27 【crush appleU〜誰の林檎が砕けたの?】
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[一度として確信に触れようとも手を取ろうともせず、気まぐれに寄ってはくだらない話に付き合わせるばかりの関係性だった。 けれど長い沈黙にはすっかり慣れて、微細な変化にも気付けるようになっていた。 だけど今のような感情を示されたことは、無かったと思う。>>105
そんな大藤の様子は、それなりに衝撃だったようだ。 その話を切り上げ、何気なく彼に呼び掛ける為に一度目を逸らす必要があった。
いくつかの長椅子が同じ方向を向いて並んでいる。 成海が座るのはその最前中央だ。 黒い羽撃きは霧散した。同じ長椅子でも少し空いて隣にあるものでも、彼は好きな場所に座れる。]
(108) 2023/08/03(Thu) 00時半頃
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……、え?
[普段と変わらない様子で、ただ一人の死者になる可能性を静かに受け止めているようなことを言う男。 なんと声を掛けたら良いのか黙して思考している時に、思いもよらない話を聞いて間抜けな声が漏れた。>>106
掌には、確かに必要な一枚の硬貨。]
ああ……。とっくに忘れてると思ってたな ふふ、ふ……は、それを心残りにカウントしてくれるとは
──いいよ。君に運命を任せよう 表なら俺、裏なら大藤君が兄だ
[思わず本物の笑いがこみ上げてしまった。 此方は色んなものが内側で渦巻くというのに。 大藤ときたらその言葉選びと口数のようにただ真っ直ぐで、余計なものが無いかのようだ。
そういう彼だから頷いた。心残りを二人で無くそうと思えた。 三分の一で二人目の兄か一人しかいない弟を喪うのだとしても。*]
(109) 2023/08/03(Thu) 00時半頃
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そう言われるとなんだか、恥ずかしくなってきちゃうな
[巫山戯た話を振られても真面目に思考するところがあるとは、以前から知っていたけれど。 そんなにも律儀だとは思わなかった。
大学の七不思議だとか、凄く不味いご当地ジュースが自販機に入っていたとか 反応が見たくて持ってきた話は、思えば本当にくだらなかった。 その分大藤の前では肩の力を抜かせてもらっていたところがあるけど、こんな状況になってしまうと……もっと語るべきことがあった気もしてくる。]
(112) 2023/08/03(Thu) 01時頃
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[宙へ翻り、伏されたコイン。 思わぬことを問いかけられ、彼の顔を思わず見つめた。
どちらでも受け止める気だった。 しかし、そう問うからにはきっと曖昧な返答では駄目なのだろう。]
……俺かな これが大藤君の夢でこっちが弟だった場合 兄を二度喪うことになるから、さ
[元から薄い笑みが、更に微かなものとなる。 無論弟なら平気というわけでも、何の肩書きも無ければ大藤が死んでも構わないということでもない。
本当は戻ってきてほしくても、確定した一人の死者の為に不確かな望みなど残していく気にはなれない。 全員を救えなどという祈りは、天高くの神様には届かないのだから。
答えを待ち、大藤の手元に視線を戻す。**]
(113) 2023/08/03(Thu) 01時頃
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[大藤は面白かったのだそうだ。>>118 あのくだらない話の数々が。
気まぐれに近寄ってそんな話をする同期のことも、 きっと少なくとも不快感は無く見ていたのだろう。]
へえ、そんな風には見えなかったな 君ときたら本当に分かりづらいんだから
[口では茶化しながら、実感するものが一つ。 高祈成海は、大藤久影の日常の中にいたのだ。
これからも続いていくのかは、誰も分からない。 未来の形は今も霧の中にあり、実像が掴めない。]
(133) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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[初めてするような話を絡め、自分勝手に希望する。 それすらも大藤は淡々と受け止めた。>>119
いつもそうだった。 友達には遠く、他人とするには近く。 何とも言い難い距離感を、あるがまま受容している。]
……、そう 神様は何にも叶えてくれないね
[示されたのは反対の結果。>>120 大きな反応はせず、息を吐いて視線を相手から前方に戻した。
現実にある誰かの死を意識していたからだろう。 散々に体験した個人意志の作用についての思考ではなく、小さな落胆が生じた。 ……選んでから、裏切られる。 それは親しくなったかつての他人が亡くなることとどこか似て。]
(134) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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[意図の読めない行動により、向き合った黒と黒。 本当に二人を知り見れば、決して同一ではないと分かる類似性。
やはり、影のようだった。>>121 この奥に何があるのか興味を抱きながら、真に覗き込むことはしていなかった。 もっとまともな人間であれば、覗き返される心配などせずに手を伸ばしたかもしれない。 ──或いはそれでは彼を視界にも入れなかったかもしれないが。
