10 冷たい校舎村9
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うん。頼りにしてるね。
[ 私は、頼られるような人間であるべきで、 誰かを頼るなんて許されなかったけど、 そんなハリボテの私は、あの校舎に置いてきた。 といっても、あの校舎に私のマネキンはないけど。 だから、一人じゃないって言われたら、>>155 素直に頷いて、頼っちゃう ]
(228) takicchi 2021/06/17(Thu) 17時半頃
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[ それにね、柊君に貰ったメモを見て、 思ったことがあるの。 それは、私のこれからのこと。
ずっと目標にさせられていたことがなくなって、 私の未来は真っ白になった。 大学を目指す?就職する? 突然増えた無数の選択肢に、 私、何を選べばいいのか さっぱりわからなかったんだけど。
メモを見て、こういう仕事もあるんだって思ったの。 家庭に問題があって、生き辛い子供を助ける仕事。 そういうのに関われたらいいなって。 真っ白だった私の未来に、ほんのり色がついたような、 そんな気がしたんだ* ]
(229) takicchi 2021/06/17(Thu) 17時半頃
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── 後日・お見舞い ──
……ひどい目?
[ はて、なんのことだろうな。 慎一は一瞬の間も置かずそう言って、 不思議そうな顔して黒沢を見ていた。
つまり、気遣いでも嘘偽りでもない。
悲しいことや辛いことがあった。 そう思うことはあったって、 慎一はひどい目にあったとは、 少なくとも、記憶する限り思ってない。]
(230) nabe 2021/06/17(Thu) 18時半頃
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[ ひどいことするようなやつ、 ここにはいない──とは言ったけど。>>3:292]
(231) nabe 2021/06/17(Thu) 18時半頃
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[ つまり、これも言葉にするのが難しい、 個人の中にあるあたりまえの感覚の話。
あの世界を悲しいと何度だって思ったけど、 ひどい目に合わされたとは慎一は思ってない。
慎一は息がしづらかったけれど、 それは、慎一側の問題でしかなかった。 帰る間際は確かに苦しかったけど、 本当に危ないわけがないってのんきに思ってた。
あの校舎が、そこにいた誰かの世界である以上、 腹を立てたり、嫌悪したりはしなかったよ。
……そりゃあ、慎一は苦手なものが多いから、 ひどい状態ではあったかもしれないけれど。]
(232) nabe 2021/06/17(Thu) 18時半頃
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[ それに、現実世界も似たようなもんだ。 慎一には生きづらいけど、嫌いになれない。
ひどい目に合わされているというより、 ただ慎一が呼吸をするのがへたなだけ。
だからね、不思議そうな顔してみたあと、 慎一は、まあいいやって感じで口を開く。]
(233) nabe 2021/06/17(Thu) 18時半頃
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簡単にじゃなくて、 それなりにいろいろあって、 なんだかんだの末に言ってるからね。
……要は、 黒沢が今ここにいてよかったって話。
[ 今度は後悔しないようにしたいんだよ。 ……伝わらなくても、これはまあいいかな。]
(234) nabe 2021/06/17(Thu) 18時半頃
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[ それで、]
うーん、できてたらいいかな。 ……人にやさしく。
[ 今度はね、慎一は否定しなかった。>>193
否定しなくてもいいように生きようって、 慎一にそう思わせたのは黒沢の世界だよ。
だから、あの世界を作ったのが、 黒沢の自己チュー精神だったとしても、 巡り巡って慎一の助けにはなったのだ。
だから、黒沢もやさしいねとは言わないけど、 自己チューでワガママなくらいでいいと思うよ。]
(235) nabe 2021/06/17(Thu) 18時半頃
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[ あの世界に慎一が残した心残り。 クレープを食べ損ねたとかじゃなくて……、 あのとき言えなかった言葉の話。>>194
思ったことはそのときに言うべきなのだ。 黒沢はもうとっくに答えを見つけていた。
「大丈夫」って言われて慎一は笑う。 本当に。それならよかったって思って。
