27 【crush appleU〜誰の林檎が砕けたの?】
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[意に反した大学に進学し一時でも手を離れた息子を 高祈氏は何ら意に介さず迎え入れ、育てている。
その程度の想定外は彼にとって何ら問題ではなかった。 従順に用意した通りの道を踏んでいく姿に、 漸く役に立つ存在になりつつある駒に、満足していた。
長男のほうがずっと優秀だった。 だが構わない。あれは気性が激しすぎた。
己以外は真に信用し頼ることはない高祈氏は 外に出しても恥にはならない程度の資質があり、 意志が無く言うことを聞く次男がいれば 少しの不満も無かったのだ。
海を隔てた遠い地で起きた非現実的事象、 その結果起きた駒の内質の変貌など、 自分がそうした分だけ信用されなかった父には 全く知る由もない、理不尽ですらある話だったが──]
(535) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[──彼は息子の卒業から八年で玉座より下ろされる。
かつてこの市を長らく揺るがした 開発を巡る市議会議員との対立の結末すらも 裏金による茶番だ、などと。
そこから得た繋がりによる不正な土地取引、 暴力団関係者を利用した同業への圧力。 数多の賄賂、資金洗浄の手口。
高祈ホールディングスは 瞬く間に望まぬ形で全国区の知名度を得て注目と批判を浴びる。]
(536) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[マスコミ各社への情報提供は、揉み消しを困難とした。 証拠は容易な否定の叶わない程に揃っていた。 まるで、内部の内部、核の部分にいる者が集めたかのように。
不正取引に関して証言を行った子会社の告発者達の情報は、 徹底して伏せられたが。 それらの説得やマスコミへの働きかけと 一人で派手に動きすぎていた首謀者が ──高祈成海であるという衝撃的事実は突き止められる。
しかし最初からそのつもりだったという風に 当人は堂々と、影響下に無い地域の弁護士と共に会見を行った。
未だ社会人としては若く、 前髪を分けたミディアムヘアの──誰かの面影を宿す 華やかではないが涼し気な容姿。 そして巨悪であった上流階級の父への造反を成したとなれば 「高祈のプリンス」「悪王へのクーデター」 などと話題性を求めるメディアが過剰に持ち上げるのは当然だった。]
(537) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[息子の精神の病の捏造、 天原氏と対立する市議会議員との繋がりがあるという主張。
高祈氏は意志が無い筈の息子の裏切りへの衝撃の中、 分が悪い状態で出来る限りの抵抗はしていたが 会社に強制的な調査が踏み込まれれば、終わりだった。
事前に察知していれば揉み消すことが出来ただろう。 息子を監禁したり抹消することも厭わなかっただろう。 しかしその冷淡さと権力が、 懐のネズミを飼いならした気でいた侮りにより機能しなかった。
警察保護下でホテルに滞在していた高祈成海は 己が父、親戚、多くの幹部陣の逮捕を 彼らによって知らされることとなる。]
(538) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[そうして成海は 高祈に関係する人々の人生を、滅茶苦茶にした。
メディアすらも決して称賛一色ではない。 父が残した疑惑を真実ではないかと疑う者、 甘い蜜を吸って生きてきた子が親を裏切ったことを 真っ白な正義としてはならないのではと語る者。 コメンテーターや出演者も一枚岩ではない。
そんなものは生易しいほうだろう。 面白がりあれこれ陰謀を語るインターネットの匿名達も。
一体何人に殺してやりたいと思われているのか 本人にすらも、想像がつかない。]
(539) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[しかし高祈成海は、今もホールディングスにいる。 事業会社から持株会社へと籍は移ったが。
内部告発を理由に解雇出来ない法律の都合上、 一度ライバル会社への意図的な情報漏洩という冤罪を理由に退職させられていたもののそうした事実は確認されなかった。
結果、父の代わりにその座についたある種哀れな立場の 裏の事柄には関わらせてもらえていなかったらしき、元幹部陣に呼び戻されることとなった。 空きすぎた重役の席、成海は現在その男の殆ど右腕のような立場だ。
膿を排出しようとも、多大な信頼を失い いくつかの子会社が潰れ、事業が閉鎖された。 しかし全てが砂と化すにはホールディングスは大きすぎる。