近づく不純物の無い黒を虚ろに眺めている目は、その体温を受けた瞬間に見開かれた。]
(135) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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[後輩との別れを前にした自分と重なる行為に、身体が強張った。 相手を記憶に留めたい利己で腕を伸ばしたのに対して、大藤のそれは成海の為に願うかのような。>>122
誰かに強制されるでもなく、整理できない心のままに同じ色ばかり選んできたことすら ──知りもしない筈のものを、全て知られている錯覚。
成海にとっての彼は、決して踏み込んではこない筈の男だった。 こんな時だから、最後かもしれないからこそ。 既に存在していなかった日常の紛い物は、容易に崩落した。]
(136) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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……っ
[小さく落ちた言葉がふたつ。息が詰まった。 ──悟られた。生還者の義務を果たせなかった。
だとしてもここまで真実を言い当てられるか? ここに来て随分な時間、会ってもいなかったのに。 回谷のような心配ならまだ分かる。
自分だけが関心を向けているような気でいて、 影の中の眼差しがどれくらいこちらを映していたのか 今までずっと分かっていなかったのかもしれない。]
(137) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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うわ、あっ……
[此方の思考も余所に、また予想外の行動。 こんなに乱暴に触れられたことはない。 御曹司に一体何をするのだろうこの男は。 ──耳元に落とされた言葉の通りに、成海を見ているからだろう。]
……簡単にあれこれ言ってくれるよね
[独り言のように落ちたその声は、 本当に言葉の通りに思っているというよりは 複雑なものに恥が混じり、拗ねているかのような。 まさしく弟が兄に反抗しているみたいに。
同期だ、同じような身長だ、体格もそこまで酷い差は無い筈。 けれどそれらと上下の関係が両立する肩書きもある。 髪を乱され笑みの消えた成海に、珍しく口角を上げた大藤。>>123 元より同一ではない合わせ鏡はすっかり壊れてしまった。]
(138) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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……どうしてそんなに、誰かの為に行動できるの 今大変なのは、俺じゃないのに
[明確な答えを求めているというには、語気が弱かった。
──分からない。 自分と違いただただ優しいのだというには、一線を引く気持ちになる程遠い存在に思えなくて。 それはこうして今までなら有り得なかった触れ合いまで行ったからなのかもしれないけど。
置いて行かれる者に弱さを見せてしまった成海には 触れ返す為に手を伸ばすことは、出来なかった。]
(139) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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……ふ
[けれど、遅れてこちらも笑う。たまに彼の口数に感化されていたみたいに。 身体の力はいつの間にか抜けていた。 意識から外れていた背後の存在が、とっくに消えていることに気づいた。]
心配しなくても、生きるとも
[誰もここで成海と関わらなかったとして、きっとそうなった。
自由を得られた一人暮らしで命を絶たず、 この空間で救いを待つみたいに天使に媚びていたのは 結局は惰性の生命活動に勇気が劣っていたということ。
でも、誰かの戻れない日常への帰還の先で 骨谷と、直接約束を果たさないといけない。 福原はきっと、あの時のままに思ってくれる筈だ。 そうして二人目の兄に沢山言葉を貰ったのなら。 無気力ではない生き方を出来るような、努力は試みないといけないかもしれない。誰かと似た誓いをしたように。]
(140) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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……でも、大藤君がもし死んでしまっても俺は
君のことを忘れない、ことある毎に思い出す その度に何回だって傷つく あの時こうすればもっと君と仲良くなったかもとか、 些細なことを悔やみ続ける
[好意的感情、相手との日々がかけがえのなかったことを示す話。
しかしある種大藤の言葉に反しているとも取れるし、己が掲げた義務の放棄とも言える。 消えゆく運命かもしれない者に残していく言葉では無い。
やっぱり呪うことしか出来ないのかもしれない。 だけどどうしてか。自分に出来るか分からない筈の言葉の数々に、今は疑念を抱いていなかった。]
好きに生きてもいいって、俺のお兄様が言ったのだから
[反応の薄さを少しも気にした様子もなく、一人で横で話し掛け続けた時みたいに。 悪びれない様子で、微笑むのだ。**]
(141) 2023/08/03(Thu) 11時頃
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── 一階・ビデオルーム ──
