10 冷たい校舎村9
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九重さん、もう帰っちゃうの?
もうちょっとゆっくりしてくれてもいいのに。
屋台のコンセプト、九重さんの発案だったよね。
私たちの屋台が優秀だって評価されたの、
きっと九重さんのアイデアのお陰だよ。
楽しい文化祭をありがとう。
私、大事に覚えておくから。
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— 二度目のチャイムが鳴る前:渡り廊下 —
[わたしと屋台を往復していた柊くん>>1:624の視線は、 わたしの人差し指を追って屋台の中へ飛び込む。
炭蔵くんの話をすると、 柊くん>>1:627もその発想はなかったらしく、 わたしは同意するように頷いた。
その後、何だか考え込むような間。 わたしは急かすことなく柊くんを待った。]
うーん……。
[柊くん>>1:630の口から聞こえたのは、 メールの送り主がもう死んじゃった可能性。 わたしはすぐ返事ができず、今度はわたしが間を貰う。]
(17) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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……それなら、なんで今日だったんだろうね。
[名前の見えないメール。 3年9組のわたしたちに宛てられたメール。 クラスの中でも文化祭に深く関わった人がいることは、 この景色からも分かりやすい。]
少なくとも文化祭とは関係ない日でしょ。 それなら、この日に意味があるとするなら……、
[わたしは言葉を区切って深呼吸した。 口全体が乾いていたみたいで、唾液を飲み込む。]
(18) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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……今日、死んだの、かも。
[XX……ううん、遺書みたいだったメール。 誰か死と無関係だとは、どうしても思えなかった。]
そうだとしたら、止まったままだとしたら。 あの時から、ずっと立ち止まったままなのかも。
[わたしたちには知識>>1:585>>1:586がないから、 こうして2人で話したところで答えは出ない。
それがお互いに分かっていたからか、 わたしは柊くん>>1:647に倣って息を吐いた。]
(19) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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んーん。関係はあんまりないの、かな。 わたし販売担当だったから馴染み深いくらい?
ほら、準備したお釣りしか入ってなかったのに、 終わったらいっぱいだったでしょ。
当日盛況すぎてあんまり離れられなかったんだよね。 優秀な客引きさんたちのおかげかな。
[失敗したな、と思った。 柊くんが鈍くないことくらい、わたしにだって分かる。 わたしが上手く誤魔化そうとしても、 柊くん>>1:648は納得した様子には見えなかった。
それでもわたしはへらへら笑っていた。]
(20) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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[当たり障りのない笑みを浮かべて 当たり障りのない会話を交わすだけ。 踏み込んでも行かないし、 踏み込ませる素振りも見せない。
——死≠ェ、 わたしがわたしでなくなること>>1:528なら わたしはもう死んでいるに等しい。
死人に口なし>>1:527。わたしは口なし。 だからわたしは、なんにも言わないよ。]
(21) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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[それに10円を財布から増やした話をしちゃったら、 会計の向井くんに迷惑かけちゃうしね。
わたしの増やした10円で辻褄があったなんて>>1:95、 迷惑をかけるだけじゃなくて、きっと嫌がるよ。
わたしは勝手にそう思って、 たとえ柊くんに違和感を残してしまったとしても 最後まで口を開かなかった。]
(22) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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1階の窓や昇降口は開かないんだったね。 じゃあ部屋をひとつひとつ見ていけばいいかな。
[わたしは柊くん>>1:660の提案に賛同して歩き始める。 一度だけ振り返ったら、そこには当然屋台がある。]
……ひとりぼっちは、寂しいよね。
[わたしたちが思い出として過去にした場所に もし未だ立ち止まっている人がいたのなら。]
だからわたしたち、選ばれたのかな。
[答えなんてないと分かっているのに、 わたしは最後に二言だけ言葉を置いていった。 きっとそれは、雪を運ぶ冷たい風に攫われて どこかに行ってしまうのだろうけど、 その前に、わたしは渡り廊下から離れる。]*
(24) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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[死人を気取って、バカみたい。]
(36) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— それから —
[柊くんと1階を探索したのは何時ごろだっただろう。 校舎の中は文化祭のまま止まっているのに、 時間はどうやら進み続けているらしい。 新しい部屋に入る度、時計と空がそれを教えてくれた。
職員室や隣の隣の会議室>>0:972は、 炭蔵くん>>0: 1170が書いた通り、誰もいなかった。 文化祭で自由解放されている以外の部屋の鍵は 職員室で管理されているらしい。 音楽室のタグがついた鍵がそのままぶら下がっていて、 無用心だなぁって呟いた。]
(37) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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[購買のレジに見覚えのある文字と名前>>1:278があって、 少しほっとしたのも覚えている。 教室を飛び出して以来、向井くんを見ていなかったから。 安心したせいかお腹が鳴ったんだけど、 財布は教室の鞄の中。我慢した。
図書室は図書室でほとんど入ったことがなかったから、 わたしは本を見るより全体を見学するように歩いた。]
(38) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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[柊くんと別れたのはいつだっただろう。 わたしはその後もふらふらと、当てもなく歩く。
途中、みんなが寝床を確保しようとしている場面に 出会えば、ちゃんとお手伝いはしたはず。
気づけば夜が迫っていた。 文化祭の準備でもこんな遅くまでいたことはない。 わたしはあちこちの蛍光灯のスイッチを押しに回る。
その間もカッターは点々と落ちていたし、 知らない誰かのため息はわたしの後ろをついて来た。]*
(39) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— PM8:50 —
[先に悲鳴が聞こえ>>#2、木霊のようなチャイムが続く。 わたしは驚いて顔を上げた。 耳に甲高い叫びが残ったままなのに、 チャイムの音が更に押し寄せてくる。
音の出処は分からなかった。 けれど2階の奥、誰か>>14が教室に入っていくのが 見えれば、わたしはそちらに歩き出した。]
わっ、
[辿り着く前に歩みを止める。足元を見下ろした。 さっきまでの感覚で踏み出した足は、 カッターナイフを蹴り飛ばしていた。 それはおはじきみたいに次のカッターナイフに当たって、 隣にあった剥き出しの刃をも斜めに飛ばす。]
(46) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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……。
[さすがに言葉が出て来なかった。 いつの間に、死の数がこんなにも増えていたんだろう。 急ぐことをやめて、 わたしはゆっくりと3年10組の教室へ近づいていく。]
(47) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— 3年10組 —
[そこには他に誰がいただろう。
そこには椅子があっただろう。 そこには誰かが腰掛けていて、 その誰かは首元を裂かれ、上を向いていた。 裂け目からはどくどくと血を流し、 だらりと手足を垂れ流している。
上を向く。何か札のようなもの>>#6と目があった。]
……っ!