だから、ほっとしたように病室を後にしよう。 気が紛れる≠ネら遠慮なく顔を出せるよ。>>195 「また今度ね」って小さく手を振りながら。**]
(236) nabe 2021/06/17(Thu) 18時半頃
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── 病院・メイ ──
[さみしかったよ、ってメイが言う>>219
だけど俺にとっての「昨日」はほんの少し前 だから、それからメイが過ごした何時間か、が 俺はどれだけ長いものだったのかを知らない。 だから寂しさを想像するのはほんの少し時間が掛かる ]
そっか。
[一瞬さ、「みんなに会えなくて寂しい」なのか 「俺に会えなくて寂しい」なのか、 どっちで捉えていいのかわかんなかったのはほんと。 俺だけ、なんか都合のいい解釈してないかなって。
だけどいまは、ちょっとだけ自惚れておくことにする ]
(237) ししゃもん 2021/06/17(Thu) 20時頃
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……ちょっとでも メイのなにかになれてたなら うれしいよ。ありがと。
[聞こえてくるのはあの時と同じ、優しい音。>>3:166 俺は、メイのピアノの音は知らないからさ、 耳にするメイの音は、その声色だけ。
弱くなったなあ、ってさ、言うなら 俺、そんとき、今すぐにでも 頭ぐしゃぐしゃにしてやりたい衝動に駆られたけど ほんのちょっと我慢した。偉いね。
代わりに「元々強かったの?」って軽口返して、笑う]
(238) ししゃもん 2021/06/17(Thu) 20時頃
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[でもニセモノの笑顔の話に、表情を変えるメイを見たりさ なんか思わせぶりに「なんでも」なんていうメイを見たら やっぱ頭ぐしゃぐしゃにしたくなったわけ。>>220>>221]
なんでも。
[疑問にはおんなじように返します、ええ。 犬みたいなものって思ってるならそれでいいよ。
わかんなくていーの。 わかってもらわなくていーの。
……目ぇ閉じてるメイのさ、 なんか嬉しそうな表情だけで、俺は十分。]
(239) ししゃもん 2021/06/17(Thu) 20時頃
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[………ん、だったんだけど>>222]
………… はい? 屈んで…?? いいけど、なんで?
[しかもなんで敬語?? 手招きされるまま、おとなしく従うつもり。 心臓がさあ、煩えんだよなあ。
膝に手を当てて前屈み。 コレでいい?ってメイに聞くけど 目線合わせた分だけ、また距離が近えなあって思った]*
(240) ししゃもん 2021/06/17(Thu) 20時頃
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── 帰還後・自宅 ──
[ 自転車を走らせて帰宅するころには、 きっと空はとっくに白んでいた。>>117
いつもの位置に自転車をとめて、 そうっと静かに玄関扉を開く。
まだ家族は起きてないかもしれない。 そう思ってのことだったんだけれど、 予想とは裏腹に家の中は明るかった。
リビングのソファで姿勢を崩してた母が、 慎一の帰宅に気づいてゆっくり体を起こす。]
(241) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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[ 「おかえり」と言われて、 「ただいま」と答えた。
「大丈夫だったよ」って言ったら、 「よかったね」って返ってくる。 うっすら笑う様子がちょっと眠そうだった。
「寝ててよかったのに」とつぶやいた慎一に、 「帰ってきて暗かったら悲しいでしょ」って。
慎一によく似たつり目がゆっくりと閉じて、 「ああ、仕事だあ……」って、頭を抱えた。]
(242) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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[ それからまた瞼を押し上げて、 その視線だけで慎一を呼んだ。
ソファの傍らにおずおずとしゃがんだ慎一に、 慎一のよりも細い二本の腕がゆっくり伸びる。
薄い掌が慎一の頭を両側から挟んで、 慎一の顔にじいっと視線が注がれる。
そのまま数秒。「よし」と母は言った。 「泣いてないね」……うん。「少し寝といで」
促されるままに慎一はまた立ち上がった。 でも、すぐに思い出したように口を開く。]
(243) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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……シャワー使っていい?
