10 冷たい校舎村9
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[ 綿見と話せたこと、 それが黒沢の出した結論で、 向き合う努力をしたことを知れれば、 失望なんてする筈もなかったよ。>>210
いや、どんな結果を選んでも、 失望するしないの資格もないんだが。 ]
(213) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[ 三人で帰りたいと、暮石は言う。>>198 同意を求める言葉に、俺は頷いた。>>199
俺が此処にいられるのも、暮石のお陰だった。>>197 教室で動けないで居た俺を迎えに来てくれたのも、 こうして黒沢に近づくよう促してくれたのも、 俺が先延ばしにせず向き合えているのも。
俺にとっても暮石は、 今日限りだったとしても相棒だ。 同じ方向を向いている親しみを持った相棒だ。 ]
(214) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[ でも、黒沢は───… まだ同じ方向を向いてはくれないらしい。>>212
ピアノの演奏を聴いていた黒沢は、 確かに揺れていたように思ったのに、>>207 黒沢の口から溢れでたのは、 楽になりたいというわがままだった。>>208 ]
(215) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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……俺だったら、生きようと思う けど、楽になることが悪いこととは思わない 人は誰しも、楽な方に流れるものだろ
これまで頑張ってきたんだもんな、黒沢は これ以上頑張れとも言えないよ
(216) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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でも、それでも、生きて欲しいと思う これは命令でもなくて俺の我儘でお願いだから もちろんこの手を振り払ってくれてもいい
ただ、黒沢が怖くなくなるまで 俺は絶対に手を離すつもりはない
[ そう言って、片手を差し伸べる。 手を取ってくれなかったら? 多分、俺の顔はようやく歪む。 *]
(217) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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— 病院・集中治療室前 —
[>>+196向井くんが来たならば、 コーラありがとーって顔をしてそちらに歩いて、 放られた缶をキャッチする。]
ちょっとー。
[炭酸が宙でシェイクされたことへの抗議の声を上げつつ、 買ってから時間が経った缶の温度を確かめる。
……こんな寒い季節に「つめた〜い」のスイッチを押させて、 ずっと持っていてもらった苦労を思えば、まあ、 文句を言うより重ね重ねお礼を言うべきなのかもしれないけど。]
(+199) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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そっか、わかった。
[>>+196戻りが遅かったのは道理で、 帰ってきた人たちを出迎えていたかららしい。 乃絵ちゃん以外の帰還をもはや疑っていなかったから、 驚くこともなく、会ったら挨拶をしようか。
そうすると、まだ残っているのは誰なのか。 落第生でもわかる簡単な計算問題。]
……頑張ってるんだ、今も。
[あの校舎に残って答えと対峙している炭蔵くんと芽衣ちゃん、 そして、乃絵ちゃんも。私には想像もできないくらい、 今、頑張っている最中なんだろうなあって。]
(+200) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[買ってきてくれたコーラをすぐに飲むべきか、悩んで。 シェイクされた缶をここで開けたら、どうなるかは容易に想像できるし、 自分の家や学校ならともかく、病院だしなーという遠慮は流石にある。 結局、ここで缶を開けることなくコートのポケットの中にすとんと落とした。
コーラ代と言いつつお金を取り出そうとするけど、 受け取らないという素振りをするようなら、 何度も問答はしないので、奢られておきましょうか。]
(+201) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[>>+198向井くんと同じ居辛さを私も感じているけど、 それでもここに戻ってきたのは、やっぱり気になるから。
乃絵ちゃんが帰って来れるか、というのはもちろん、 乃絵ちゃんのお母さんのいるほうを一瞬だけ見て、 思ったことをどうにも誰かに言っておきたい衝動に駆られる。
あの世界の主に辿り着けなかった落第生の一人なりに、 気付けるとしたら、今が最後のチャンスなのかも、って。
向井くんの近くに寄って、 他の誰にも聞こえないくらいの小さな呟きを吐き出す。]
(+202) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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……乃絵ちゃんのお父さん、来てないみたい。
[だからどうなんだ、という問答をしたいわけではなく、 乃絵ちゃんの家庭事情を今ここで詮索したいわけでもない。
ただ、私が感じてしまった可能性って間違ってないよね?と、 それを確認したいという気持ちを言葉に込めて。
それだけ伝わったなら、いや、伝わらなくても。 ここから去るであろう向井くんを見送るだろう。*]
(+203) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[焦げた生地でできたクレープに涙とわたしの手を足して、 わたしは乃絵ちゃん>>203の話を聞く。]
みんなの話、もっと聞いておけばよかったな。
