14 冷たい校舎村10
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[失恋の傷と呼ぶには、あまりにも深く抉られていて、 今もなお血を溢し続けている気がする。
自分は、普通に人を好きになれる人間だと思っていた。 でもそうじゃなかったよ。 俺に人を好きになる資格などないと突きつけられた。
人を好きになっていたつもりが、 人を傷付けて、それに気付けない愚か者。
死ねよ、なあ、幣太郎。]
(122) 2021/11/12(Fri) 00時頃
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[——ああ、そうだ。]
(123) 2021/11/12(Fri) 00時頃
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[ユイの結婚式、誓いの口付けの最中に。 首を掻っ切って死ねば、最高かもしれないな、って。*]
(125) 2021/11/12(Fri) 00時頃
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— 屋上・扉の前 —
[エレベーターの到着を告げる音がして、扉が開く。 その向こうは屋上へ通じる空間だった。 箱の外に出れば、またすぐに屋上に出るための扉に阻まれるのだけど、 そこには生きて動いている人と、ぐったりと倒れ伏した人形があった。>>124]
河合さん。 聞いたんだけど、夏見さんのマネキンがここに……。
[皆まで言わずとも、彼女が抱えているのが“それ”であると気付けた。
>>2:429目を背けたくなるほど痛々しい傷つき方をしていて、 見覚えのある制服と髪型の、泣いているのか笑っているのか分からない人形。]
(128) 2021/11/12(Fri) 00時半頃
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[俺が死ぬことで、ユイの心に消えない傷を刻めるだろうか。 狂っていると非難されようと、ユイの心を縛り続けられるだろうか。
そうだったら少しは嬉しかったのに。
あいつは、俺のことをすぐに忘れて幸せに暮らすのかもしれなくて。 それが悔しくて、たまらない。]
(129) 2021/11/12(Fri) 00時半頃
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[それでも。 少しでも俺のことを見て欲しいと、未だ自分勝手に燻る気持ちがある。]
(130) 2021/11/12(Fri) 00時半頃
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……酷いな、これは。 何されたのやら。
[マネキンを運ぶのを手伝って欲しいと言われ、 促されるままに足側を持ち上げる。 感触は紛うことなく人形で、それえは良かったと言える。]
しかし、運んで何か意味あるかね?
[俺は虎次郎の時もそうだったけど、 人形と分かれば興味を失うので、そこは疑問だった。 死体ならば弔わねばならないけど、マネキンだもんなあ。
とはいえ、気休めでも状態を良くしておきたいと言うのであれば、 それに逆らうつもりもなく。]
(131) 2021/11/12(Fri) 00時半頃
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よいしょっと。 夏見さん、無事に帰れてるといいんだけどな。
[そうじゃなければ困るよな、と。 マネキンを持ち上げてバランスを取りながら、確認するように河合さんに促した。**]
(132) 2021/11/12(Fri) 00時半頃
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― 回想・夜 ―
[>>133疲れに疲れて落としたバトン。 放っておいてくれても良かったのに、 それは拾われてしまい。
何かを言おうとして躊躇う古香さんを、苦笑して待つ。 目線は落としたまま。]
(142) 2021/11/12(Fri) 18時半頃
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いいよ、心配なんて。 たぶん、俺じゃないから。
[そう思う根拠は言わないけど。]
……ま、そのうちね。 忘れてなければ。
[話の種なんて持ってないし、これ以上何も芽生えることもない。 だから、いつかの相談の時のように再び予防線を張って濁す。
楽しいばかりじゃない恋バナ。 聞いてみるのもいいだろうとは、 心の中で思いつつも、確約はしないでおいた。]
(143) 2021/11/12(Fri) 18時半頃
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― 屋上・扉の前 ―
ある人、ね。 やっぱ心当たりあったりする?
