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[ 入院手続きに行くからと
病室を出ようとしたお婆ちゃんの手首をつかんで、
俺はお婆ちゃんを引き留めながら、小さく笑う。 ]
来てくれてありがとう、嬉しい……。
[ そういうと、お婆ちゃんはぽろぽろと泣きながら
俺を抱き締めてくれたんだ。
「今までごめんね」と言うお婆ちゃんの言葉に、
俺は何度も首を横に振りながら、
お婆ちゃんのいつの間にか痩せて薄くなった体に
腕を回したんだ。 ]
[ それから、お婆ちゃんとはいくつか話をしたけど、
「病み上がりだから休んでなさい」と言われて、
入院手続きのために病室を後にするお婆ちゃんを
横になりながら見送った。
病室に一人になると、俺はスマホを開く。
研究室のメンバー以外の人から
俺のことを心配するメッセージが大量に届いていて、
ちゃんと元気な振りして返信できる気が
しなかったから、未読スルーの形になる。
もし読んでいたら、事故の詳細について
少しは知れたかもしれなかったけど。>>3:*4
とにかく、もうスマホは放置しようか
というタイミングで、
グループLINEの通知が届いた。
あ、骨谷先輩。
はは、どう笑えばいいんすか、これ。
[ 乾いた笑いを浮かべつつ、
俺もぽちぽちとメッセージを送る。
『福原徳人 今起きました』
『頭に怪我しましたが元気です』
『休憩スペース俺も行きます』 ]
さてと、移動しますか。
[ ベッドから起き上がって、俺はスリッパを履いた。
ちなみに俺は、ノックして問題ないと言われたら、
常識の範囲内で銀先輩の病室を見舞うことは
悪ではないと思っている。
―― 病院・2階休憩スペース ――
骨谷先輩、おはようございます?
[ 休憩スペースにやってきた俺は、
骨谷先輩の姿を見つけると声を掛けて、
先輩の向かいの席に座ろうかと近寄った。
俺は何ともない調子で声を掛けたけど、
頭に包帯を巻いている俺を見て、
骨谷先輩はどう思ったかな。 ]*
メモを貼った。
[オレは腰を浮かせて周囲を見回して、
気のせいだったかと座り直すも、
どうにも落ち着かない。
小さな子供の声って、やたら神経に引っ掛かる。
アラートなんだから、本能としては
それが正しいんだろうけど。]
…………こんばわー。
ノっくん、頭大丈夫?
[訝るオレに声をかけたのは、子供でなく
目覚めし者――ノっ君だった。
ボケの応酬に正しい時刻の挨拶を返す。
夢の中のタカナル先輩の腕はスルーできたけど、
さすがにリアルで頭に包帯は看過できなかった。
何とも失礼な心配の言葉になったのはご愛敬。
此方の頬のガーゼは、説明するまでもない、
35億分の一の破局の結果。]
ここに来るまでに、
子供とすれ違えへんかった?
なんか、泣き声みたいの、聞こえて――、
[それとも、夢の余波か幻聴で
オレがおかしいこと口走っているのだろうか。
普通に考えれば、子供が迷い込むはずのない
時間と場所で。誰かの御見舞いではぐれたにしろ。
オレは眉間に皺寄せ深刻な面持ちで、
包帯男と化したノっ君に問う。*]
―― 病院・2階休憩スペース ――
はい、こんばんは?
[ 時間間隔がない頭だったが、
そうかもう夜だったのか、なんて思いながら、
はい、頭の出血は止まってますし、
特に問題ないそうっす。
いくつか脳細胞は死んでるかもっすけど、
知能レベルも問題ないはずっすよー。
先輩の頬は……
美術館に行く前のアレってことでいいんすかね。
それとも同じところに新たな怪我を?
[ チラリと骨谷先輩の頬を見つつ、 ]
子供の泣き声。いや、俺は見てないっすけど。
……もしかして、先輩、一瞬居眠りしてませんでした?
