10 冷たい校舎村9
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あはは。 だってそう見せてたからねー。
おねだりするのも頼るのも得意だよ、 別にどうでもいいようなことは。 でも自分の急所はなかなか晒せない。 そういうもんじゃない?
[明るく見えるあいつも、物静かなあの子も、 きっと人には言えない弱さを抱えてる。 ……炭蔵もそうなんかな? そのあたり俺はよく知らないんだけどさ。
少なくともつまらないと言われて 密かに炭蔵が傷ついてるのを知れば、 女装しなくてもこいつ可愛いやつだなって 思ったかもしれない。>>56]
(109) 2021/06/12(Sat) 13時頃
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[純粋に疑問、って感じで。 炭蔵が問うた台詞には>>57 何て答えていいかわからなくて、 たっぷり数秒の間が空いた。
「俺を」じゃなくて、「俺が」。 今まで考えないようにしていたことを 唐突にぶら下げられた気がして、 視線がどこか遠くを彷徨う。]
(110) 2021/06/12(Sat) 13時頃
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――――………… いない、わけじゃ、………ないけど。
[たとえば、月曜日の音楽室の30分。 たとえば、生クリームに融けた弱音。 たとえば、2人で電車を乗り継いだ深夜。 たとえば、撮って回った皆の笑顔。
思い出の欠片たちはどれもこれも些細なことで、 それでいて他のピースではきっと埋まらない。 ああ、そうだよ。俺はこのクラスが好きだ。
それに、………似てない両親と弟だって、 きっといなくなったら俺は。]
(111) 2021/06/12(Sat) 13時頃
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…でも、俺が寂しいと思う人でも、 向こうはそう思ってない、……かなーって。
[だって俺は天秤にかけて切り捨てられる側だし。 そうでしょ?違う? その声は少し揺れていた。]
(112) 2021/06/12(Sat) 13時頃
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[そうして、思考実験と評して尋ねれば とても炭蔵らしい返答が返ってきて>>58>>59 何だかちょっと笑ってしまう。 あ、別に馬鹿にしたわけじゃないんだ。]
……委員長は、えらいね。
俺なんかにもそんなこと思ってくれるんだ。 エスパーじゃないんだから 気付けないのがフツーなのにさ。
綿見ちゃんにも前に言ったけど、 人間、人の分までそうそう背負えないよ。 自分は出来るって思ってる方が危なっかしいじゃん
(113) 2021/06/12(Sat) 13時頃
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[どう考えても炭蔵が謝るような話ではないのに、 相手が誰でも責任を感じて その重荷を負おうとするみたいだ。
いい奴だな、って思ったし いい奴だって分かってるから 逆に言えなかったってこともあるのかな、と まだ見ぬ主に想いを馳せてしまう。
責任感のある奴だからこそ 申し訳ないと思わせちゃうのが申し訳ない的な。 俺が卑屈なだけか?]
(114) 2021/06/12(Sat) 13時頃
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ちなみに俺のめちゃくちゃ辛かったことはねえ、 好きな人たちに受け入れて貰えなかったこと。
どこにも居場所が無いような気がして、 生きるのに疲れて死んじゃった。
…とかだったらどーする?
[申し訳ない、何も出来なくて虚しい。 理由を聞きだしてその先はどうするんだろう。 一緒に死んであげることが出来ないのなら、 同情と後悔に浸って終わってしまう?