[そうしたら、もっと乃絵ちゃんへ 伝えられることがあったかもしれないのに。 写真が捨てられた話に、乃絵ちゃんの手を強く握る。]
(218) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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うん、……うん。 楽しかったよねぇ。
いらなくなんか、必要なくなんか、ないのにねぇ。 そういうことじゃ、ないのに、ねぇ。
[乃絵ちゃんの話を聞く度、あのメール>>1が鮮明になる。 逆らえない命令、一人じゃ生きられないこと。 教室にはわたしたちの思い出がたくさん飾られてたけど、 一番多かったのは、文化祭の写真だ。 わたしは廊下に並んだみんなの顔を思い出す。
乃絵ちゃんは、これ以上大切なものを奪われないように 死のうとしたんだなって分かったから>>143、 手を握る力はより強くなった。 わたしの短い爪は、それでも乃絵ちゃんを傷つけない。
わたしは笑った。お日様にはなれないけど、 あの文化祭の日、楽しかった時を取り戻すみたいに。]*
(219) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[わたしの魔法はわたしに従ってくれなかった。 ボロボロで、ぐちゃぐちゃで、 せめて止まらないことで、曲としての形を辛うじて保つ。 もっとできると思ってたけど、それしかできなかった。
わたしは乃絵ちゃんに、 とっておきの心残りをあげたかったのに。
泣きたくなくても涙が止まらなくて、 乃絵ちゃん>>207の言葉にわたしも首を振る。]
(220) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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だ、って、もっとちゃんと、弾けたの。 でも、もう弾いちゃ ダメだ から、
わたし、 ぜんぜん、 ダメな、 の。
のえちゃんに、 きいてもらいた かった、な。 わた し、 の おんがく。
[声を発する度にしゃくりあげそうになるから、 わたしはとうとう言葉すらぐちゃぐちゃになった。 乃絵ちゃん>>208の言葉を一音たりとも 聞き逃したくなくて、わたしは息を止める。]
(221) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[痛みは、乃絵ちゃんが生きていくために どうしても必要なものだったんだと思う。
だからわたしは口を噤み続けた>>200。 乃絵ちゃん>>211、身体中を刺したんだって。 絶対痛いのに、痛みで手を止めてもおかしくないのに、 それくらい、どうしようもなかったんだ。
乃絵ちゃんは死ねたらラクなんだって言う>>208。 生きるのは苦しいんだろう。辛いんだろう。 前のわたしなら、もう何も言えなかったかもしれない。
……でも、ね。 ラクと楽しいが別々で、必ずしもイコールじゃないこと、 わたしはもう、知っちゃったの。]
(222) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[だから、たとえワルモノになったとしても、いいや。]
(223) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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——ダメ。
(224) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[わたしは乃絵ちゃんの言葉>>212に、また首を横に振る。 重ねた手を片方外して、右ポケットに入れた。 大事なお守り。ひとみちゃんが渡してくれた、ぼたん。 ぎゅうって握り締めてから、わたしは口を開いた。]
綿見さんと仲良くなりたいのに、終わりなの。 話せただけでいいの?
これから、でしょう。 クレープ焦げちゃったんだよって、一緒に言おうよ。 教えてもらったら、今度は上手にできるかも。
[乃絵ちゃんが語る家族のこと>>209。 お姉さんの代用品だって話。 乃絵ちゃんの家族のことは、乃絵ちゃんが一番知ってる。
だからわたしが伝えられるのは、楽しかったって 言ってた文化祭、一緒にいたわたしたちのことだけ。
ポケットから手を出し、食べかけのクレープを示した。]
(225) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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現実は、楽しいことだけじゃない。 苦しくて、つらくて、どうしようもないこともあって。
だから、わたしここも結構すきだったよ。 永遠にいられるなら、それもいいかなって思うくらい。
[でもそんなことはありえない。 わたしはそれを理解しているから帰るの。
苦しくて、つらくて、どうしようもないこともある、 それでも大切なものがいっぱいある現実へ。]
(226) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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まだ、思い出にしないで。置いていかないで。 全然ラクじゃないかもしれないけど、 死んだら、楽しいことなくなっちゃうよ。
……乃絵ちゃんはそれでいいの。 思い出だけで、いいの。
わたしはヤだなぁ。 これからの未来に乃絵ちゃんがいないの、ヤだなぁ。
[わたしは乃絵ちゃんを包んでいたもう片方の手も離し、 手のひらを乃絵ちゃんへ向ける。]
(227) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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[わたしの手は、炭蔵くん>>217の隣に並んだ。 乃絵ちゃんへ二本の手が差し伸べられる。]
現実は、怖いだけ? 乃絵ちゃんの中に、もうそれしかない?