[濃密な死と初めて出会って、わたしは身を竦ませた。 わたしが知っている死はお母さんくらいで、 お母さんの死はこんなに生々しくなかった。 わたしは入り口で立ち止まり、口元を手で覆う。]
(48) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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[叫んだりしなかった。泣いたりしなかった。 でもわたしは死んだままのわたしじゃいられなくて、 ううん、そもそも死んだなんていうのも烏滸がましい。
濃密な死の前で、わたしは甘ったれた子どもだった。]
……ぅ、……。
[わたしは口元を押さえたまま踵を返す。 足元のカッターを蹴り飛ばし、替えの刃も踏み潰して。 跳ねた刃先が靴下の上からふくらはぎをなぞった 気がしたけれど、そんなことを気にする余裕もなかった。
もし廊下>>29>>44に誰かがいたとしても、 ただ反対側へと走り抜けていく。]
(49) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— 3F・音楽室前 —
[辿り着いた音楽室はやっぱり鍵がかかったまま。 わたしは扉に手をついて、ずるずると座り込む。 カッターのひんやりした感触がしても気にならなかった。 階段を駆け上がった心臓が胸を叩くような音を立てる。]
う……ぇ……。
[口の中に酸っぱい味が広がる。 何も食べてなくて良かった。 わたしの愚かさを零すことがなくて、良かった。
わたしは項垂れるように、 音楽室の扉へ寄りかかっている。]**
(50) 2021/06/08(Tue) 01時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/08(Tue) 01時半頃
心外だな。
私が九重さんを殺したりするわけないじゃない。
みんなのこと殺すなんて、そんなことするわけない。
九重さんは帰っただけ。
マネキンとすり替わって、九重さんは帰っちゃった。
私、もうちょっといてほしかったのに。
こんなに急いで帰ることないと思わない?
大丈夫、みんなちゃんと帰れるよ。
心配しなくても、死ぬのは私だけだから。
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— チャイムが鳴る前:1階探索中 —
[渡り廊下を離れたわたしたちは、 予定通りに1階の部屋を見て回った。
会議室や職員室で机の下を覗いてみたって、 ヨーコ先生が震えて隠れているなんてこともない。 探しても、探しても、 わたしたち以外の人間も答えも見つからなかった。
わたしは探索の合間に柊くん>>103を覗き見る。]
(170) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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— 回想:渡り廊下でのこと —
[空想に近いわたしたちの仮定は、 正解がないからこそ際限がない。
わたしの話す今日だった理由>>19だって、 わたしたちが選ばれたって考え方>>24だって、 所詮わたしが想像したことに過ぎない。
だってわたしは、あのメールの主じゃない。 確かに文化祭は楽しかったよ。心から、本当に。
でも、もしわたしが身体ごと死んじゃう時が来たとして、 わたしは何通、メールを送れるんだろう。]
(171) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[暮石さんって、都合のいい時だけ友だちだよね」>>0:524
誰が言ったかも分からなくなってしまった言葉。 だからわたしは言われた事実だけを覚えている。
それから、 わたしがその子を 一度だって友だちだと思わなかったんだろうってことも、 覚えている。分かっていた。
わたしは、友だちが少ない。]
(172) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[とっくに死んじゃったわたしは、 柊くん>>82>>84>>85が零した言葉にも 曖昧に反応するだけだった。
「うん」「分かんないけど」「そうだね」 へらへらの相槌に虚しさを覚えない訳じゃない。 でも、いつもの音楽室より近い距離。 察しのいい柊くんの前だから、 わたしは死んだ口もあんまり開かないようにした。
特に驚かなかったというのもある。 柊くんのこと、知っているつもりはないけれど、 先に進めない柊くんの寂しさを わたしは一度だけ見たことがある気がするから。]
(173) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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— 回想:文化祭と音楽室 —
[約束もしない。会話もほとんどない。 本当はきっとすぐ来なくなると思っていた柊くんは、 今でもふらっと音楽室へやって来る。
それに気づいたのは1ヶ月くらい柊くんが来なかった後、 また顔を見せてくれた時。 わたしは胸に広がる安心を素直に表情にした。
柊くんのお願い>>0:615を、 わたしが受け入れただけだと思っていた。 でもいつの間にか、 わたし>>0:1037の方が柊くんを待っていた。
わたしは柊くんを、道具みたいに利用していた。
いつもの感想に初めて「ありがとう」って伝えた時に 困ったような顔をしちゃったのは>>0:1036、 わたしがわたしにまた少し失望したからだ。]
(174) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[それでもわたしは柊くんに何も言わなかったし、 それからも柊くんでわたしの残された命を測った。
わたしはわたしに失望したけど、 柊くんに罪悪感を抱いた訳じゃない。
だってわたしたちのこの時間の終わりは、 柊くんに委ねられている。 柊くんは聞きたくなったら来なくなる>>0:728。 だからわたしは柊くんに甘えて観客を利用し続けた。]
(175) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[文化祭の翌週、月曜日。 柊くんは音楽室にやって来た。
いつものように挨拶だけ交わすつもりだったわたしの口は たった一言、柊くんを気にかける。
柊くん>>89がぽかんとした顔をした。 その顔、あんまり見たことないな。 わたしはすぐ「なんでもないよ」って続ける。]
……。
[柊くんは察しがいい。 わたしの分かってもらう気がない言葉からも 的確に意味を拾ったみたいで、 普段より弱々しい響き>>90がわたしの耳に届く。
視線をちらりと柊くんの方に向けると、 体育座りをした膝に顔を埋めていた。 明るめの髪が秋の風に揺れている。]
(176) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[わたしは何も言えなかったから、 いつもと同じようにピアノを弾く。 それしか、できない。
春が過ぎ、夏休みも挟んだわたしの指は もう一瞬でも思い通りに動いてくれない。 それでもある程度の曲までなら弾き切ることができる。
ここがわたしの底なのかもしれない。 もつれた音が時折わたしの耳を掠めた。]
え……。
[わたしが鍵盤から指を離した後、柊くん>>91が呟いた。 いつもの感想>>0:847を待っていたわたしは、 予想外の言葉にちょっとだけ面食らう。]
(177) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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……うん。 音楽にもいろいろある、けど。 必要な時に寄り添ってくれるものだって、 わたしは、思うよ。