調理室に着く前に、もうひとつだけ 思考実験に本音を混ぜて、意地悪な問いかけ。
まあ、パンケーキと一緒に食べるには 胃もたれしそうな話だから、 もしやることなくなったら考えてみてよ。**]
(115) 2021/06/12(Sat) 13時頃
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「なんで俺の世界じゃないと思うの?」
(+5) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ 聞けなかったから、慎一は自分で考えた。 正解なんて結局わからないままだけどね。
単純に先に有力候補がいたせいだとか、 まっさらな手首のせいだなんて知らず。
あの校舎に迷い込んだ最初の日。 保健室に向かう道中話してて思ったんだ。
もう疲れちゃったなあ。 世界の主にその自覚がないのなら、 慎一の可能性だってあるかもしれない。]
(+6) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ きっかけなんて日常にいくらでもある。
朝、卵を切らしてたかもしれない。 うっかり右足から靴を履いたかもしれない。 購買のパンが売り切れてたかもしれない。 筆箱に混ぜ込んだままの10円玉と、 ふとした瞬間、目が合っちゃったかもしれない。
そんな些細なことが今も慎一の首を絞める。 気づいたらぽたぽたと水をこぼしていたりする。 何がそんなにつらいか自分でもわからないのに。
なんで? って繰り返してきた自問自答に、 仕方ない。慎一はそういうふうにできてる。 治らない。それが慎一の生まれ持った形だ。
何かの拍子にそう答えを出しちゃったなら、 その瞬間から慎一は死にたかったんだろう。]
(+7) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ でも、違うよって言われたから、 今度は死なない理由を探してた。
死にたくなっちゃった慎一が、 それでも死ななかった理由を。
先を越されちゃった、とかはナシにして、 それでも踏みとどまる理由を見出すなら、
たぶんそれって、さみしいからだ。 死んじゃったらその先ずっとひとりでしょ? それはさみしいなあって踏みとどまった。
……いや、幽霊も天国も地獄も、 慎一は信じちゃいないんだけどさ。 漠然とした死後のイメージで語ってる。]
(+8) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ エラ呼吸が下手なくせ、水の中は好きだったな。]
(+9) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ …………。]
(+10) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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── 現在・家 ──
[ バタバタと騒がしい物音で目覚めた。 自宅の自室。自室というか、共同部屋。
部屋の数が足りないから、 慎一は弟たちと大部屋に押し込まれてる。 妹はひとり部屋でいいなあって思うけど、 「女の子だから」って一蹴されたのだ。
やむなし、男子高校生3人で、 ハンガーラックや本棚を駆使して壁を作り、 年から年中陣取り合戦をしている。
それが、慎一の育った家の話。]
(+11) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ 慎一はふつうにベッドに寝ていた。 体を丸く縮こまらせて眠るのは癖。 ゆっくりと手足を伸ばして起きる。
物音は部屋の外からしてるみたい。 寝起きの足元はちょっと覚束ない。
閉じていたドアをふつうに開いた。 電気の消えてた部屋から顔を出し、 慎一は目の前に広がる光景に言う。]
(+12) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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ヨースケ、なっちゃん、 うるさい…………。
[ 互いの髪や服をひっつかんで、 取っ組み合ってたふたりがこっちを見る。
きょうだい4人の中で喧嘩が起きるのも、 喧嘩に混ざってないときの慎一が、 その声や物音に苦言を呈するのも、
この家族には珍しいことじゃないから、 何も驚くような顔することはないんだけど。]
(+13) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ いつもはこれでもかと言い返してくるのに、 ふたりはしげしげと慎一を見つめてから、 代表して弟のほうがこちらを指さしてきた。
「血ぃ出てるよ、そこ」……はて。 どこだろうかと指先を自分の肌に這わせれば、 首の正面あたりに違和感と、触れたときの痛み。
あわせて、理由なんてわからないし、 今の今まで気がつかなかったけれど、 ぽたぽたと涙がこぼれっぱなしだった。
弟も、妹も、それ以上なんにも言わない。 慎一がベッドでめそめそ泣いているなんて、 別に、珍しくもなんともないもんな。
慎一が黙って袖口で目元を拭っただけ。]
(+14) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ どうやらめそめそしてるうちに、 そのまんま寝落ちていたらしい。
それで……なんだっけ。 さらにごしごしと目元を拭いながら、 慎一は止まらない涙に途方に暮れる。
……ああ、そう。夢を見てた。 夢……? それで慎一は思い出す。
そりゃあ、涙も止まらないわけだった。*]
(+15) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ スマホを見て、九重からのメールを読んで、 慎一は今、自転車で病院に向かっている。]
(+16) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ スマホに目を通し切った時点で、 わたわたと目に見えた慌てて、 着の身着のままで飛び出そうとした慎一に、