それがあの夢の世界だったなら、おそらく――
[ つられたように深刻な気持ちになりながらも、
そこで俺は言葉を切る。
夢の世界で幼児化した田端先輩のことを
俺は思い出していたのだけど、
勝手に言い触らすのも憚られたから。 ]*
――病室
[半身を起こしても痛みや気怠さがなかったため
そのまま立ち上がろうとして、足首に巻かれた包帯と、
その部分が左右で僅かに嵩が違うことに気づく。
ナースコールを押しての病室での診察で、
外傷は右足首の捻挫程度であることを知った。
杖の必要はなさそうだが、すぐに退院というわけには行かないようだ。]
……腫れてると思うと
急に痛い気がしてくるわね。
[ひとりになると病室内を見回して、
床頭台に置かれた自身のバッグを手に取った。
病室内での携帯の使用は許可されている。
何件かの通知。
家族へ連絡が行っているのだろう。
母と姉から安否を問うLINEにまずは返信を。]
『銀です 検査結果待ちだけど
ケガは足の捻挫ぐらいで概ね元気✨
皆の具合はどうでしょうか』
[グループLINEへ送信。
頭を怪我したという福原は気になったが、
併せて元気とも書かれていたため、差し当たって
言及を避けた。
ついさっきまで、夢の中で遣り取りした
皆のメッセージは残っていない。
骨谷から届いたメッセージ以前の履歴の日時は
美術館に着く前のもの。
判りきっていたことなのに、物寂しい心地になる。]
『統一したモチーフで考えていないなら
私は蔓(葡萄か藤)とカギを組み合わせた
デザインがいいな』
[こちらは骨谷への個人メッセージで送った。]
[ぽふんとベッドに仰向けになって目を瞑る。
もう十分に夢を見たのだ。
眠気はすぐに訪れる気配を見せない。]
…………。
[――――回谷か大藤か田端。
ひとりずつの顔が浮かんでは消える。
胸の辺りが重くなるのが分かって、
考えることをやめた。**]
アリババ氏の宣告通り、
目覚めてるみたいでよかった。
いや刻一刻と、寝覚め悪い事態には
なってってるけどなあ。
[一度、目眩いを堪えるように
額を押さえて目を瞑る。
耳鳴りのように、また幼子の声が響く。]
――っごめ、うん。
まだちょっと、油断すると意識が
引っ張られるみたいな感じするな。
[もし、その声の主を視認したなら、
タバたん先輩の隠し子かと疑ったかも知れない、が
必死に子守りするニトちゃんとメグココちゃん含め、
未だ見ぬ夢の切れ端。]
脳細胞とか恐いこと言うなあ。
オレの方も、うん。
シロマちゃんみたいに、
更に自罰を加えたりはしてない。
この災害ってもう
ニュースになってるのかな?
身内(とアカリん)からの安否確認がすごくて……。
[そういえば、夢の中ではお揃いの赤手形があったけど、
現実のシロマちゃんは打撲も鼻血もないはずで。
あったことと、なかったこと、まだ相当混乱しているオレだった。*]
―― 病院・2階休憩スペース ――
そうですね。
……きっともう少ししたら
アリババさんの最後の宣告があるでしょうし。
って、大丈夫ですかっ?!
[ 額を押さえる目を瞑る姿に、
俺は思わず大きな声をあげながら、 ]
そうなんですね。
あまり無理しないで寝てしまうのも手なのでしょうが、
あの夢の世界に行くのも怖くはありますし、ね。
[ あの夢の世界の見え方も>>3:*2
人それぞれといったところなのか。
きっと、優しくて繊細な先輩は、誰かの死の宣告を
今か今かと待ち受けるのも辛いのではないかと。 ]
え、恐いっすかね?
頭叩いたら馬鹿になるってノリだったんすけど。
……まあ、冗談にしてはブラックでしたかね。
すみません。
いや、自罰とは思ってませんでしたけど、
その様子だと、壁とか展示物とかに
ぶつかったわけじゃなさそうですね。良かったです。
ニュースは、なってる可能性がありますね。
俺も友達から連絡たくさん来てましたし。
でも、俺、ニュース見るの怖くて、
連絡し返したりもできてないんですけど。
[ 安否確認が多いということに同意しつつも、
俺はうまく友達に返信できるか以上に、
無意識のうちに誰が亡くなったのか知るのを
先延ばししたかったんだなと自覚した。 ]*
ノっくんも、まだあっち側が見えるんだな。
[現実で、起きた後で同じ夢の続きを見るのは
至難の業だが、未だオレたちの夢は
アリババ氏の介入を許している。
きっと、最期の決する時まで――。
怖くはある、とノっ君の言に、オレは重々しく頷いた。]
……タカナル先輩は生き残った側の責任を説いていた。
ノっ君は、自分でも構わない的なこと言ってたけど、
恨まれる覚悟、できた?