……もう、大丈夫
ちゃんとしてる、とはまだ言えないかもしれないけど 叶わなかったことばかり、考えるのはやめる
[だからもう、弟を心配しなくてもいい。 平等に削れてゆく残り時間を、 これ以上自分の為にばかり使わなくていい。]
君が言ってくれたこと全部、覚えたまま還るよ
[確かに受け取ったつもりだ。
──今までずっと、そうしてくれていたみたいに。*]
(151) 2023/08/03(Thu) 19時頃
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── ビデオルーム ──
[無彩色の黒の中に浮かんだ憂いの色を>>166 覗き込み掬い上げるには、あまりに時間が足りなかった。
まるで本当の兄と弟の如く、心配の糸を解いて 重い希望に「ならそのエゴを背負おう」と返した。 それで、精一杯だった。
これで二人が隣り合う時間が最期ならば、 ──告げた通り、きっと数多の悔恨を残すだろう。 心残りを無くす為に彼に硬貨を弾かせたというのに。
告げられた言葉で思考が切り替わる。>>168 頷いて彼の後に続きビデオルームを出た。 悟れない細やかな重みになど、気づきもせずに。*]
(174) 2023/08/03(Thu) 21時半頃
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── ビデオルーム周辺 ──
さっきはごめんね 大藤君、君にお返しします
[鉢合わせた回谷に、微笑みかけた。>>173 まるでただいつもの調子でそう述べる。 そこに病んだ様子も纏わりつく蝶や何者かも、存在しない。
大藤は勿論物ではなく、成海はただ二人が一緒に自分の元に来た記憶から同行していたのだろうと認識しただけ。 言葉選びが一般的じゃなかったとしても、何の作為もそこには無かった。]
捜索を手伝えなくてすまない どうやらもうすぐ、……時間だ 最後にしないといけないことがあるんだ
[そして大藤に向き直り告げてから、足早に去った。
残された時間は不鮮明。けれど何故だろうか、急き立てられる感覚がある。 他の誰かも感じていたとは知る由もない。>>2:357*]
(175) 2023/08/03(Thu) 21時半頃
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── →カフェ ──
[北館ビデオルームから道なりに中央に向かえば階段がある。 それを降りた先は地下。 ミュージアムショップの前を通り抜け、目的の場所へ。 その道筋で田端は見つからなかった。
人はいないが、いくつか物が動いている気がする。きっと誰かがまた使っていた。 一人歩き回って用意された料理を確認すれば、減った跡もある。 子供も好きそうなものばかりだ。きっと、口に運んでいる間皆が日常に戻れていた筈だ。
柊も手伝ったのだろうけど、どうしてこんなにも沢山の品を一人二人で作れるのだろう? 母親すらろくに料理をしない家で育った成海には、まるで魔法のようだった。]
(190) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[本当ならどれもこれも運びたかったけれど。
何の悔いも無く消えるには気がかりな話があった。 少食の身の上に、肌身に刺すような焦燥感が気になっていた。
それでもどうしても、 あの後輩に言ったことを嘘にはしたくなくて。 どんな気持ちだったとしても皆に残してくれたものに 何一つ手を付けないのは、避けたかった。
少し迷った末にスイートポテトを一つ貰って席に座る。 これは冷めても美味しいものだと知っている。 昔、兄も未だ父にとって都合が良い子供だった幼い頃 よく兄弟におやつとして出されたものだ。
福原がまだいた時の食事では、デザートは無かった。 ……だから丁度良いだろう。]
(191) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[キャラメル色の表面に軽く焦げ目がついた、柔らかな輪郭の菓子。
焼き立てではなくなった筈の今も、甘い香りが漂った。 しっとりとした食感、くどすぎない自然な味。
そこまで大きくはない品なのもあるが、簡単に平らげた。 おにぎり一つに時間をやたらかけた気がしたあの時とは、大違いだ。]
(192) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[綺麗に何も無くなった皿を眺め、ふと思い至る。
あの頃の兄は大きいほうのスイートポテトを弟に譲ったり、 お気に入りの標本コレクションを自慢してきたり。 年齢相応の優しさと可愛らしさがあった。
真那とはホテルのラウンジでケーキを食べたり、 美術館にプラネタリウム、数年間の婚約中に色々な場所に行った。 それを、快い思い出として記憶していた。
どれもこれもちゃんと覚えていた筈なのに。
──どうしても自分自身が受け入れ難くて、 彼等へ、冷たい感情以外何も無いような気になっていた。]
(193) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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……御馳走様でした ありがとう、福原君
[両手を合わせ、食器を運んでおいた。 また洗う気がない。本当に何もしない男である。
そのままカフェより踵を返した。
自分はまだ、この世界に存在している。 未だ連絡が取れない者を探せる時間があった。]