弟は「兄ちゃん、とりあえず顔洗え」って、 ぐいぐい洗面所のほうに背中を押して、 妹はでかい声で「おかあさーん」って言った。
なんか大変っぽい。 いや、お兄ちゃんじゃなくて。 お兄ちゃんはいつものやつ。]
(+17) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ ……うん。いつものやつなので、 事情を知った両親からは、 割とスムーズに病院に行く許可が下りた。
なんかあったら連絡しなさい。 あと、自転車のライトはちゃんとつけること。
二点、玄関先で念押しした母の後ろから、 心配性の父がウィンドブレーカーを差し出した。 ほら、暗闇でちょっと光るタイプのアレ。
…………ダサ。 つぶやいたのは慎一じゃなくて弟の片割れ。
それどころじゃない慎一は、 素直にコートの上からそれを羽織って家を出る。]
(+18) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ 夜道。ペダルを踏みこみながら、 慎一はあの握りしめられた左の袖口を思う。
「慣れちゃった」って言ったあの口ぶり。>>1:618 床に散らばったカッターナイフ。その替え刃。
「痛くない?」って聞いたとき。 「試してみる?」なんて保健室で言ったとき。
いくらでも点と点をつなぐ瞬間はあったのに、 たぶん、慎一は見ないフリをしていた。
自分のことで手一杯だから。 人のものまで抱え込んじゃったら、 きっと、もっと息がしづらくなるから。
……「むなしい」ってこういうことかなあ。 それとも、これは「くやしい」なのかなあ。]
(+19) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ 慎一の言葉でいうなら、悲しかった。*]
(+20) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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── 現在・病院 ──
[ どうにかその場所を教えてもらって、 慎一は治療室のベンチの前までやってくる。
黒沢の家族と思しき女の人に、>>+2 ひょこりと会釈だけをして、 まっすぐ九重と番代のほうに向かった。
……挨拶するべきかもしれないけれど、 生来引っ込み思案なほうなのだ。 何と声をかければいいかもわからないし。
だからその人に背を向けるように立って、 病院でも怒られないくらいの声量で声をかける。]
(+21) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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……九重、メールありがと。 番代も来てたんだ。それで……えーと、
[ ちらっと集中治療室のほうを見る。 人が出てくるような気配はない。
重たい空気感にほうっと息を吐いて、 それで、ほんのつぶやきのように言う。]
(+22) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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……黒沢だったんだな。
[ メールの送り主の話。 あの校舎で見たのとおなじものが、 現実世界にもあったこと。>>3
答え合わせみたいだなあ。とは、 さすがに口には出せなかったけれど。*]
(+23) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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— 現在:3-9に近い廊下の片隅で —
[わたしが罪を告白した時、 真正面から見た向井くん>>3:457の眉は元に戻って、 どこか安心したような顔>>3:461をしていた。
今だけで言うなら、 わたしは向井くんをほんの少しだけラクにできたのかも。
でもその原因はわたしだ。 向井くんの喉に小石を詰めたのは、わたしだ。
これまでなら大して気にもしなかった……というか、 知る機会すらなかったんじゃないかな。 実際、今日まで疑いもしなかった。
わたしはあの日を、ちゃんと守れたと思ってた。]
(116) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[言われたから気づけて、言ったから伝わる。 だからこれはわたしが望んでやったことで、 罪悪感だってわたしが勝手に抱えちゃっただけ。
わたしの残った心のスペースは少なくて、 他人の入る場所はあんまり残ってないと思ってた。
でも、わたしが思うよりずっと、 わたしはみんなのこと、すきだったのかなぁ。
文化祭、楽しかったもんね。 わたしは廊下に貼られた写真たち>>4を見る。]
(117) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[わたしが自分で映ったのは集合写真の一枚だけ。 だからわたしが知らないものがない限り、 わたしの姿はそこにしかない。
みんながこっちを見ていた。 変顔も混じっていたけれどやっぱり笑顔が多くて、 顔がいっぱい並んでこっちを見ていても、 あんまり怖いと思わなかったのはそのせいかも。
楽しかったもんねぇ。 わたしは鳩羽くん>>78へ視線を戻す。]
(118) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[濡れてない鳩羽くん>>79が泣いてるのはすぐ分かった。 わたしは背中に触れる。
あたたかかった。「生きている」温度がした。 深く息を吸った膨らみが、わたしの手のひらを押す。
眼鏡をかけた鳩羽くん>>80がこっちを見ても、 そこに「いつも笑ってる鳩羽くん」>>2:568はいない。 またもやっとしてる>>2:560かな。
そんな余裕もない気がするけど、 わたしは背中側から鳩羽くんの心臓を撫でる。]
(119) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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