[ 外から帰ってきたらすぐにシャワーを浴びる。 リビングはいいけど、自室に入るのはそのあと。
カチコチに固まり切った慎一のルーティン。 朝帰りなんてしたことないから危なかった。
寝ている家族には少しうるさいかもしれない。 けれど、諦める気なんてちっともない慎一に、 母はため息とも笑いともつかない息をこぼし、 「好きにして」とだけ言ってソファに崩れた。]
(244) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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[ シャワーを浴びて、ドライヤーも使って、 さっぱりしてリビングを通った慎一に、 もう体も起こさない母がふたつ言った。
お父さん起こしてきて。起きてると思うけど。 おばあちゃんにも「おはよう」って声かけて。
実際、心配性の父は寝てなんかなくて、 慎一の顔を見てほっとした顔をしていた。 「おかえり」と「いってくる」を一気に言う。
朝に強い祖母の部屋をそうっと覗いたら、 皺くちゃの手が伸びてきて慎一の手首を掴んだ。 つるりとした肌に血管だけが浮いたそれ。 傷ひとつない、かすかに脈を感じさせるそこ。]
(245) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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[ なにか言葉を待たれているようなので、 慎一は順に「ただいま」と「おはよう」を言う。
よくできました。というように、 元から皺だらけの顔がさらに皺くちゃになった。 そうっと手首を離されて、慎一は自室に戻った。
自分以外にふたり分、気配のある広い部屋。 真っ暗な中、物音を立てないように歩いて、 ゆっくりと自分の陣地に体を滑りこませる。]
(246) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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[ ……今までする機会もなかったけれど、 せっかくだから慎一の名前の話もするね。
謙虚に誠実な人間であれという期待と、 慎ましやかでも幸いに恵まれるようという祈り。 それが慎一の名前に込められたすべて。
いつもの時間まで少しくらい寝れるだろうか。 ベッドに横になって、慎一は一度目をつむる。
たぶん、じきに賑やかな朝がやってくるけど、 それでもやっぱり、慎一はこの世界が好きだ。
好きでいられたのはみんなや家族のおかげで、 だからつまり、慎一はやっぱり幸運の持ち主。
きっとまた、疲れたり息ができなくなるけど、 慎一の名にかけられた祈りは確かに届いてる。]
(247) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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[ 期待のほうは、……これから善処しよう。
都合のいい言い方を覚えた慎一は、 きっとそんなことを考えて明日≠迎える。
いつもどおりかそうでもないかは、 実際迎えてみなくちゃわからないけど。*]
(248) nabe 2021/06/17(Thu) 20時半頃
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── 後日・学校 ──
[ ある日の学校終わりのこと。
少しだけ周囲の視線を気にして、 慎一はそっと、ふらっと歩み寄った。 普段はあまり訪れない机のとこまで。]
……暮石、
[ その机の持ち主の名前を正面から呼び、 慎一は軽く握った拳を二人の間に突き出す。 ゆっくりと手のひらを上向きにして、 ばらばらとした動きで指を開いていく。]
(249) nabe 2021/06/17(Thu) 21時頃
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[ 手のひらには硬貨が一枚きり乗っている。
鈍色のそれは長く筆箱に入れてたせいか、 記憶にあるよりもちょっと黒ずんで見えた。
はじめは、自分の手のひらに。 それから、目の前にいる人に。 慎一はじっと視線を向けてから口を開いた。]
今度≠チて、今じゃダメ?
[ 受験生にはまだ忙しい時期かも。 でも、持ち越したままも落ち着かなくて。 ダメかな。お伺いを立てるようにそう尋ねた。*]
(250) nabe 2021/06/17(Thu) 21時頃
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— 病院 —
芽衣ちゃん! おかえり!
