10 冷たい校舎村9
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それに、私、自分で思ってたより馬鹿だったの。 馬鹿だから、助けての言い方もわからなかった。
[ だから、こんなことになっちゃった、って 眉を下げて笑う。 私の右手はクレープでふさがっていて、 左手首なんか握っていないのに、 炭蔵君が手首を握ってるなんて、なんだかおかしいね。 私からも見えるような絆創膏だったら、 私、あれって呟いて眉を寄せるし、>>98 炭蔵君、その手はどうしたの?って聞くよ* ]
(112) 2021/06/14(Mon) 22時頃
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[ 暮石が背中を叩いてくれないから、>>100 俺の口から出る言葉は止まらなかった。
でも、きっと同じような感覚でいたから、 思っていたように上手くできないのは、 俺も十二分に分かっているつもりだった。 ]
(113) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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[ ありがとう、と言われても、>>105 黒沢のホントの気持ちが全く分からなくて、 口元がへの字に曲がってしまう。
前髪の評価については、 暮石と同じように高評価だった。>>106 こうして真っ直ぐに目が交わるのは初めてで、 きっと、黒沢にとっての俺の印象も また変わってしまいそうだ。 ]
(114) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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[ 暮石がクレープを見て何を思っているのか>>99 前しか見てない俺には分からなかった。
ただ、少し焦げたクレープの生地が視界に映る。 楽しかったと考えてしまうことが、 不謹慎とか不謹慎じゃないとか>>107 そんなことは俺にとっては問題じゃなかった。 ]
(115) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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[ 俺の言葉の後に、 吐き出すような暮石の言葉が響く。>>104
黒沢は、淡々と事実を語り、 ただただ謝るだけだった。>>108>>109 俺の言葉に対しても。>>110 暮石の拒む言葉に対しても。>>104
別に俺は怒っているわけじゃない。 ]
俺も、たぶん暮石も、 黒沢からの謝罪が欲しい訳じゃない
[ 左右に首を振って否定する。 ]
(116) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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[ それをいうのなら、>>111 綺麗に並べたドミノが、 どこかを崩してしまえばあっという間に 全てが崩れていくようなもので。 黒沢の隠していたものに勘付きながら、 放置してしまっていた俺にも非はある。
あの日、無理矢理にでも 黒沢の腕を掴んでしまえばよかった。 そんな後悔が、胸に過ぎる。 ]
(117) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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俺も、つい数時間前まで 「助け」を求めることを知らなかった だから、助けてと言えなくたって 俺は馬鹿だとは思わないがな
[ 笑う黒沢は、見ていてとても痛々しく思う。 ]
(118) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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噫、これは黒沢と同じ気持ちに なってみようと思ってな
[ 絆創膏のことを指摘されれば、 特に悪びれた様子もなく見せるだろう。 暮石にはああ言ったが、>>65 向井に嗾けられなくとも、いずれやっていただろう。 だから、五分……ではなく、十割俺が悪い。>>77
なあ、黒沢の傷の具合はどうだ? もう迂闊なことをしていないようだが、 つい、黒沢の手首に視線が向いてしまう。 ]
(119) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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この世界は、助けてと言えない黒沢の気持ちを 代弁した世界なのだと俺は思っていた
だから、俺を最後まで残してくれたのは 俺に何かして欲しいことがあるんじゃないか?
[ 最後までいてほしかった。>>90 その言葉には、嘘はないだろう? 俺は、きっと黒沢の気持ちを 全て分かってやれないかもしれないが。 少しでもいいから、言葉にして欲しいと思う。
あの日のようにわかりやすく、話して欲しい。 切実とも取れる眸で、俺は黒沢を見つめている。* ]
(120) 2021/06/14(Mon) 23時頃
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[そう、探したんだよ。 乃絵ちゃんがどこにいるだろうって考えた時、 わたし、すぐにどこかひとつの場所が浮かばなかった。
教室にはいなかった。保健室もそう。 食堂で炭蔵くんに会う前に、生徒会室も探したと思う。 いつも雨を受け止めていたベンチはわたしたちが 出られない外にあって、渡り廊下にも見当たらない。
炭蔵くんと合流して2階に上がって、 鳩羽くんの足跡を見つけた。
もしそれがなかったら、乃絵ちゃんの手にある クレープはもっと少なくなっていたんじゃないかな。]
(121) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[そんなクレープを不思議に思った炭蔵くんの疑問へ 答えた乃絵ちゃん>>107が、わたしに同意を求める。 わたし、辛うじて頷くことしかできなかった。
鍵盤の音>>105がしたら、きっとすぐに駆けつけたのに。 乃絵ちゃんのSOSはわたしたちに届くことはなく、 ここに辿り着けたのは、ひとつずつ扉を開けた結果だ。
それとも、もっと気づけたことはあったのかな。 わたし、知らないこといっぱいあるんだなぁって。 わたしは自分で選んだ行動を後悔していたから、 ね? って言う乃絵ちゃんに笑い返すことができない。]
(122) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[いつかの仮定>>1:529、間違ってなかったのかな。
だから、わたし悔しかったの。 乃絵ちゃん>>109に「帰れない」って言わせたことが、 どうしようもなく、苦しかったの。]
(123) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[わたしは炭蔵くんの言葉>>116へ同意するように、 また首を横に振る。頭を振りすぎてクラクラした。
続く乃絵ちゃん>>110>>111>>112の話は炭蔵くんへ、 きっと二人の間に何かあったんだろうなって思う。 わたしは口を挟まず、乃絵ちゃんが炭蔵くんの手首に 視線を向けるのを見ていた。
……見ていたんだけど。 炭蔵くん>>119からわたしの知らない事実が出た時は、 さすがに思いっきり炭蔵くんの方を見た。
背中を叩くんじゃなくてつまむ。頬より強めにつまむ。 止めた訳じゃないよ。聞いていない。そういう意味。 だからわたしは炭蔵くんの話>>120に合わせ、 指を離して視線を乃絵ちゃんに戻した。
深呼吸、二回。わたしは口を開く。]
(124) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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どう、して……?