[休符をいくつか挟んで、わたしも静かな声で返した。 不思議な気分だった。 その一瞬だけはいろんなしがらみも忘れて、 言いたいことを言えた気がする。
わたしの音楽はもうほとんど息をしていなくて、 いつ月曜日が嫌になってもおかしくなかったのに。 それでもわたしがピアノを弾き続けた理由のひとつは、 1人の観客がいてくれたからだった、のかも、ね。]*
(178) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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— チャイムが鳴る前:柊くんと それから、 —
[結局どれだけ探しても有力な情報は見つけられなくて、 わたしたち探索隊は寝床の準備>>105のために解散した。
わたしの手には柊くん>>104が買ってくれた クリームパンがある。 最初わたしは遠慮したんだけど、 そこそこ大きなお腹の音が鳴ったところで観念した。
お昼ご飯に食べる物は決まってなくて、 むしろ同じ物にしないことがこだわりかってくらい ころころ変わる。]
(179) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[おにぎりの日もあればパンの日もあるけれど、 強いていうなら甘いもの>>0:595が多かった。 乃絵ちゃんと一緒にご飯を食べる日にも 時々登場するメンバー>>0:772だ。
くるんと丸くて、中のカスタードはとろっと甘い。 わたしは「後で返すね」って柊くんにお礼を言って、 まるまるとしたクリームパンを受け取った。
それからあちこちを回ってお手伝いをしても エネルギー切れにならなかったのは、 クリームパンを食べたおかげだったのかも。]*
(180) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[それから、午後8時50分。 二度目のチャイムが鳴る。]
(181) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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— 現在:3F音楽室前 —
[夜は何も食べていないから、 口内に広がる酸味は、微かに甘い匂いがした。 わたしは身を折って、口元を押さえて、 なけなしの中身をひっくり返そうとする胃に抗う。
全身が死を拒んでいた。]
(182) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[どう思ったらいいんだろう>>1:530、なんて。 わたしはきっと死を記号としか捉えられていなかった。
わたしは九重さんをよく知らない。 ひとみちゃんや綿見さんみたいに話したことも多くない。 屋台のデザインにいいねーって言ったくらい。 今日もわたしがあんまりひと所に留まらなかったせいか、 姿すら見かける機会がなかった。]
う……。
[赤い血、裂けた首。 顔が上を向いていたのはそのせいだ。 段ボールもそうした方が折り曲げやすくなるもんね。
そんなこと考えなくていいのに、わたしの頭には ・・ 九重さんの死体とぎっしり貼られたお札みたいなものが 焼きついてしまっている。]
(183) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[音に気づいたのは、その人が近くに来てからだ。 ひとみちゃん>>70の声にわたしは顔を上げる。]
ひとみ、ちゃ……。
[3年、一緒に帰ったけれど、 わたし、ひとみちゃんにこんな姿見せたことない。 こんな顔、見せたくなかった。 こんな弱々しい声、聞かせたくなかった。
だって、楽しいことだけでいいでしょう? 表面をなぞって、笑って、それだけで。
でも今のわたしに実行するだけの余裕はなくて、 そのままこちらを見るひとみちゃんと目を合わせた。 泣いてないことだけが救いだ。]
(184) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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うん、うん……分かってる、分かってるんだけど、ね。
[座った足のあちこちがちくちくする。 ちょっと切れちゃったところもあるかもしれない。 わたしは立ち上がろうとしたけれど、 地面に広がる刃物の多さに怯えて手を引っ込めた。]
こわく、なっちゃった。
[よく分からない場所に迷い込んで、 2階の窓の下が遠くて、渡り廊下から踏み出せなくて。 それでもわたしはまだ何とかなると思ってた。
九重さんの話を聞いていないから原因を知らないし、 解決策は何も浮かんでいないけれど、 それでも、いつか皆で元の世界に戻るんだと思ってた。]
(185) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[だってわたし、危険を知らない。 命を脅かされない世界で死人を気取ってた。
だからメールを送った人が無事ならいいなぁって どこか他人事で。 何かしよう>>1:597って炭蔵くんに言葉を重ねても わたしに何ができるのかなんて何にも分かってない。
王様>>35と同じ景色を見た気がしても、 結局わたしは埋もれる民衆に過ぎなかった。
わたしはぽっかり穴が空いた分余裕があるだけ。 みんな二本の腕しかないことすら気づかない。]
(186) 2021/06/08(Tue) 17時半頃
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ごめんね。 ひとみちゃんも平気じゃないよね。
[ひとみちゃんだって大丈夫そうには見えなかった。 わたしは両手を重ねて指を撫でるひとみちゃんを見る。]
……九重さん、ころされた、のかな。 ちゃんと、寝かせてあげないと、だよね。
[わたし、あれが人形だって気づいてない。 だってよく見る余裕がなかった。 だからわたしは躊躇する言葉を口にして、 音楽室の扉の縁に手をかけながらゆっくりと立ち上がる。
足元を見ると、白い靴下に赤い点がついていた。 すぐ血が止まるくらいの小さな傷だったのだろう。 痛みもない。]
(187) 2021/06/08(Tue) 17時半頃
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[犯人がいるのなら、一人でいるのは危険だ。 わたしはひとみちゃんに手を伸ばす。 未だ、カッターを拾うことはできないまま。]
わたしじゃ力不足かもしれないけど、
[わたしが思い浮かべたのは、ひとみちゃんが 忘れたくても忘れられない”人”>>1:342のこと。 疲れたんだ>>1:241って言ってた。 でも忘れられないくらい大きな存在なのかなって思う。]
一緒に、いよ。
[でもここにいるのはわたしとひとみちゃんだけ。 その”人”はいない。
だったら、 ひとみちゃんに手を差し出せるのはわたしだけだ。 わたしは未だ怯えを隠せない顔でへらりと笑った。 こんな時でも、わたしはやっぱり薄っぺらい。]*
(188) 2021/06/08(Tue) 17時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/08(Tue) 18時頃
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— 3F音楽室前 —
[見上げたひとみちゃん>>193の顔を汗が伝う。 それがわたしを追いかけてきたせいでないことくらいは、 わたしにだって分かった。 だって、きっと同じ気持ちだもの。 今のひとみちゃんの顔はわたしの鏡だ。]
え……にん、ぎょう?