[潰れた林檎の命運は決している。
「何故自分が」と他者を恨む人物かどうかは分からないけど。
本人がどう思おうと、残る9人は何かしら背負うことになる。]
オレ1人じゃあ、重責に潰されそうだけど。
9分の1ずつ、皆で背負おう――な。
オレも億劫で返信してないや。
いい感じの文言思いついたらコピペさせて。
[何とも誠意のない提案を一つ。
正直、犠牲の方が気掛かりでたまらなくて、
無事だった自分とその周囲へ配慮する余裕なぞない。]
アリババ氏も言ってたけど、
目を醒ませないのが誰なのか、
現時点では神様以外知りようがないみたいだし。
理不尽は承知で、オレらに今できることってないよな。
[そしてふと、LINE通知と文面に目元を和らげる。]
シロマちゃんも、無事お目覚めだってさ。
[来るまで待つも、ノっ君という味方を伴い
病室訪問イベントにチャレンジするもOKだ。**]
メモを貼った。
―― 病院・2階休憩スペース ――
そうですね。俺も見えますし、
おそらくは銀先輩や柊くんも、きっと。
恨まれる覚悟、ですか。
[ その問いに俺は肯定も否定もしない。
だって、そんなものとっくの昔にできていた。
俺が生きて、健全な結果にならなかったことを
世界に対して呆れながら、
それでも、それにより死者からどう思われようとも、
それは仕方ないことだって、
あのときからずっと思っていたのだから。
そうですね。仮に恨まれたって、
俺たちの責任は1/9です。
骨谷先輩だけの責任にはさせないですよ。
はは、善処します。
[ 誠意のない提案には、乾いた笑いを返した。
今はいい文言なんて思い浮かばないし、
きっと、亡くなった人が誰なのか分かれば、
さらに思い浮かばないだろうことは
容易に想像できて、 ]
たしかに、結論が分からない限りは、
俺たちに出来ることってないですよねえ。
西門教授や銀先輩、柊くんに心のケアが必要かとか、
もうすぐ目覚める高祈先輩と仁科ちゃんを
どう迎えるかとかを考えるかくらい、ですかね。
[ それから、先輩につられるように、
俺も銀先輩のメッセージを見て、
そうですね。
もしここまで来れそうなら、銀先輩の顔も見たいですが。
[ おそらく銀先輩の足の捻挫というのは
本当だとは思うけど、
今は一人でいたいために、
休憩スペースまで移動できない言い訳として
捻挫と言った可能性もあるし、
銀先輩の病室へ訪問するのは
止めておいた方が無難かなと思いつつ。 ]**
メモを貼った。
【人】 忘我共同体 ニトカ―― キッチンとか ―― (114) 2023/08/03(Thu) 02時頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ[気にはなるが、火を触っているときは集中だ。 (115) 2023/08/03(Thu) 02時頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ ・・・あのね、さっちゃん。 (116) 2023/08/03(Thu) 02時頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ[田端先輩の“悪夢”の片鱗が見えた気がしてため息をつく。 (117) 2023/08/03(Thu) 02時半頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ―少し後― (124) 2023/08/03(Thu) 06時頃 |
―― 夢の中 ――
[ 夢の世界の場面は、
いつの間にかカフェへと切り替わる。
幼い田端先輩と回谷先輩、仁科ちゃんが
食事をしている風景を眺めつつも、
田端先輩の話を聞く限り、
これは幼児退行というよりも、
悪夢といった方がしっくりくるのかもしれない。 ]
誰も産んでくれなんて頼んでないのにね。
[ 育児って子供の衣食住だけを
満たせばいいわけじゃないはずなんだけどなあ。
なんて思いつつも。
俺はそもそも田端先輩の両親が、
育児する気もなかったのではないかなんて
そんな思考にも至らなかったから。
メモを貼った。
メモを貼った。
[挫いて腫れた足は今更のように痛みを訴えてくるのだが、
眠りにも就けず、足以外は元気ともなると手持無沙汰ではある。
放っておくと沈む思考。
なら、何かで気を紛らわせた方がいい。
スマホは逆効果に思えて、枕元に置き去りにして
病室を出た。
休憩スペースには福原と骨谷がいるのだろう。
確認だけはしようと、階段ではなくエレベーターで
階下へと降りる。]
――二階:休憩スペース
あら、痛そう……、
でも二人とも無事でよかったわ。
[福原の頭に巻かれた包帯と骨谷の頬に残る手形を
認めて呟いた。
西門には会えなかったと骨谷のメッセージにあった。
柊も同様だろうか、今はただ待つしかないのだが。]
病院って退屈ね。
鑑賞できるものもないし。
[ところどころ配置してある絵画に、
銀の目を引くものはなかった。
美術館に行った後だ、特にそう感じる。]
[スペース内に設置されている自動販売機で
飲みものを購入する。
空腹を覚えていたが、病院の食事時間まで間があった。
生者の世界では夢の中のようには自由に、
食材を手に入れることができない。
少しでも足しに、と選んだ炭酸飲料で
喉を潤す。**]
メモを貼った。
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