[>>126あの世界から帰還して、ここに到着したその姿を見れば、 もちろん手を伸ばして、そしてそれはすぐに取られる。 ぎゅっと握られた手は暖かい。
触られた場所に傷は無いけど、 あの世界であった時と同じように、ハンカチが覆われる。]
(251) myu-la 2021/06/17(Thu) 21時半頃
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うん、うん。
[乃絵ちゃんを連れて帰ってくれてありがとう、とか。 いろいろ、言わなきゃいけないことはあったはずなのに。 感情がそれどころじゃなくて、つい、 芽衣ちゃんの背中にまで腕を回して、ぎゅっとくっつこうとする。]
良かった。 良かったよね。
[一人ならギリギリ我慢できたのに、確かめ合うとまた泣きそうになる。 私が渡したお守りのボタン、効果はあったのかな。 あったのならきっと、ぼたんが芽衣ちゃんたちを支えてくれたんだろう、って。 そう思ってもいいかな。
涙が溢れる前に離れて、笑って誤魔化して。 そして、また学校で会おうと言葉を交わす。 私たちの日常に、また戻っていけるように。*]
(252) myu-la 2021/06/17(Thu) 21時半頃
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―― お見舞い:向井君 ――
[ 酷い目に遭ったのに。>>190 私のその言葉に返ってきたのは、 心底不思議そうな顔だった。>>230 本当に、何の心当たりもなさそうな顔。
例えば、柊君あたりに「何のこと?」って言われたら、 ああ、私に気を使ってとぼけてるんだなって 私はそう思っただろう。
でも、目の前の向井君からはそんな感じがしなかった。 向井君は本気で言ってる。 本気で何のことかわかってない ]
(253) takicchi 2021/06/17(Thu) 21時半頃
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[ あんな目に遭わせてしまったって、 それでも私は思ってる。
怖い思い、痛い思い、苦しい思いをさせてしまった。 みんな、先に帰った人たちが、 本当に帰れたのかなんてわかってなかったし、 どうなっちゃったんだろうって心配してた。
でも、向井君は違ったみたい。 ひどいことをするようなやつ、ここにはいない。>>231 向井君は、ずっとそう思ってくれてた。>>232 校舎の主を、信じてくれてた ]
(254) takicchi 2021/06/17(Thu) 21時半頃
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……そっか。そうだよね。 ごめんなさい。
[ 簡単に言っちゃっていいの?>>190 私のその言葉こそが簡単に言っちゃった、 軽はずみな言葉だった。
簡単じゃなく、いろいろあって、 なんだかんだの末に>>234 その言葉があったのだとしたら>>101 ] ありがとう。
[ 私ね、本当に帰ってこれてよかったって思う。 自分にこんな気持ちをくれる人がいることを 知らないまま死んじゃうところだった。 そんなの、死んでも死にきれないよ ]
(255) takicchi 2021/06/17(Thu) 21時半頃
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[ 優しいっていう私の言葉を、 今回は向井君は完全には否定しなかった。>>235
私が死のうとして、作り出してしまった世界。 私がやったことはどうしたって 正当化できることじゃないし、 みんなが許してくれたって、 私はずっと反省しなきゃいけない。 それでも、みんなが少しいい方向に変わる そんなきっかけになれたんなら、 ちょっとだけ、よかったなって思ってもいいかな? ]
(256) takicchi 2021/06/17(Thu) 21時半頃
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[ 笑って手を振って向井君を見送った。 「また来てね」って私は言ったし>>195 「また今度ね」って向井君は言ったから、>>236 ちゃんと本当に来てねって私は思う。 だって私、自己チューでわがままでも 許してもらえるらしいので!>>235** ]
(257) takicchi 2021/06/17(Thu) 21時半頃
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