仕立て上げられた英雄がこの事態の原因であっても、 民衆へのアピールには最適だった。]
(540) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[目的の為に早々にこちらでも一人暮らしをし 少しづつあらゆるものの名義を自分へと変えていった。
もう既に思い入れが薄れつつあるが、 生まれ育った実家はやがて別の誰かの物となるだろう。 現在は好奇の目が多く、住むには適さないけど。
雷門氏の作品はその孫があの時望んだ形になるように取り計らった。 それがどんな答えであれ、祖父を敬い同じ道に進み誰より想いと価値を理解しているだろう彼の選んだものに間違いがあるとは思えない。
母親は精神的な負担のせいか病気が悪化し、病院にいる。 ……今後の警察の調べによっては、彼女も何らかの罪に問われる可能性がある。 その控えめさと従順さにより、夫の行いを誰より近くから見た上で良しとしてきたが為に。]
(541) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[長かった戦いの日々を想う。 窓からは初夏の心地よい風が吹き込んでくる。
こうしていると何もかもがあの日から変わった気がした。 けれど、ずっと側にあったものもある。
新しく移り住んだマンションの最上階で 高祈成海はスマホを手に取った。]
(542) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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……ああ、徳人君。今いい?
暫く連絡出来なくてごめん 漸く落ち着いてきたから、声が聞きたくて
うん、終わったよ。全部終わったんだ。 色々心配掛けたよね、……すまない。
それでなんだけど 引っ越しが済んだからさ、会えないかな? ちょっとまだ気軽には外に出れないんだ
うちに来てほしい、場所は──
(543) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[厳重なセキュリティは 望まれた来訪者には当然、意味を成さない。
迎え入れた青年は、もうすっかり大人の姿。 いつかダイニングバーでそうしたように 二人テーブルを挟んで向き合った。
そこには品なんて無くたっていい。
いつか好きだと言っていた唐揚げを沢山並べて 昼間から度数の低いアルコールを出して まるで大学生のままみたいな食事をしよう。 本当は少しだけ、油ものがきつくなりつつあるけど。]
(544) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[元より互いが社会人 本格的に動き出して以降は、中々会えなくなった。 だからこうしていられるのが本当に嬉しくて。
数多の代償を積み上げた先の未来なのに、 この数年間を語りながら幸せそうな顔で喜んでしまった。
やっぱり冷たくて、自分のことばかり考えているのかも。 いや、それは間違いか。何故ならば──]
(545) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[料理がすっかり綺麗に無くなった頃。
待っているように告げて一度別の部屋に向かった成海は、 腕にあるものを抱えて
──夏の海が見える大きな窓の前 テーブル席に座る徳人の側へと向かい
少し照れたように微笑みながら、それを差し出した。]
(546) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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[徳人が男性が好きという話は聞いたことが無かった。
けれど、何度も未来を望みあって描きあった 二人で時間を惜しむように思い出を作った。 ……深い覚悟を持って、ついてきてくれた。
そんな相手に今更、性別の心配はしない。 気掛かりとすれば彼の父と重なる自分を、信じてくれるかどうかだ。 その為に長い時間待たせて何も縛られなくなり、漸く言えるようになったつもりだけど。]
(547) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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今まで本当に沢山、君は俺に付き合ってくれた 卒業してからは特に、不安にさせたこともあったと思う
だから指輪は二人で選びたいと思うんだ ……これからの人生は、 そうやって全てを一緒に決めていこう
[もし、もし 一つ段階を飛ばした高祈成海なりのプロポーズに ただ一人愛せたその人が、頷いてくれるのならば