(194) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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── →廊下 ──
[ふと頬に手をやると、もう血は流れていないようだった。
時間経過なのか、大藤が触れたことでも関係しているのか分からない。 少なくとも成海の意志による治癒ではないだろう。
いつ治ったのか、抱き締められる前ならいいと思った。 兄の服に血をつけて許される年齢の弟ではなかったから。
どうにもポジティブな方向性では自分の意志が空間に与える作用は弱いような気がする。 あの時ガーゼが出てきたのが不思議なくらいだった。]
(195) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[とうに成人した年齢。 誰に何を渡されたとして、 それだけで今までの積み重ねを越えられない。 フィクションのように一瞬で人が変わることはない。
全ては自分の意志、それが人より脆弱ならば 叶えたり報いようと思う努力を第一歩とし、踏み出さねばならない。
それが生きる者たる自分の義務だろうかと、成海は思っている。 死にたがりのままでは駄目なのだろうと、思い始めている。
果たせるのかなど、覚醒める前に確信出来はしない。 けれど貰ったものは全部、捨てないでしまってある。 応えたくなったものも、どこか自分には眩しすぎたものも。]
(197) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[……田端は、見つからない。
そうこうしている内にいつの間にか知らない場所に迷い込んだようだ。 通った覚えのある通路部屋が見当たらない。 振り返るとそこは、壁。退路を塞がれた。
真っ直ぐに続く道は無機質なコンクリートに変わっており、水で濡れて色濃く変わっている。 湿った香りが、雨が降った後であることを示していた。
その最奥に、絵画が飾られていた 額縁の下の札によれば名前は──「光明」 目隠しをされた白い服の若い男性、小さな台と敷かれた藁。 そして、斧を持っている黒服の女性。
有名な作品によく似ているが 記憶のものとは性別が反転しており、描かれる人物が少ない。 そして、タイトルも違っている。
こんな絵は果たしてこの美術館にあっただろうか? 覚えが無いのは、まるで遠いことのようだからなのか?]
(198) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[顎に手を添え思考していた時 ──瞬き程度の時間で、周囲の様子が一変する。
スポットライトの当たるステージ、 見下ろすように無数に並んだ赤い座席が後方にある。 芸術劇場、という言葉が浮かんだ。
その舞台上、袖近くで 成海は白い服を着て立ち竦んでおり 傍らには藁の上に置かれた小さな台が存在した。]
(199) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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……まだ、
[続いていたのか。俺の悪夢は。 反対側の舞台袖から現れた天原真那を眺め、微笑んだ。
真那の装いはワンピースから黒いドレス姿へ。 血液ではなく、本来の色のように見える。
年上の彼女も今ではとても頼りない少女にしか見えない。 その細い腕が、斧を引き摺っていた。
自然と膝をつき、首を差し出すように項垂れた。 あの台へ押さえつける司祭はいないのだから。]
(200) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[一歩、一歩。 固く鋭いハイヒールの足音と 床と斧が擦れる音が、近づいてくる。
彼女は何も言わず、カラスアゲハは舞わない。 全ては成海の意志の変化に影響したことだ。 これから行われる、絵画の再現も。
虐げられ罰せられるのは求めるが故に。 けれど、無意味な夢の中の死は望んでいなかった。 本物の終わりしか、見ていないはずだった。
望みは打ち砕かれ、生きることを誓った。 その上で擬似的な終演を感じ覚醒めるのならば。
もう自傷ではなく。 通過儀礼といってもいいのかもしれない。]
(201) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[音が全て止まった。
決して顔をあげようとしないのに、 あの黒く丸い目が自分を見下ろしているのだと分かる。
重い斧を持ち上げようとしている。 だから、最後に。本物ではないと知っていても]
(202) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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こんなことをさせてしまってすまない 俺は今も、君に手を引かれていた子供のままだった
……真那さん、ありがとう ──君のことが好きだったよ
[それは恋も愛も熱烈な執着も宿らない。 ただ一人の人間との未来を想って細やかに向けていた。
確かにあった、温度。]
(203) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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[斧が振り上げられ、刃が首に触れたような気がした瞬間。
真の断頭は為されず、成海の意識は白く沈んだ。*]
(204) 2023/08/03(Thu) 23時頃
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