[立ち上がって、ひとみちゃんと同じ目線の高さになって。 わたしは九重さん>>194の真実を知る。 ひとみちゃんはどこか自信がなさそうだったけれど、 その時、階下の方から声>>192が聞こえた。]
(225) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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そう、みたいだね。
[鳩羽くんだ。鳩羽くんが、九重さんを探している。 このタイミングで九重さんを呼ぶ人が、 3−10に広がる光景を知らないとは思えなかった。
いくら曇天を覗かせても、 やっぱりお日様みたいな人だと思う。 だって、確証のなかったことが彼の声のおかげで晴れた。
わたしは視線を声がした方へ向け、 改めてひとみちゃんを見つめる。]
(227) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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[ひとみちゃん>>195はわたしを友達だって言う。
名前を呼び合ったらともだち? いつも一緒にいたらトモダチ? 友だちになるには、どんな条件が必要だろう。
わたしはよくそんなことを考えるんだけど、 どうしてか今のひとみちゃんの言葉はすんなり入った。]
うん……わたしも、心強いよ。
[たったひとつ、大切なものがあれば、 他には何もいらないと思っていた。 でもそれじゃいけないらしい。
だからわたしは普通であろうとして、 誤魔化して、失敗して、埋まらないものがあって。]
(228) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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ひとみちゃんがいて良かった。
[わたしは、友だちに手を差し出す。]
(229) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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[ひとみちゃんの手より先に、 わたしの手のひらに何か>>197が乗った。]
お守り……?
[指の隙間から薄い青色が見える。 指を動かすと柔らかい肌触りと硬い感触。 小さくて、ちょっとデコボコで。]
ぼたん、かな。
[わたしは答え合わせみたいにひとみちゃんへ尋ねる。 ひとみちゃんだって怖いのに、 わたしが持ってていいのかなと思ったけれど、 わたしは頷いてひとみちゃんの手ごと握りしめた。]
(230) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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ありがとう。大切にするね。
[わたしはただ、そう約束した。 人形だと分かったとはいえ、九重さんの状況を見た後に 先の話をするのはまだちょっと怖かったから。 約束して、ひとみちゃんの手を引こうとする。 両手が離れた彼女の指>>70には傷が見えたはず。]
(231) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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[わたしはひとみちゃんの手を引き、近くの水道へ向かう。 ひとみちゃんが嫌がらない限り、 ひとみちゃんの指先を流水に晒そうとする。 終わったら、今度はわたしがポケットに手を入れて、 ハンカチでひとみちゃんの指を包もうとした。]
使ってないやつだから、ちゃんと綺麗だよ。
[水分をとらなかったせいか、実感が薄かったからか、 使う機会がなかったのは幸運なのかも。 水で洗えたとしてもそうでなくても、 わたしは紺色のハンカチをひとみちゃんに渡す。]
お守りにはならないけど、お返し。 持ってて。
[あげる、とも、後で返して、とも言わない。]
(232) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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わたしたち、いつになっても約束しないねぇ。
[こんな時でさえ、 わたしとひとみちゃんの間に約束は生まれない。
いつもみたいにはできなかったけど、 わたしはほんの少しだけ笑うことができた。 改めて、釦と一緒にひとみちゃんの手を繋ごうとする。]
そうだねー。 今日は何の話、しよっか。
[ここは夕方の通学路じゃない。 夜の止まった校舎で、わたしたちは歩き出す。]*
(233) 2021/06/08(Tue) 20時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/08(Tue) 20時半頃
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[ともだちなら、名前を呼び合わなきゃいけなくて。 トモダチなら、何でも一緒にしなきゃいけなくて。
友だちにそういう決まりごとがたくさんあるなら、
ずっと、いらないって思ってた。]
(281) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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— 夜の止まった校舎で —
[わたしは隣を歩くひとみちゃんを見た。 廊下を並んで歩くことは初めてじゃなかったけれど、 こんなに遅い時間に一緒にいたことはない。
わたしは、ピアノのレッスンがあって。 ひとみちゃんは、ご両親が心配するから。
わたしたちは、違う理由でいつも早く校舎を離れた。]
痛くない?
[わたしはひとみちゃんに尋ねる。 ひとみちゃんの手には紺色のハンカチが巻かれていた。 ひとみちゃんが平気なら、わたしが繋ぐのはこっちの手。
流水に触れてきっと冷たくなっているだろう。 わたしの人より大きな手で、 釦とハンカチごとひとみちゃんの手を包むつもり。]
(282) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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[大したこないってひとみちゃん>>258が言ったから、 わたしは保健室に行こうとは言わなかった。
だからわたしたちに目的地はない。 なんとなく、3階の廊下をゆっくりと歩いていく。]
雰囲気あるねぇ。
[電灯をつけているとはいえ雪夜の校舎は暗くて、 ひとみちゃんが言ったお化け屋敷>>257を彷彿とさせる。 さっきの光景を忘れた訳じゃない。 だからわたしは、ひとみちゃんが渡してくれた釦と ひとみちゃんの手を決して話そうとはしなかった。]
うん。
[ひとみちゃん>>260が口を開いて、わたしは頷いた。 前と言われてわたしが思い浮かべるのはひとつだけ。 曲が転調する前みたいにひとみちゃんの声が止まる。 わたしは大人しく続きを待った。]
