16 魔界のミッドウィンター祭【R18】
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『私が魔王様にお仕えしてから、ずいぶんになります。 年数は、数えたことはありませんが。
――― そう、ですね。 私の体は細胞のひとかけらまで魔王様のものですから。 普通の人間とは違うでしょう。』
[片手を曲げ、陶然とした顔で自分の体を抱きしめる。 魔王を崇拝する眼差しがそこにあった。**]
(28) 2021/12/16(Thu) 18時半頃
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[従者の視線に冷たいものを感じる。同情や親切ではなく、職務として声をかけてくれたのだろう。まあ内心がどうであれ、ありがたいことには変わりないが。
問いに対する従者の答えは、身体を作り変えられているという意味とも、それほど深い気持ちであるという意味のどちらにも受け取れた。 ただ、この従者は魂が尽きる時まで魔王に仕えるのだろうということだけは分かる。]
なるほど。魔王様ほどの方になると、お仕えになられている方の忠誠心も桁違いですね。素晴らしいことです。
[羨ましいという呟きは宴の喧騒に混じる。 さて、魂の瓶を置かせてもらえる場所は静かてあると良いのだが。*]
(29) 2021/12/16(Thu) 22時頃
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[ 瞬くほどの間に、光る獣は獣人に変化していた。 禍々しくも── どこか優しげな造形。 彼は天使が離した槍を掴み、話しかけてくる。
獣口が発した肉声は、先ほど”伝えられた”のと同じく、知性を感じさせる豊かなものだ。 告げられた内容は、天使にとって思慮深いものとみなすことはできずとも。]
(30) 2021/12/16(Thu) 22時頃
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[ 己が欲するまま逞しい腕によって放たれた天使の槍は、元の持ち主へと向かう。
これまで幾足もの天使たちを光に帰してきた執行の道具。 使い手が天に属する者でないとはいえ、その威力は目を瞠るものだった。
穿たれた天使の片翼が砕け散る。 慈悲の刃ゆえ、痛みはなかったが、衝撃は大きかった。
倒れるまいと蹈鞴を踏みながら天使は天を仰ぐ。 仲間たちとの繋がりが切れかけていた。 “救い”は望めない。
天使は徒手で構え、獣人を睨みつける。 その背では、はらはらと純白の羽が散り続けていた。*]
(31) 2021/12/16(Thu) 22時半頃
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『ありがとうございます。 あなたにも良きご縁が有りますよう。』
[賛辞をそのまま受け取って、青年は頭を下げる。 願う言葉は、半ばは世辞以上の本心であるようだった。 従者、伴侶、愛玩者、なにかそういったものに巡り会えるようにと。
喧噪に紛れた呟きを聞き取ったか否かは、判然としない。]
(32) 2021/12/16(Thu) 23時半頃
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[騒がしい広場を抜けて、屋根の有る場所へと入る。 建物を繋ぐ回廊の中にも楽しんでいる魔物らはいたが、もっと静かで、落ち着いた雰囲気になっていた。 さらにその一角、重い扉の中へと青年は案内する。]
『こちらがクロークルームとなっています。』
[指し示したカウンターには偏屈そうな老人が座っている。 周囲では小人らがせわしなく駆け回り、ものをしまったり服を畳んだり汚れを落としたりと働いていた。 どちらも妖精のたぐいである。**]
(33) 2021/12/16(Thu) 23時半頃
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[投擲した槍が天使の片翼を打ち砕く。 なるほど天使を光に帰すための武器らしい。 その威力は絶大だ。 ここは片翼だけで済んで良かった、というべきだろう。
よろめいた天使が天を仰ぎ、身構える。 睨み付けられる間に、彼我の距離をひとまたぎに詰めた。 そのまま肩口から、相手の体を突き上げるようにぶつかっていく。]
(34) 2021/12/17(Fri) 00時頃
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[同時に、絡み合う角が閃光を発した。 逆立つ毛並みから細い光が伸び、絡まりあうように天使を包んでいく。
光に弱い魔物ならば拘束するも消滅させるも自在の攻撃だが、天使相手にどれほどの効果があるのか、あるいは癒やしやその他の効果に変換されるのかは、いまのところ未知数だった。**]
(35) 2021/12/17(Fri) 00時頃
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[ 一呼吸置く間もなく獣人が仕掛けてくる。 片翼の天使では、その威力と速さに抗し切れなかった。
激突し、体ごと持ち上げられる。 角から放たれる閃光に痛みは感じなかったが、肌を撫でられる違和感には顔をしかめた。 眠りに誘うかのごとき柔らかさだ。
逆立つ毛並みからも光が伸びているのに気づかなかったということは、閃光は一種の目眩しにもなっていたのだろう。]
(36) 2021/12/17(Fri) 08時頃
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[ 同朋でもないものと、こんなに長く接しているのは初めてだ。 被毛のせいか自分より高い体温、筋肉の動きさえわかる。 圧されている戦況ばかりではなく、どこか落ち着かない。
体毛に絡まれて動きづらいながらに身を捩って逃れようとするのと、獣人の角を掴んで首を捻じ折るのを同時にやってのけようと力を振り絞る。
もはや帰還の機は逃したことを察しつつ、闘いを止めるつもりはない。*]
(37) 2021/12/17(Fri) 08時頃
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[体当たりの衝撃で天使の体が持ち上がる。 それに耐えて角を掴んでこようとするので、機先を制して足を抱え込み、肩に担ぎ上げた。]
暴れるな。頭を打つぞ。
[忠告した後に、前触れもなく跳躍する。 天使の足を押さえている腕以外、三本の手足を使って高く飛び跳ね、素早く駆けた。
熱狂も終盤の狩りの場を離れて、帰還の途につく。 担いだ天使が暴れて落ちないように、しっかりと光の網に包んでおいた。*]
(38) 2021/12/17(Fri) 14時頃
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[>>32良きご縁をとの言葉には微笑んで頷く。 気のせいかもしれないが先程までの会話と比べて、今の言葉には暖かみがあったような気がした。
広場から場所を移し建物の中に入ると、たいぶ静かになった。 クロークルームに到着し、従者が指し示した先を確認すると頭を下げた。]
ありがとうございました。後は私一人で大丈夫です。
[これも彼にとって仕事の一環ではあろうが、きっと魔王自身の世話をする方が好きに違いないし。]
(39) 2021/12/17(Fri) 17時頃
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[ 足に腕を回され、光の網に拘束される。 見た目には美しくとも、この毛は天界のものとは違って、上手く操れない。 そして、天使を存在ごと解放してくれる救けの手も差し伸べられることはないのだった。
無体を強いておきながら、獣人は気遣うような言葉もかけてくる。 暴れるのが嫌ならば離せばいいものを── と苦い顔をしたところで、この獣人が天使を連れ帰ろうと画策しているのを思い出した。
片翼になった時点でもう充分に傷物だろうに、気は変わらないのか。 ]
(40) 2021/12/17(Fri) 21時頃
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[ 天使を担ぎ上げたまま、獣人は跳躍した。 傍から見れば見事なものだったろうが、自分で飛ぶのとは異なる重圧と、混沌たる情景に天使は息を詰めた。
瞬く間に地表が遠のく。
そこに残りたいわけではなかったけれど、連れて行かれたくもないと、光る毛に噛み付いてやる。*]
(41) 2021/12/17(Fri) 21時頃
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