[>>139マネキンを運んで綺麗な状態にしておく意味。 俺には思い当たらなかったから、試すように問いかけてみる。 みんなの姿を象っていようと、人形は人形だと思っているから。
――だからもし、俺がこうなったとしても、 放っといてくれていい。]
(144) 2021/11/12(Fri) 18時半頃
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[夏見さんの姿をした傷だらけの人形の、足のほうを持つ。 2人でバランスをうまく保って抱える格好。 体重がダイレクトに伝わらないのは幸いだったろうか。 ……なんて、そんなことを意識したらこの人形が人間のようだと認めるみたいで。]
……ああ、そうね。
[>>141俺は早く帰ったほうがいい人間だと、そう思われているのなら、 苦々しく笑って、少し間を空ける。 昨夜もそうだったけど、嘘を吐き続けるのにもう疲れている。 破棄された婚約を隠すたびに、自分で自分を傷付けている。]
(145) 2021/11/12(Fri) 18時半頃
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悲しむ奴なんていないから、 ここで心中してやってもいいよ、俺は。
[半ば投げやりに、胸の内を吐き出す。 公然となっている認識が壊れても、もうどうでもいい。
俺が死ぬならあいつの結婚式で、と思っていたけど、 まあ、それでもいいか。 この世界の主がそれを望むのであれば。**]
(146) 2021/11/12(Fri) 18時半頃
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— 回想・不知火さん —
[>>169問いに返す答えは、無言で。 視線が全てを物語った。 確証は無いし、安易すぎるとは思う。 だから口にはしない。]
……あ、
[>>172エレベーターの扉が閉じる時、 最後に聞こえた言葉に、何かを言う間もない。]
(189) 2021/11/12(Fri) 21時半頃
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[違うよ、俺はただ、人の気持ちがわからないだけだ。
自分が手を差し伸べるのは、自分が恵まれているから。 相手の気持ちを深く考えてやっていたわけじゃない。
自分が恵まれている存在だと思って、 ただ、何も知らずに浮かれていて、 他人を無意識に見下していたんだろう。 今ならそれがわかる。
狭い箱の中で、拳を握り締めた。*]
(190) 2021/11/12(Fri) 21時半頃
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— 回想・とある一人の夜 —
[テレビのバラエティ番組を、ぼんやりと見ていた。]
(196) 2021/11/12(Fri) 22時頃
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[とある番組の特別企画で、 数十名の独身の男女が集まって、共同生活を送る。 そして数日後に、好きになった相手に告白をして、 両想いなら晴れて結ばれる——と、そういうことらしい。
番組の内容に興味なんてなかったけど、 勉強をする際のBGMとして、なんとなく流していた。
浮かれた男どもと女どもが、 インタビューに答えて、誰が気になると打ち明ければ、 VTRを見ているスタジオがキャーキャーと騒ぎ出す。
その音声を聞くだけで無性にイライラしてくるのに、 何故か、チャンネルを変える気になれず、 共同生活の行方を見守ってしまって。]
(197) 2021/11/12(Fri) 22時頃
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[やがて、2人の男が、1人の女性を同時に好きになったことが明かされる。 恋のガチンコ勝負。女性を射止めるのはどっちだ!? ——他人事のスタジオは、無責任に煽る煽る。
最終局面の告白シーン。 2人の男が思いの丈を女性にぶつけ、付き合ってくださいと猛アピール。 煩わしいCMを数回挟んだ後、その恋の行方は決着を見せた。
女性の心を見事射止めた男性は、涙ながらにインタビューに答える。 「必ず幸せにします!」女性の手を掴んで、そう語る。
負けてしまったもう1人の男性は、……あれ? ……もう1人の男性は……?