(283) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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[語られる話>>261は、確かに信じ難いものだったと思う。 でもわたしはすんなり受け入れることができた。]
どんな人なのかなとは思ってたから、 なんかちょっとスッキリしたかも。
[だって、わたしの中には既に その人>>342の居場所ができていたんだから。
わたしたちは間違いなく3年間一緒にいたんだなって、 そう、思った。
思ったから、わたしはひとみちゃんに笑いかける。]
(284) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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知ってたよ。
ひとみちゃんが気にかける誰かがいることも、 ひとみちゃんがよくどこかを見ていたことも。
それが繋がっていることには気づけなかったし、 誰なのかも分かんなかったし、 その……聞こうとも、してなかったから。
[謝るひとみちゃん>>262にわたしは首を横に振った。 それから、わたしの懺悔を返す。]
(285) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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……わたしには譲れないものがあって、 それだけあれば他はどうでもいいと思ってたの。
あ、ひとみちゃんを蔑ろにしてた訳じゃなくてね。 その……だから、分からなくて。
わたしが、みんなとどんな距離感でいればいいのか。 ひとみちゃんの悩みごとに、何て答えたらいいのか。
わたしなんかが、踏み込んでいいのかって。
[わたしは手を握りしめる力をほんの少しだけ強めて、 手のひらに触れる釦の感触を確かめようとする。]
(286) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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楽しいことは、楽しいでしょ。 でも内に秘めたものって楽しいだけじゃない。
だったら、触れないようにしようと思った。
踏み込んで傷つけるか、 踏み込まないで関わらないなら、 後者の方がずっとラクなんじゃないかって。
わたしは、どっちでもいいから。 相手がラクな方を選びたかったの。
[ため息を吐かれるのも平気。たぶん怒られたって大丈夫。 嘘をつくのもあんまり抵抗ない。 嫌われてもいいけれど、それは相手に申し訳ないな。
わたしは別にラクじゃなくていい。 それなら、相手が一番ラクな道を選びたかった。]
(287) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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……全然、上手くできなかったけどね。 だから、謝るならわたしの方だよ。
ごめんね。気づいてたのに、何もできなくて。
[わたしは、ひとみちゃんがいつも見ていた辺りを向く。 一人の時に話しかけるなら、今はいないんだろうけど。]
はじめまして。やっと、会えたね。
[疲れてしまったひとみちゃん。 忘れた方がいいのかなって考えているひとみちゃん。
わたしはその答えを渡すことはできない。 だってひとみちゃんしか、その人を見てあげられない。
わたしは視線を戻して、ひとみちゃんを見る。 わたしにも見ることのできる、友達を見る。]
(288) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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……あくまでわたしは、なんだけど。 大切なものって、そう簡単に忘れられないんだよ。
だからそれでもいいんじゃないかな。 できないことはできなくてもいいの、かも。 大丈夫になったら、自然とどうにかなるの、かも。
なんか無責任かな。ごめんね。
やっぱりわたしにできることは少ないけど……、 疲れた時は呼んで。一緒にいるよ。
[心強いと言ってくれた>>195から、 わたしは少しだけ勇気を出してひとみちゃんに伝えた。 隣にいるって伝えるように、もう一度手を強く握る。]*
(289) 2021/06/08(Tue) 22時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/08(Tue) 23時頃
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— 3F廊下 —
[ひとみちゃん>>311の抱えたものの重さとは裏腹に、 わたしの返答は軽いものだったと思う。 ひとみちゃんの納得したような様子を耳にしながら、 わたしはわたしの考えをひとみちゃんに伝えた。]
分かるの?
[わたしとひとみちゃんはそんなに似てないと思う。 だからこそ帰り道の話にはバリエーションがあったし、 わたしはそれを悪いことなんて微塵も思ってない。
だからわたしの考えにひとみちゃん>>312が 共感してくれた時、少しだけ意外そうな顔をした。]
(330) 2021/06/09(Wed) 00時頃
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重い、かぁ。確かにそうだね。 1人じゃ抱えきれないものって重いんだ。
[重くて抱えきれないから、つらい。苦しい。 「聞いてくれただけで」とひとみちゃん>>314は言う。 だからその言葉が空元気じゃないって、わたしは ひとみちゃんの本当を素直に信じることができた。]
(331) 2021/06/09(Wed) 00時頃
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[ひとみちゃんが笑って、わたしも笑う。]
ううん、こっちこそ、だよ。 ……ありがとう。
[繋いだ手はあたたかい。]
(332) 2021/06/09(Wed) 00時頃
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[唯一、ひとみちゃんが自分にとって大事なもの>>313に 触れた時だけ、あまり上手く笑えなかったけど、 さっきみたいにわたしの気持ちが塞ぐことはなかった。]
確かにちょっと空いてきたねぇ。
[何ならあんなに裏返ろうとしていた胃が 空腹を訴えてきたくらいだ。 わたしは驚きながらひとみちゃん>>315の意見に頷く。
あれが九重さんの人形だとしても、 九重さん本人の安全が保証された訳じゃない。
とはいっても探すためのヒントがあるはずもなく、 わたしはひとつ提案をした。]
(333) 2021/06/09(Wed) 00時頃
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じゃあ、一回教室に戻らない? みんな戻ってきてるかもしれないし、 わたし、お財布鞄の中に入れたままなの。
[あの3−10の隣に戻るのはまだ少し怖いけど、 わたしたちが最初にいた場所はあそこにしかない。
教室なら情報も得られるかもしれないし、 泊まる準備に自分たちの荷物はあった方がいい。 食事を購買で賄うとしたら、お財布はやっぱり必須だ。]
ひとみちゃんはどうする?