[疑問だけが詰まった音、 乃絵ちゃんにどれだけ意味が伝わるだろう。 わたしは笑うより大きな目を湛え、乃絵ちゃんを見る。]
どうして、自殺したの。
[それが乃絵ちゃんを苦しめたの。 ため息を怖がらせたの。見捨てられた気持ちにさせるの。 限界で耐えきれなくなるまで、一瞬で崩れるまで>>111、 顕にしない長袖の下、わたしの知らない傷を作ったの。
本人が望まないことは聞かないようにしてた。 乃絵ちゃんが望む分だけ話を聞いて、頭を撫でて。
でも、もうダメなんだよ。おしまいなんだよ。 そういうのも、全部。]
(125) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[わたしは知らなきゃいけなかった。 知らなきゃ、帰れないって言う乃絵ちゃんに 何も返せないと思ったから。]
教えて、乃絵ちゃんのこと。 ……お願い。
[わたしは願うしかできない。 今はまだ、知ることしかできない。
炭蔵くんとわたし、それぞれの問いは場に並んだ。 わたしは炭蔵くんの背ではなく、腕を叩く。 促したのか任せたのか、それはわたしにも分からない。]
(126) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[この距離じゃ、前髪を掻き上げることもできないし、 眸の中だって覗けないでしょ。 より深く潜るなら、わたしたちと乃絵ちゃんは遠すぎる。
わたしは扉の前を離れ、窓の方、ピアノの近く、 あるいは、乃絵ちゃんの側へ近づこうとした。]*
(127) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[ 例えばの話。 保健室で芽衣を起こして、>>99 「芽衣、おはよう。あのね、思い出したの。 この校舎の主、私だった」って言ってたら、 どうなってたかな? やっぱりちょっと格好悪い気がする。 最後くらいちょっと格好つけさせてくれても いいじゃない? でも、結局クレープ立ち食いしてるところ見つかったから どっちにしたって格好悪かったね ]
(128) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[ 私、謝ることしかできないと思う。 こんなところにみんなを閉じ込めたし、 先に帰ったみんなはあんな目に遭ったし、 みんなが探してた校舎の主は私だったし、 帰ろうよっていう芽衣のお願いも聞けないし、 炭蔵君との約束だって守れなかった。 謝るしかないって思うのに、 欲しいのは謝罪じゃないって言われても>>116 困ってしまう。 謝る以外に、私にできること、何かある? 私、本当にわからなくて、 心底困った顔で首を傾げた ]
(129) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[ 炭蔵君に非なんてないよ。>>117 クラスの委員長っていうだけで、 クラスメイトみんなの人生背負っちゃうつもりなのかな? 私が隠したかったものを、炭蔵君は尊重してくれただけ。 私は感謝しかしてないよ。 だから、非なんて感じないでほしい ]
(130) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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炭蔵君は、こんな風になっちゃう前に、 助けを求めることができるようになったんでしょ。 その差って、大きいよ。
[ 死ねたらいいなって考えることと、 本当に死んじゃうことくらい違う。 手遅れになる前に言えなかった、 私はきっと馬鹿だと思う。 私と、炭蔵君は違うよ。 ……そう思ったのに ]
(131) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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それは馬鹿なことだよ!
[ 私と同じ気持ちになってみようと切ったなんて!>>119 訂正する。炭蔵君も馬鹿だ。 悪びれた様子もなく、平然と手首を見せる炭蔵君に、 私は開いた口が塞がらない。 柊君もざっくりやっちゃったみたいだったし、 3-9の男子、好奇心強すぎない? ]
同じ気持ちになってみようとしたからって こんなことしてたら、命がいくつあっても足りないよ!