……一緒に、帰ろうよ。
[ぐるぐる回って、たどり着いたのは結局最初と同じ。 わたしはわたしの気持ちを押しつけただけかもしれない。
でもほんの少しでも同じ気持ちがあるのなら、 どうか、手を取ってほしい。
わたしはそう伝えて、ほのかに笑った。 乃絵ちゃんの願いを、選択を、答えを 待つ。]*
(228) 2021/06/15(Tue) 21時頃
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── 現在・集中治療室前 ──
[ 番代がこちらに歩いてきたので、>>+199 治療室前が気まずい慎一は少し助かる。
だから、抗議の声にも少しだけ笑って、 「ごめん」って素直に謝っておこう。
コントロールは悪くなかったろ。 ……そういう問題じゃない? 知ってる。
さっき会った面々について告げれば、 落第生による引き算の時間だ。>>+200]
(+204) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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[ 「頑張ってるんだ」って言葉に、 慎一は「うん」ってうなずいた。
何も知らない人からすれば不審な会話でも、 この距離なら黒沢の母親には届かないだろう。]
……がんばってるよ。 黒沢もだし、ユーガも、暮石も。
[ あんな世界を作り上げたのだ。 まだがんばってるって、慎一は信じる。]
(+205) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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[ 確かに。飲むのはせめて待合室だった。
ポケットにしまわれたコーラに、 慎一は内心でほっと安堵の息を漏らす。
あまり状態のよくないコーラのお代は、 もちろん、丁重に受け取りを断って、>>+201 ふいに揺れた番代の視線を追っていた。>>+202]
(+206) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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[ ……そこには女がひとりいる。 黒沢の母親だって慎一は疑わなかった。 娘の帰りを今か今かと待ってるんだろうと。
かわいそう。と慎一は思って、 だから番代のささやきは不意打ちだった。>>+203
びくりと一歩あとずさりしそうになって、 それでも、流し込まれた言葉の意味を咀嚼する。]
……あ、
[ ひとり≠ナ待っているんだなって。 今の今まで慎一が気がつかなかった事実。]
(+207) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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……忙しい、のかな。
[ その人のほうへ張り付きそうだった視線を、 無理やり引っぺがして、かろうじて慎一は言う。
忙しいのかもしれない。家をあけていたのかも。 黒沢の家族について、聞いたことはあったっけ。
いくらか頭の中で理由を並べ立てたけど、 たぶん、自分でも不思議なほど声は強張っていた。]
(+208) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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[ ……もし、これが慎一だったら。 きっとこの場所はもっと騒がしい。
どんなに大事な仕事が入ってたって、 父も母も全部放り出してここに駆け付ける。
どこか別の場所にいたんだとしても──、 なあ、黒沢が搬送されてどのくらい経つっけ。
そんなこと聞けやせずに、 慎一はじっと番代のことを見下ろしていた。
人の家族について憶測で何か言いはしないけどさ、 たぶん、慎一の目はひどく動揺に泳いで、 似たものを感じ取ったことを番代に知らせるだろう。]
(+209) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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……俺、やっぱり向こう行ってる。
[ 他人がいても気まずいだろうとか、 そんな殊勝で冷静な心掛けじゃあなく、 たぶんその瞬間、そこにいたくなかっただけ。
鏡もないんじゃ見えやしないが、 きっと、慎一は顔をひどくゆがめてそこを立ち去る。*]
(+210) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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おう、ただいま。 えっと…… いや、なんでもない。
[そこに居たのは 物言わぬ人形なんかじゃあなくて>>4:+66 ちゃんと生きているマナだったから、さ。
無事帰ってこれてた喜びだとか、 そりゃあ… >>4:395 言いたいことは山程あったんだけど。 ま、それはあとでいっかな、って。
お嬢様、カフェオレ温めておきました。 お陰様で俺のポケットもほかほかしていて、 俺は、じゃ、またあとで、って売店に向かうんだ]
(+211) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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[そしてこちらもまあ 無事、売店は開いていたわけで。 (どうしても開いてるわけがねえって? じゃあ絆創膏の自販機があったことにするからな!) 調達するのは絆創膏だけ。
んで暫く廊下にあった大きな鏡に向かって 俺は格闘することにする。 眦の傷、そんなに大きくなくてよかったな、って。
あっちの世界はさ、 日常なんかとは随分かけ離れていたけれど 確かに、夢なんかじゃないって思い知らされる。]*
(+212) 2021/06/15(Tue) 21時半頃
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