微笑みを一度驚きに変えて、不格好に笑い直し 別れを覚悟したあの日ぶりに抱き締めてそう語っただろう。*]
(548) ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時頃
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至高祈念展 ナルミは、メモを貼った。
ガラシア 2023/08/11(Fri) 03時半頃
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── 冬/高祈邸 ──
[骨谷平太朗を迎えた北の大地は、厳しい寒さと白に包まれていた。
あれは彼から予定を聞き、調整や計画を始めた頃だろうか。 立ち位置こそ正反対ではあるが他人との生活環境の違いには進学当初困った記憶がある成海は、互いの縁を知った頃に服について骨谷が触れていたのを覚えていた。
少しでも助けになれたらと、持て余さず過度な金銭的負担にならない範囲で骨谷の卒業後も使えるような服を探して連れ立ったのだ。>>501
買ってあげても良かったのだけど、きっと恐縮するだろうし こちらも自分の生活に用いる全てが親の金であることを意識するようになった頃だった。]
(592) ガラシア 2023/08/11(Fri) 21時半頃
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[しかしそれは、相応しく整える手助けになっただけで 伸びっぱなしの背筋から力を抜かせてあげるには、もっと違う行いや言葉が必要だったのか。はたまた無理な話だったか……。>>500
真実を教えないままで彼に詫びさせてしまい、罪悪感を覚えながら丁重に受け取らせていただいた菓子。>>502 何度か見た記憶のある店のもので、服とは違うところで無理をしたのではと少し心配した。 その思考はおくびにも出さず骨谷の親の気遣いを知ることもなく、目的の花器の元へと彼を導いた。]
(593) ガラシア 2023/08/11(Fri) 21時半頃
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[どうやら本物かどうかの確認に入ったらしい。 意識が逸れないよう、沈黙し様子を見る。
骨谷の様子は女性に頬を張られては現れる普段からは別人のように真剣に見える。きっと彼と自分では同じ作品を見ても目に映っているものが違うのだろう。>>504
この家で育った為に身の回りには常に、父の趣味の格式高い調度品や芸術品が揃っていたけれど 勿論それだけで細かな筆遣いや作品の輪郭などから真贋を見分ける術を持つことは出来ない。 海を超える程の情熱だ。祖父の作品は特別なのかもしれないとも思うが。]
(594) ガラシア 2023/08/11(Fri) 21時半頃
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そこまで心を動かしたのなら、連れてきた甲斐もある
[気づけばその眼差しは真剣というよりは、思慕に似た熱を宿しているような……。>>505 明確な同一ではなくとも、陶芸という道の先を征く巨匠たる血縁。その遺作をそんなにも想えるなら素晴らしいことだろう。
静かに穏やかに返す声に、身内を賛することへの呆れなど無く。 生きていたからこそ見れた、後輩の満たされゆく姿を見守って。 だからこそこれからについて、考えてしまって 頃合いを見計らいより近くへと詰めた距離、耳元に囁きを落とした。
若き芸術家の感嘆にも先程のように声を返すことはせず>>549 向き合う瞳に探ることも許さない黒が、じっと迷う青年の姿を見つめていた。]
(595) ガラシア 2023/08/11(Fri) 21時半頃
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なるほど、君らしい答えだ
身内としての感情ではなく 芸術家としてその相応しい居場所を求める。
うん、きっとそれが正解なのだろうね。 ……変な質問に答えてくれて、ありがとう
[小さく頭を下げたのならば、いつも通りの高祈先輩へ。>>550
使用人が踏み入ったのは入室した当初のみ、著名な芸術家の血を引く青年の邪魔をしないよう言いつけられている筈。 断りには快く頷いて再び黙した。 響くシャッター音がどれ程続こうと、咎めるものはいない。]
(596) ガラシア 2023/08/11(Fri) 21時半頃
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[初めて約束を結んだ時は、未だ成海は父の意志無き駒だった。
心境変化と未来の見定めにより問いを向けることになったが、元は類稀な縁で繋がった後輩の願いを純粋に叶えたかっただけ。]
