてくれる彼は愛おしい。 いや。これは私を信じてくれているということか。
想いが溢れて、彼を抱き寄せた。]
愛は、時間を掛けて育めばいい。 先に恋に落ちたのは私なのだから、 おまえに愛される努力は惜しまないよ。
[いずれは同じ想いを抱いてくれる。 それを疑わない声で告げる。]
(52) nekomichi 2021/01/18(Mon) 18時半頃
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