[わたしは隣を歩くひとみちゃんを見た。 ひとみちゃんが抱えているものは何も解決していない。 それでもひとみちゃんはこうしてちゃんと立っている。
だから、だろうか。わたしは口を開いた。]
(334) 2021/06/09(Wed) 00時半頃
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……もし、もしさ。 ここからみんな戻れたら、また一緒に帰ろうね。
それ、で、その時、もしよかっ、たら、 、わたしの話……も、聞いてほしい、な。
[なんて不恰好だろう。 わたしのお願いする声はぐちゃぐちゃだった。
今、言えたらいいんだけど、ひとみちゃんみたいに 誰かに打ち明ける勇気がまだ持てない。
だから初めて、 わたしはひとみちゃんに約束を持ちかける。 ひとみちゃんが渡してくれたぼたんの代わりに、 何の変哲もないハンカチを差し出したみたいに。]
(335) 2021/06/09(Wed) 00時半頃
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もしもう平気になってたとしても、 笑い話みたいに聞いてね。
……わたしも、ね。 ひとみちゃんとの帰り道、すっごく楽しかったんだよ。
[だから、ね。って。 約束を無理強いするつもりはないから、 それ以上押すつもりはない。]
(336) 2021/06/09(Wed) 00時半頃
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[ため息が聞こえる。 カッターの数は増えて、ひとみちゃんがそうしたように、 小石よろしく蹴飛ばせそう。
これが何を意味するのかはっきりしないけど、 メールの誰かも抱えきれない重さに苦しんでいるのかな。
——まだ、何も解決してない。 わたしは気を引き締めて、階段へ向かおうとした。]*
(337) 2021/06/09(Wed) 00時半頃
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— 3階廊下 —
[わたしたちは次の目的地を教室に定めた。 ひとみちゃん>>338は一ヶ所寄り道するらしい。 進もうとしたわたしとひとみちゃんの間に一歩分の 差ができて、腕が引かれた紐みたいに上がる。]
……うん、分かった。 何があるか分からないから気をつけてね。
[一緒にいようと言った手前迷ったけれど、 ここから教室まではそこまで距離がない。 わたしは頷いて、ひとみちゃんの手を離す。
ひとみちゃんの指には紺色のハンカチが、 わたしの手には薄青色のぼたんが残った。]
(342) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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[わたしの拙い約束に、 ひとみちゃん>>339が微笑んだ気がした。
わたしの抱えたものも、 ひとみちゃんの抱えたものも、 何ひとつなくなってはいない。
でも心が少し軽くなったのも本当だから、 わたしは初めての約束を笑顔で交わした。]
(343) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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[それから、]
ひとみちゃん。
[階段を降りる手前、 わたしはひとみちゃん>>340を呼び止める。]
ひとみちゃんが良かったら、 友達のこと、また聞かせてね。
[こっちは約束じゃなくてお願い。 ううん、お願いより柔らかいわたしの気持ち。
ひとみちゃんが疲れちゃった理由が 信じてくれないこと>>261なら、 わたしなら大丈夫なんじゃないかな。
ひとみちゃんの事情を何も知らないわたしには、 こういうことしかできない。 こういうことが、できるんだ。]
(344) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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それじゃ、先行ってるね。
[ひとみちゃんはどんな反応をしただろう。 わたしはぼたんを握った手を振る。 ひとみちゃんの姿>>340が角の向こうに消えるのを 確認してから、階段を降り始めた。]*
(345) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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— 2F廊下 —
[2階へ戻ると、3−10の扉は閉まっていた。 その扉には「グロ注意!」って大きな文字>>234。 近くのポスターを使ったんだろう。 掲示板の一角がその大きさだけ欠けていた。]
……。
[わたしは震えそうになる足に力を込め、 その隣、3−9の扉に手をかける。]
(346) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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— 3−9教室 —
[見慣れた教室は夜の薄布がかけられて、 どこか暗い印象を覚えた。 人がいないせいもあるだろう。 部屋に詰められた椅子と机はほとんどが空席だ。]
鳩羽、くん……?
[その中で唯一埋まった席にわたしは視線を向ける。 机に突っ伏した頭は朝見た時より燻んで見えた。]
……。
[寝てるのかな。倒れてはいない気がするけれど。 九重さんのことを思い出して、 わたしの喉がひゅ、と音を立てた。]
(347) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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[足音を殺して近づいて、頭の近くで耳をそば立てる。 呼吸音が聞こえたなら胸を撫で下ろしただろうし、 それより前に鳩羽くんが気づいたなら それはそれで安心だ。だって、ちゃんと生きている。
どんな結果にしろ、わたしの視線は一度黒板へ向かう。]
こんなの、あったんだ。
[朝出て以来、わたしは教室へ戻ってきていなかった。 見覚えのある炭蔵くんの書き込み>>0:1170以外に、 既に知っている扉や窓のこと>>1:163>>1:281、 もちろん、人形>>2:79のことも。安堵の息を吐く。]
(348) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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えっと、
[わたしはチョークを手に取って、 情報ゾーンに書き込みを増やした。
・1階と2階の部屋は文化祭の仕様になっていること (3階はまだ見て回れてないこと) ・そのどこにもわたしたち以外の人がいないこと ・渡り廊下から外に出ようとしてもできないこと
もうみんな知っているかもしれないけど、一応。 渡り廊下の話はしばらく悩んだ後、 わたしはわたしが経験したままを書いた。]
(349) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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[それから、わたしの目は見覚えのある文字へ向かう。]
うーん、大丈夫……元気、は違うか。 ごはん……た、べ、た?
[乃絵ちゃん>>1:577の文字の右下に、右肩上がりの文字。
だって、ため息が聞こえる。 乃絵ちゃんに失望が降り注いでいるかも。そう思った。
「大丈夫」や「元気」は乃絵ちゃんが気にしそうだから、 わたしは「ご飯食べた?」を選んだ。大事なことだ。 その後に「くれいし」を付け加える。
話が逸れるけど、わたし自分の苗字を漢字で書くの、 正直あんまり好きじゃない。 だって形がお墓に少し似てるでしょ。
まぁ、今そんなことはどうでもいいから、 書き終わればわたしはチョークを手放す。]
(350) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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クレープ……。
[綿見さんの伝言は、他のものと少し温度が違っていた。 でもわたしの空腹にはぴったりだったみたいで、 お腹がいい感じの音を立てる。]
[鳩羽くん>>192はどうしていただろう。 わたしは手を払った後、自分の席へ戻って鞄を開いた。
取り出すのはぬる〜い>>0:945を通り越して そこそこつめた〜いホットレモン。
キャップを開けて傾ければ、さっき上がってきた 酸味とは違う爽やかさが、口内を洗い流してくれた。]**
(351) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 01時半頃
