31 私を■したあなたたちへ
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『 あなたは、何も知らない 』
それが、黒須ワに向けられた最後の言葉。
目の前が真っ暗になったけど、知れば再び彼氏の座に返り咲けるのかと、ポジティブに曲解してるくあの"見守り"を開始した。世間一般にはストーキングと呼ばれる行為。 手始めに彼女の好きなものを調査した。星が好き、歌舞伎が好き、ほうじ茶が好き、流行には興味なさそうに見えたのに、ある時急に同年代に人気のCDを漁り出したのは、一過性のブームだったのかな? るくあと交流がある者なら誰でも知ってそうな情報でも、積み重ねれば何かが起こる気がしてた。
(214) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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「ごめんね、るくあ。 僕はあの時も、今も、 やっぱりキミのことが分からない。
――知れば、何か変わっていたの? 今更知っても、キミは生き返ったりしないのに?」
ゴンドラが最高度にさしかかる。黄昏の空の果て、水平線に沈みゆく太陽が、波間をキラキラと黄金色に輝かせている。
(215) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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「……違うな、知りたくないんだ。 キミは知って欲しかったんだろうけど。
表面的な情報で組み立てた 虚像に恋してる方が楽だから。
真実を知るのが怖い。
だから、ごめん。 あの日、キミは確かに僕を見つけてくれたのに。 僕は本当のるくあを見つけられそうにないよ。」
彼女の髪で編まれた腕輪を撫でて、ごめんと心で繰り返す。 それから、窓枠に手をかけ、えいやと一気に開け放った。途端に、一陣の風がゴンドラ内に吹き込んでくる。髪先が、大振りのピアスが、衣装の裾が、びゅうびゅうバタバタうるさいほどにはためいて。
(216) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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「園内にお花屋さんはなかったから、 キミのお墓に手向ける花はコレにするね。
……そういえば、るくあの好きな花は知らない。 だから、コレだけは僕の好みなのかも。
るくあと、るくあに纏るもの以外、 僕自身の好きなものとか何もない、 薄っぺらで空っぽな人間だけど。」
ウィッグの髪を束ねるコームには、デフォルメされた向日葵が咲いている。引き抜いて、ぽいっと窓から放り投げた。園内のどこに落ちたかも、目で追わず。
「向日葵の花言葉は、『あなただけを見つめる』だよ。
……太陽の方を、ずっと、ずっと、 追い駆けて"見守って"る花だ。」
ゴンドラが地に着くまで窓を開けたまま、風が頬を撫でるに任せ、甘やかな感傷に*浸っていた。*
(217) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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――夜/ホテル――
園内スピーカーから大音量でパレードの曲が流れてだす(>>219)。アップテンポの明るい曲調、心踊る軽快なメロディとリズムは、単純な繰り返しですぐに観客も巻き込めるように計算されている。合奏に時折ピコピコ電子音が混ざるのが、モナリザたちの動きと絶妙にマッチして、整然と進むパレードを盛り上げていた。 そんな華やかな行列を逆行して、並行二輪車はホテルの方に向かっていた。一瞬目を奪われはするけど、観客も疎らなパレードは、どこか虚ろで寒々しい。闇夜にクッキリ浮かび上がるようにライティングされたギャラクシーランドの、なるべく暗い箇所を偲び行く。
(235) 2023/11/22(Wed) 14時半頃
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部屋に戻ると、軽くシャワーを浴びて服を着替えた。あのウィッグはもう被らずに。中学校の制服は、さすがにサイズが合わなかったから、黒いシャツにデニム、鉛色のパーカーという無彩色の装束(ストーキング時の基本スタイル)で、顔にも余計な色は一切のせない。 街の雑踏なら周囲に溶け込めるのに、賑々しいネオンとレーザーライトの中では、キャンディの姿より浮いてしまいそうだ。
宛がわれた部屋をざっと片付けて、キャンディの衣装一式は纏めてクローゼットの隅に。カメラとタブレットを取り出すと、遊園地を訪れてからの動画を全て削除した。
「――――ごめんな。」
準備が整うと、黒須ワはひっそりとホテルを*抜け出した。*
(236) 2023/11/22(Wed) 14時半頃
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――夜/園内通路――
「ほら、やっぱり知らない方が良かった。」
パレードが終わる前に届いた、キランディこと中村某からの自白。本人にはさぞかし葛藤もあったろうが、犯人探しの幕切れは呆気なく、真相は予想の範疇内だった。他の誰でもなく"推し"に片棒を担がせたこと、何故死にたかったのか、その他信奉者に囲まれたるくあ本人の事情は、何一つ分からなかったけれど。
――まあ自分がるくあに「死にたい」なんて言われたら、あっさり「じゃあ一緒に死のう」って快諾した挙句、凄惨な殺害事件現場が出来上がってしまう。賢明な判断ではある。
復讐の故ではなく、るくあに選ばれ頼られたという点で、殺したいほど羨ましくはあったが、それは招待主や他の脱出したい者が考えればいいことだ。るくあが死んだ事実は何も変わらない。
(262) 2023/11/22(Wed) 19時半頃
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送信ボタンを押した瞬間、遠く背後で水柱が上がった(>>259)。ドォンと地響きの後、産毛がピリッとする程度の空気の震え。
「……パレードのラスト、 花火でも打上げ損なったのかな。」
もしくは、異星人の侵略的演出なのだろうか。エアビームセイバーを握って、近くのモナリザを袈裟斬りにする仕種。ノリの良いロボットは、数秒停止した後、プシューと蒸気を噴いて倒れる演出をしてくれた。
「上手上手。キミ、パレードのメンツに 何で選ばれなかったんだろうね?
さて、ウィッグが吹っ飛ぶ心配もなくなったし、 これでやっとジェットコースターにも乗れる!」
演技派モナリザを助け起こしてから、眩しい夜の遊園地をのんびり移動する。あわや全滅の危機が誰かの手によって回避されたことなど、知りもしないまま。
(301) 2023/11/22(Wed) 23時頃
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