[ 面倒見のいい炭蔵君だもの。 私が特別じゃないことくらいわかってる。 クラスのみんな一人一人にこんな風に向き合ってたら、 本当に炭蔵君、そのうち死んじゃいそう ]
(132) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[ 私の手首?見たい? 私はあまり見せたくないな。 誰だって自分の汚いところ、見せたくないでしょ。
それにね、現実の私は、こんなものじゃない。 思い出した私は知ってる。 替え刃を何度も折りながら、体中傷つけたこと、 覚えてる。思い出しちゃった ]
(133) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[ ここは、私の気持ちを代弁した世界?>>120 それは、確かにそうだと思う。 ここは私の望みが叶う世界。 だけど、「助けて」と言えない私の気持ち? そんなことは……そんな、はずは ]
……ちがう。違う、よ。 私はただ、文化祭の思い出が大事で、 その思い出を、ずっと大事にできる場所に行きたかった。 [ そのはず。それ以上の意味なんて、ないはず ]
(134) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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炭蔵君には、謝りたかった。 約束したのに、私、本当にあの約束、嬉しかったのに、 守れなくてごめんなさいって、謝りたかったから。 ……それだけだよ。
芽衣は、絶対私の秘密に気づいてたのに、 気づかないふりしてくれたから。 いっぱい、私の嘘に付き合ってもらってごめんねって そう言いたかった。 あとね、芽衣のピアノ、聴いてみたかった。 それが最後の私の心残りだから。
[ そのはず。私の最後の心残りはそれで、 私は、それ以上何も望むことなんて* ]
(135) 2021/06/14(Mon) 23時半頃
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[ どうしてって、芽衣が聞く。>>125 そうよね、気になるよね。当然だと思う。 そして、私は2人をこんなに巻き込んじゃった。 2人には……ううん、この校舎に来てくれたみんなには、 「どうして」を知る権利がある ]
芽衣は、お父さんのこと、好き? 炭蔵君は、家族のこと好きって言ってたよね。 私、そう言い切れる炭蔵君が羨ましかった。
[ 夏の日の会話を思い出す。>>0:821 ねえ、炭蔵君、あの時の私の返事を覚えてる? 憎んでるんじゃないかって思うことも、あるかな。 私、そう答えたんだった>>0:899 ]
(136) 2021/06/15(Tue) 00時頃
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私、姉が一人いるの。歳は離れてるんだけどね。 綺麗で、頭がよくて、人望もあって、 みんな、姉のこと完璧だって言ってた。 父の自慢の娘だった。 でもね、ちょっと……事件が起こって、 姉は父を失望させたの。 父は激怒して、姉を追い出して、 そして、私は姉の代用品になった。 “父は間違っていなかった”ってことを 証明するための道具になったの。 ……でも、私じゃ全然姉には及ばなくて。
[ 炭蔵君に顔を向けた。覚えてる?って首を傾げる。 家庭内の問題っていうより、私の問題。>>0:1177 そう、原因は私のスペック不足 ]
(137) 2021/06/15(Tue) 00時頃
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ずっと、怖かった。姉は一度の失敗で見限られたから。 私は、全然姉には届かないから。 私じゃ、姉の代用品にはなれないから。 何かひとつ失敗するたびに、 捨てられるんじゃないかって怖かった。 失望のため息を吐かれるたびに、 今度こそ見限られるのかと思った。 プレッシャーに耐えきれなくて、手首、切っちゃった。 傷口が痛む時は、心の痛みを忘れられたから。
[ でもね、って私は言った。 勘違いしてほしくなかったの ]
だから、死のうって思ったわけじゃない。
(138) 2021/06/15(Tue) 00時頃
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芽衣には話したよね、中学の時はバレー部だったこと。 絵のコンクールで表彰されたこと。 高校になってやめたのは、父にやめさせられたから。 そんなものは何の役にも立たない、 私の人生には不要だって命令されたから。 ……私、父の命令には逆らえなかった。
[ だって、全然父の求める水準に達せないんだもの。 全然姉に追いつけないんだもの。 そんな私が、父に意見なんて、できるわけがない ]
(139) 2021/06/15(Tue) 00時頃
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何か一つ取り上げられるたび、 私の中から何かがなくなる気がした。 どんどんどんどん、 私を作ってるものが消えてく気がした。 それでも、大丈夫だって思ってた。 大丈夫なはずだったの。 だけど……、
[ 俯いたら、クレープが目に入った。 私と芽衣が初めて作ったクレープ。 59点の出来栄えのクレープ。>>4:467 父にとってはきっと生ゴミにしか見えないだろうそれ ]
(140) 2021/06/15(Tue) 00時頃
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私に、友達は必要ないって命令だけは、 どうしても、聞けなかった……。
(141) 2021/06/15(Tue) 00時頃
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