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— 3−9教室 —
[もし、クレープのことを黒板に書いた綿見さん>>255が まだ教室にいて鳩羽くんと話していたとしても、 わたしの安堵と行動はほとんど変わらなかったはず。
その時は、2人の話を邪魔しないよう先に手を振って 黒板に文字を書き連ねただろう。]**
(388) 2021/06/09(Wed) 08時頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 08時半頃
夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 13時頃
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— 22時が迫る頃:3−9教室 —
[教室に入って時計を見上げたら、もう寝てもいい時間。 教室の中には鳩羽くん>>403と綿見さん>>458がいた。 2人は話し終えたのか、ただ同じ場所にいるだけなのか、 静まり返る教室に、わたしの喉の音>>347だけが響く。]
……。
[落ち着いて考えれば、綿見さんが落ち着いている時点で 鳩羽くんが死んでいるなんてありえないと分かるけど、 あの光景を見た後だと、どうしてももしもを拭えない。
鳩羽くんの席は窓際>>1:54にある。 わたしは綿見さんがいる前で教室を横断し、 おそるおそる鳩羽くんに近づいた。]
(520) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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おぉ……、失敬。
[あと少しで鳩羽くんの音を確かめられるかというところ、 机に伏せていた顔>>406が急に上がった。
驚いたよ。驚きましたとも。 おかげでどこかで誰かに言った>>0:1036みたいに 変なこと言っちゃった。 別に時代物を好んでいる訳じゃないんだけどな。
耳慣れない言葉にわたしの動揺を誤魔化せますように。 そう思ったのに、鳩羽くんが少しだけ笑うから。]
うん、生きてるね。
[なんて、仰け反る鳩羽くんへ正直に言っちゃった。 わたしはそのまま黒板へ向かい、 わたしが見てきたこと、言うべき言葉を綴る。]
(521) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[手をあげて先に生存確認を済ませた綿見さんは わたしの文字を見ながらぽつりと呟く。 文字を書き終え、教室を出ていく綿見さんを見つめた。
瞳と同じくらい黒い髪。 何だか背後にいても見られているみたいだ、なんて さすがに空気に呑まれすぎかな。]
クレープありがと。 食べるの楽しみにしてるね。
[わたしが貰ったレシピのクレープはあるかな。 わたしの文化祭は写真一枚とレシピひとつになった。 綿見さんとわたしを繋ぐ思い出に、わたしは声で触れる。 半拍、息を吸った。]
(522) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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楽しいだけなら良かったのかな。 ……でも、現実じゃなくなっちゃうけどね。
[綿見さんが教室を出ていく。 1人は危ないと呼び止めようとしたけれど、 その先が浮かばずに、わたしは見送るだけになった。]
(523) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[わたしはチョークを置き、鳩羽くん>>407へ向き直る。 顔を伏せている時には分からなかった。 声も、顔も、夜みたいに暗い。]
……。
[手元を見つめる鳩羽くん>>408を見て、 わたしは返事を止めて自分の席へ戻った。
取り出すのはつめた〜いレモン。 目を閉じたら、身体に入っていく道が分かる気がした。 残りの半分を傾けたら目を開く。]
(524) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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ね。お茶目じゃなかった。
[わたしの席は左から二列目の一番後ろ>>0:1154。 鳩羽くんから隣の列。 ここから鳩羽くんを見ると、空の色がよく見えた。
雪の止む気配はなく>>#0、分厚い雲が重たく広がる。 鳩羽くん>>409の目にもお日様は見当たらない。]
(525) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[わたしは握りしめていた薄青色のぼたん>>196を ハンカチの代わりにポケットに入れる。 これで片手が空いた。 わたしはホットじゃないレモンを左手に持ち替え、 鳩羽くんの机に向かう。]
うん。
[机の前に回ってしゃがみこむと、 わたしは鳩羽くんの机に両腕を乗せた。 ……訂正。 ちょっと高さが足りなくて、踵を持ち上げて誤魔化す。]
(526) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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それはね、さすがのわたしでも分かるよ。 あと、元気がないのは悪いことじゃない。 何なら普通でしょ。今、この状況なら。
[少なくとも、わたしは鳩羽くんより元気だ。 だってクレープの文字にお腹が震えたし。 そうあれたのはひとみちゃんのおかげなんだけど。
3年間のつかえが取れて、未来の約束もした。 力になれるならって思ったけど、 結局ラクになったのはわたしの方なのかも。]
(527) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[そんなことを知らない鳩羽くんは、 平気そうなわたしを見てどう思うんだろう。
彼が学校中を探し回った>>192なら わたしたちの姿も目撃したかもしれないけど、 たぶんわたしはひとみちゃんを見ていて気づかなかった。
わたしが知っているのは、わたしの不安を ひとみちゃんと一緒に晴らしてくれた声>>227だけだ。
1年前まで、他人からの見え方を気にしたことのなかった わたしは、今でもそういうとこ、ズボラなんだよね。]
(528) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[わたしは鳩羽くんの机の上に、 鳩羽くんが綺麗だって言った指を広げる。]
綺麗でしょ。 ずっとずっと大事にしてきたからね。
[右手の指3本にチョークの粉がまぶされた以外に 傷も汚れもなくて、爪の短いわたしの手。 鳩羽くんの手はどこにあったかな。 もし近くにあるのなら、横に並べて見せようか。]
わたしのたからもの。
[鳩羽くんの笑みは弱々しくて、声は掠れていて。 続く言葉>>411にわたしはへらへら笑う。]
(529) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[元気がないことを誤魔化すみたいに続いた言葉>>411に、 わたしは不思議そうに瞬きをする。]
なんだ、そんな風に思ってたんだ。
[やっと解けた勘違い、鳩羽くんが引きずっていたもの。 わたしはそれを何てことないみたいに返す。]
お母さんのことは、いいの。大丈夫。 死んじゃったけど。死んじゃったから。
[わたしは首を横に振ってから口を開いた。]
(532) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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思い出さなくても、忘れたことないしね。
(533) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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いつも笑ってる鳩羽くんにも、 そういうことあるんだって思ったんだよ。
当たり前だよね。誰もが何かを抱えてる。
[雨みたいに弱音を降らせる子>>0:718がいる。 髪の向こうに眸を隠して、永遠に留まりたい気持ちを 否定できない人>>1:493がいた。 足元が崩れた途端走り出した子>>1:29もいたし、 月曜の音楽室、膝に顔を埋めた人>>90もいたね。 たったひとり、 自分にしか見えない存在を隠してきた友達>>261もいる。
もし、今が楽しいだけの思い出>>458の中だとして ここにはわたしたちしかいないんだけど、 それでいいのかな。]
(534) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[ひとつ、気づいたら、 たくさんの重しがわたしの周りにあるような気がして。
ふと、柊くん>>84との話を思い出した。]
みんな、寂しいのかな。 ……鳩羽くんは、寂しい?