どうしてだろう、映像に映らない。 最後まで映らないまま、番組は終了した。]
(198) 2021/11/12(Fri) 22時頃
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[イシズ製薬のCMが流れて、我に返る。 気付けば勉強を放り投げて、テレビに齧り付いて見ていた自分がいた。
俺は、負けてしまったもうほうの男性の顔が見たかった。 でもそれは叶わなかった。
テレビとしては、勝利して夢を掴んだ男をクローズアップするのが当然で、 惨めに敗北した男のしけた顔など、いらないのだ。
視聴者は、世間は、人間は、華やかな勝者の姿を見たがっている。 無慈悲なまでに残酷に、 敗者はバカにされることすらなく、存在そのものが消されていく。]
(199) 2021/11/12(Fri) 22時頃
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[誰にも見られることなくフェードアウトしていった男性へ。 あなたが今どんな顔をしているのか、見せてほしい。
俺と同じ顔をしているのか、確かめさせてほしい。]
(200) 2021/11/12(Fri) 22時頃
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[潔く、敗者であることを認められたのなら。
こんなに苦しむ前に、自分から消えてしまえたのだろうか。*]
(201) 2021/11/12(Fri) 22時頃
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死ぬっていうか、 ここを作り上げた奴と、ずっと一緒にいてやってもいいって。 そうすれば現実では死ぬんだろ。
[>>212心中っていう言葉のチョイスが物騒だったか? 俺としては、こんな場所に俺たちを呼んだ奴の気持ちを汲んだつもり。]
……いや、そもそもここの主が俺たちをここに呼んだ理由、 心中してほしいってわけじゃないのかもしれないけど。
[そのあたりは依然として不明なので。 俺の想像を述べただけに過ぎない。]
(219) 2021/11/12(Fri) 23時頃
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……?? おっととと。
[>>217河合さんが何かを語ると同時に、 マネキンのバランスが崩れかけて、夏見さんの頭が一瞬床に近付いた。 俺も戸惑いながら、辛うじて落とさないようにバランスを立て直す。]
いや、やりたいことっていうか……? なんだろう……な……?
[驚かせたらしいけど、その後の反応は心中を止めるでもなく、 選択肢のひとつだとまで言う。
別に俺は止めてほしくて言ったわけではないけど、 何か違和感がある。]
(220) 2021/11/12(Fri) 23時頃
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ここで死ぬこと、否定しないんだ。 河合さんは、帰りたいと思ってる?
[確認するように聞いてみる。 >>218目は逸らされているけど、俺は細目で見つめていた。
エレベーターが到着すれば、マネキンを抱えたまま乗り込み、 そのままマネキンを安置している場所まで向かうつもりだけど、 その間に返事はもらえただろうか。*]
(221) 2021/11/12(Fri) 23時頃
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[夏見さんのマネキンを運び終えたら、 河合さんと別れて、一人廊下を歩いていた。
気付けば夜も遅くなっていた時間。]
(228) 2021/11/12(Fri) 23時半頃
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[ひらり、ひらり。
目の前に忽然と、1枚の紙片が現れたので、 無意識にそれを掴んでいた。]
(230) 2021/11/12(Fri) 23時半頃
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[それは結婚式の招待状だった。
俺はこれを知っている。 我が家に届いた、ユイとあの男の挙式を告げる報せ。 俺にとっては突きつけられた敗者の宣告。
そうだ、結婚式が始まる。 俺は出席しなければならない。
記された場所は——『3F 音楽室』。]
(231) 2021/11/12(Fri) 23時半頃
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— 3F・音楽室 —
[急ぎ足でエレベーターに飛び乗り、目的の階へ。 音楽室の分厚い扉が見えてきた。
開始時間はもう過ぎているらしい。 急がなければならない。 フォーマルなスーツは持ってきていないから、生憎の制服姿で失礼。 扉に手をかけ、一息で開く。
そこは結婚式が執り行われるチャペルだった。]
(234) 2021/11/12(Fri) 23時半頃
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[既に参列している人々で席は埋め尽くされており、 俺の姿はひどく場違いで。
真っ直ぐ伸びたバージンロードの向こう、 祭壇の上には、純白のドレスを纏ったユイと、 新郎の若社長が、揃って向き合っていた。]
「それでは、誓いのキスを」
[神父が宣言すると、2人は見つめ合って頷き合い、 そしてゆっくりと顔を近づける。
——間に合った。]
(235) 2021/11/12(Fri) 23時半頃
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[握り締めていた招待状はいつの間にか、 鋭利なナイフに変わっていた。]
(237) 2021/11/12(Fri) 23時半頃
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