23 あの春の廃校だけが僕らの学校だった。
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[誰かの荷を背負いがちだと指摘されたのはいつのことだったろうか。その特性を歪みなく発揮出来る分野でもあり、また一般的な倫理観から離れたところに在る自分には向いていると自然に思えたのがこの仕事である。
或いは、再びあいつに出会えたとして、あいつがどんな環境に身を置いていたとしても助けてやれる、そんな思考がなかったとは言わないのだが。]
まずは陳述書の清書ね。
はいはい、どんな下働きもしますよーっと。
[あれから数年、不定期に掛け続けた電話は、未だにコール音を響かせてくれている。その声が聴けることはなかったが、途切れずにいてくれることが嬉しかった。
いつか投げられた問い掛けを思い出す。今ならば真っ直ぐに答えられる気がしているのだ。一度限りの夜について、俺の、感じたことの全てを。
背広の胸ポケットには、唯ひとつの石が収まっている。]**
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――11月XX日/新横浜スケート会場――
[練習中に跳んだジャンプは、10回中10回が決まった。 自分の滑走順を待つ間、ちらちらと客席を窺って。大丈夫、と言い聞かせる。未だ全盛期には及ばずとも、彼らを魅せてその恩に報いたい。]
「プログラム3番 鷹羽虹乃 『花から花へ』――」
[コールとともに単身リンクへ飛び出して行く。嗚呼、再びこの真白い舞台の中央に立てる幸せときたら! 浴びる視線に好奇や侮蔑が混じれど、そうでない彼らの暖かな激励だけ、感じていればいい。]
(397) りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
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[演目は勿論、『È strano Sempre libera』
スローなヴィオレッタの独唱は試合向けのプログラムではない。ただ決められたエレメンツを完璧にこなすだけだった去年よりは、ゆったりと情感たっぷりに滑りあげる。
――本当の愛は、私に不幸を齎すものなの? ――悩める心よ、どう解決すれば?
トップスピードもジャンプの高さも難易度も、拙く劣ってしまっても。恋人を想い憂う表情が、空を抱く指先が、ヴィオレッタの苦悩と欣幸を描き出す。戯れの快楽の中に、たった一つの愛を信じて。
接がれた翼で氷を蹴る。丸く広がる裳裾は、まるで一瞬椿の花が咲いたように。]
(398) りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
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[伸びやかなスケーティングの一足一足を、彼らに捧げよう。 ダブルアクセル、 いつもモニタの向こうから見守り、今も応援してくれているワカナさんへ。 得意の片手を上げたトリプルフリップ、 LINEで励まし寄り添ってくれた野々花と、隣で支える柊へ。 スパイラルステップシークェンスから、羽搏くイーグル、 儚くも強くて、自分より相手を大事にできる沙羅と、沢山世話を焼いてくれた桐野へ。 途中サルコゥの着氷が乱れて上体が傾いても、すぐに笑顔で持ち直す。 大きく三度脚を振り上げるフライングバタフライ、 滑れない心的外傷を払拭するキッカケをくれた鮫島へ。 キャメルスピンからドーナツポジションに、 帰還後暫しの共闘を経たキルへ。
――楽しむの、そう楽しめばいい。 ――快楽の渦の中で死んでいく。
打ち拉がれても、自由を求め心を飛ばすヴィオレッタ。 自身の経験だけでなく、見守ってきた諸々も多分に含まれていた。恋する姿はいつだって、キラキラ輝いて美しい。]
(399) りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
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[その狂おしいほどの情愛で、 焦がれる心で、 リンクの氷をも溶かさんと。]
(400) りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
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[最後のオイラーからの三回転ループが決まれば、ホッと安堵が浮かぶ。
――その愛の鼓動は世界をときめきで満たす。 ――神秘的で、誇り高く、心に苦しみと喜びを齎すもの。
拍手の聞こえる中、ラストは跪いて椿の髪飾りを手に、今は届かぬ彼の人へ捧ぐ――。
全力で滑りきったその瞬間、周囲の音が消えてしまったかのように錯覚する。二呼吸して、動悸と興奮、目眩と疲労がどっと押し寄せてきた。 ずっと諦めきれなかったこの場所に、還ってこれた。氷の上に、熱い滴がはたはたと落ちていく。]
(401) りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
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[今更慄く足を引きずって、万感の想いをこめた礼を。"願い"を見届けてくれた一人一人に感謝を。 フェンスに越しに幼馴染から花束を受け取って、客席に大きく手を振った。**]
(402) りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
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ニジノは、ワカナの元へ滑り行き、ぎゅーーーーっとハグした。
りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
ニジノは、ワカナにチークtoチークもサービスサービスぅ!
りしあ 2023/05/05(Fri) 21時頃
おまえ、
大体、なんで、こんなとこいんの?
さっさと、こんなとことの関わりは絶っちまえ
→×6〒+÷°39〒5+→#
[なんだか、わなわなしてる]
心配せずとも、
その為にずっと下積みして来ましたから。
若頭は何も憂うことなく、
お仕事をこなしてくだされば構いませんよ。
というか、
もっかいきくわ。
なんで、こんなとこにいる?
ニジノは、ワカナから紫の薔薇の花束を受け取った(確定描写!)
りしあ 2023/05/05(Fri) 23時半頃
口説こうと思って。
俺からもひとつ訊いていい?
電話、
なんで捨てなかったの。
はあ?
まだ、ヤりたりねえのか?
つか、お前、そんなナリで、金も持ってるなら、
いくらでも誰でも抱けるだろ。
電話は、
うるせえな。こっちの勝手だろ。
縁が切れないままで、
ここまで来たんだからさ。
………………やっと、会えた。
話をさせてよ。
……長い話になると思うけど。
[取り出した石を放り投げる。黄緑色。]
[投げられたもの、反射的なら受け止める]
くっ。
お前、バカだろ。
勝手にしろ。
[もうとっくに手が覚えている操作で、
一本の電話を掛ける。
それからのことは、カメラの外の、お話。]**
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――11月XX日/新横浜スケート会場――
[キス&クライでコーチと並びながら、絶頂期を下回る点数を聞き届けて。 その間もずっとずっと涙は溢れ続けた。まだ滑れる、これからも滑り続ける。折角だから、客席で応援してくれた彼らに、もっと良い演技を見て貰いたい。
三日後にはまた米国へトンボ帰りだ。その間に、会いたい人に会って、ワクワクドキドキ料理教室も? 結婚の第一報は誰かな? LINE確認が捗る。]
――――……いない。
[逃げ回っているのは自分なのだから、当然なのに。観客席に彼の顔を探して、居ないことに安堵と落胆をして、半日限定の椿の花を持て余している。 衣装とスケート靴を詰めたスーツケースをガラガラと引きながら、冷えてきた空気に身を震わせると、会場近くのベンチにそっと紅花を残していった。**]
(429) りしあ 2023/05/06(Sat) 00時頃
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