[鳩羽くんとの話し方、忘れちゃったと思ったのに、 わたしはするすると言葉を紡ぐ。 腰が抜けた拍子に、死人の皮が取れちゃったのかな。
選べねー運命っていうのは、 どのくらい鳩羽くんを苛んでいるんだろう。 朝なら聞けなかったことをわたしは口にして、 鳩羽くんを見上げた。]
(535) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[眠るように棺に収まったお母さんと 首の裂けた九重さんの人形。 わたしは濃密な死に怯えはしたけれど、 その二つを悲しみで秤に乗せることはなかった。
だから今度はわたしが、深呼吸もせずに 鳩羽くんへちゃんと笑って見せよう。]
(536) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[だって、わたしが左右に吊り下げたのは、 『死んだお母さん』と『生きているお父さん』だけだから。]*
(537) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 21時半頃
夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[わたし、首が裂けた九重さんを見た時、 怖いと思った。生々しい死に怯えた>>48。 人形だって気づかなかったから尚更。
……でもね、わたし。 ひとみちゃんが教えてくれて、鳩羽くんの声が届くまで、 一度だって、九重さんが死んだことに悲しんでない。
そのことに、気づいちゃったの。]
(588) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[わたしの心は、夢と一緒に埋まっている。]
(589) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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— 夢が終わった日 —
[お母さんのお葬式には、 会ったこともないような人がたくさん来た。
お母さんの親戚に、お母さんの教え子。 お父さんの両親も来てくれた。
お父さんとお母さんの家はどちらも裕福で、 喪服の良し悪しなんて分からないけど、 制服を着たわたしにはみんなすごい人に見えた。]
(590) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[最初にわたしを抱きしめてくれた>>1:526のは、 お母さんの妹だった。 喪服からは防虫剤と それを打ち消す上品な香水の匂いがした。
おばさんが「芽衣ちゃん」って呼ぶ。 わたしは「はい」って返事をした。
——大変だってね。って、どういうことだろう?
次にわたしの前に現れたのは恰幅のいい男の人だった。 お母さんのいとこなんだって。 小さい頃わたしと遊んでくれたこともあるらしい。 皺混じりの大きな手が、わたしの頭を撫でる。
——もう無理しなくていいんだよ。って、何?]
(591) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[それからも大人が次々とわたしのところへやって来て、 わたしを気にかけてくれた。
確かにお母さんが突然死んじゃって、わたしは悲しいよ。 これからどうしようって不安もある。 でもまだ実感だって湧いてないし、 そうじゃなくても泣き喚くような子どもじゃない。
それなのに、みんなの優しさはわたしの頭上を飛び越え、 わたしの知らない方を向く。]
(592) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[——わたし、 お母さんの夢を押しつけられた子なんだって。]
(593) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[みんな、お母さんのことが嫌いなのかなって思ったけど、 親戚も教え子さんたちもお母さんのことを貶したりは 絶対しなかった。
「ちょっとやりすぎちゃっただけなんだ。 だから許してあげてね」
お母さんは悪気があった訳じゃないんだよって、 わたしに言うの。 お母さんのこと悪者にするのに、庇うの。
……あぁ、わたしがお母さんを悪者にしたんだ。 そう気づくのに、時間はかからなかった。]
(594) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[確かに、最初はお母さんに言われて始めた習い事だった。
確かに練習はきつかった。 友達と遊びたいって思ったことも本当。
楽譜より絵本が読みたいって駄々を捏ねたこともあるし、 自転車で遠くに行ってみたいって思ったこともある。 優しいお母さんの鬼のような顔が怖くて泣いたり、 放課後に友達と遊びたいって言った時は、 ピアノのある部屋に閉じ込められたんだったね。
でも、ね。 わたしにはお父さんとお母さんの血が流れているけど、 お母さんの血は煮詰めたワインみたいに濃いみたい。]
(595) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[わたしは、世界中の何よりもわたしの音楽を愛してる。]
(596) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[ピアノが弾けなくなるくらいなら、
絵本なんていらないし、 自転車を没収されても平気だよ。 練習で叱られて何度泣いても頑張れるし、 閉じ込められた部屋でもずっとピアノを弾いていた。
どんなに苦しくても、辛くても、嫌なことがあっても、 たとえ家で泣いてばかりだったとしても、 友達だと思える人が誰もいなくても、 誰になんと言われても、どんな風に見られても、 ラクなんていらない。わたしはそれで良かった。]
(597) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[でも。それが、ダメだったんだよね。]
(598) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[死んだお母さんは可哀想な悪者になって、 生き残ったわたしはピアノから離れた日々を許された。
抱きしめる腕を押しのけ、ピアノを弾きたいと言っても、 「もういいんだよ」って言われる。
撫でる手を払い、わたしが望んでいるんだよと言っても、 「お母さんはもういないから大丈夫]って言われる。
あんな風に苦しまなくていいんだよ、だって。 もう何も犠牲にしなくていいんだよ、だって。
わたし、誰を恨めば良かったのかな。 お節介な参列者? 何も言わないお父さん? この物語の悪者は誰なんだろう。]
(599) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[その答えはすぐに見つかった。 お葬式の夜のことだ。 わたしは怒りが収まらなくて眠れなくて、 お水でもがぶ飲みしてやろうって、リビングに降りた。
お父さんが、泣いてた。 お母さんの写真を見て、名前を呼んで。
——すまない、って。 守ってあげられなくてすまない、って。]
(600) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[お母さん、ずっとみんなから言われてたんだって。 「芽衣ちゃんを解放してあげて」って。 でもその度に「芽衣の夢でもあるから」って突っぱねた。 外側に不器用なとこ、お母さんに似たんだね。
お母さんは知っていた。お父さんも分かってた。 お父さんはわたしの頭を撫でて、 わたしの好きなことをしていいんだって言ってくれた。
お葬式と同じ、悲しそうな顔をしていた。 お母さんのこと悪く言われるのが嫌なんだなって、 わたしはすぐに分かった。わたしもそうだったから。]
(601) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[わたしの夢は2人に守られていた。
わたしがもっと楽しそうにしていたら、 わたしがもっと他のことにも目を向けていたら、 わたしの愛、ちゃんと信じてもらえたかな?
お父さんもお母さんも、責められずに済んだかな。
だって、どこにも悪意がない。 悪意がないのに大切な人が泣くのなら、 悪者はわたしでいい。
わたしだけで、いい。]
(602) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[ごめんね、お母さん。 夢、叶えられなくなっちゃった。お母さんは怒るかな。
でも、わたしは お母さんとわたしを愛してくれるお父さんを守るよ。
ちょっとの間だけお母さん悪者になっちゃうけど、 時が経てば、みんな忘れてゆっくり休めるから。 お父さんが悲しい顔しなくて済むから。
おかあさん おとうさん わたしは死んだ人間より生きてる人を選んだ。]
(603) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[母親に夢を無理やり継がされかけた芽衣ちゃんは、 父親を始めとした大人たちのおかげで 自由を取り戻すことができました。
めでたしめでたし。]*
(604) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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