気にしなくてもいいんだよ でも俺にも作ってくれる筈だったよね、カップ それには期待させてもらおうか
[開かれたスケッチブックを疑問には思わない 夢から醒めた当初のメッセージを今も覚えている。>>551
死んだ自分に彼の思うままに造られた作品が捧げられる、それが本来望んでいた形だったけれど もう惜しいとは、思わなかった。]
(597) ガラシア 2023/08/11(Fri) 21時半頃
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……そうだね、仲睦まじい新郎新婦の邪魔をしてはならない それは彼等にこそ似合うデザインだ
[回谷と大藤、誰もが忘れられない二つの名前。図案を見せてもらってから、少し遠くを眺める。>>552
慎ましい愛を表現したペアに、類似したもう一作は不要だ。 ──成海は大藤の片羽根ではないのだから。 静かに首を横に振り、僅かに空いた思考の間。]
海が良いな 明るく照らされて輝いている、真夏の海
残念ながら君は冬に来てしまったけれど 中々綺麗なものなんだよ、この辺りのそれは
[語るのは、去りし者への憂いなど無い微笑み。 対話を終えて彼を送るまで、その様子は変わらなかっただろう。
この地の景色が、彼が一人一人を想い造り上げる作品が 芸術家骨谷平太朗の未来の礎となることを祈った。*]
(598) ガラシア 2023/08/11(Fri) 21時半頃
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── 大切な日 ──
ふふ、元気だなぁ 少しも疲れてなさそうだね?
[自分だけが言葉を交わすことを望んでいたわけじゃない それがはっきりと分かるのが嬉しかった。>>559
その様子が可愛らしいというように、笑い混じりで誂う声。 就職先について話をした時の真剣な様子は、今はまるで嘘のようだ。
彼を信じ成長を見てきた成海は、口添えなどしなかった。 もし叶わなくてもそれだけで縁が途切れるわけじゃない。 しかし結果的に見事に内定を勝ち取ったのだから、その報告を聞いた時の喜びもひとしおだった。
より大きく広がっていこうとする高祈には、最適な人材だったのだろう。]
(599) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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[一般的な同種企業がどうなのかまでは知らないが 成海と共に徳人が働くこととなる職場は、 不動産による家賃収入は許される範囲であった。>>560
そうした細かな話にも付き合ったのは 慣れない土地に来てくれる徳人を想ってのことだが
新居探しでやって来た彼に会った時は、 大学の頃のように側にいられるのが嬉しかった記憶。 ……恐らくそれが下心というやつなのだと、 未知の感情を理解していく段階の一つになった。
初めて呼び方が変わった時、 涼しい様子を保つことが出来なかったのも、
もうすぐ会えるというのに 電話を切るのを惜しんでしまった気持ちも、きっと。]
(600) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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[──それで言えば、学生時代のバレンタインも
本当にただの先輩なら不適切かもしれないおねだりを きちんとした事も告げられずにした成海に 快く受け入れ当日明るく渡してくれた姿に>>583
後ろめたいものを感じる一方で、 ああこの人とずっと一緒にいたいと なんだか胸の奥で熱くなるものを覚えていた。
声にならない意味を籠めた春のお返しは 将来役に立つ物には違いなかったけれど狡かったと思う。
しかし勘違いではなかったとしたら、 先にそれをしたのは彼のほうだろう。
スイートポテトの優しい味に対し、 チョコレートキャンディは ……どうしてかとても、甘美だった。]
(601) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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[新入社員になった彼は日々立派に変わってゆき>>562 それと共に、造反を成す日も近づいていった。
慣れてきた頃に、 海外との過去の取引の原文翻訳を頼んだことがあったが、 多大な量ではなく、それ以外の形では関わらせなかっただろう。 成海の立場だからこそ得られる情報が多いのもあり、 心配だったこともある。 しかしただ仕事を精一杯頑張ってくれるだけでも、 業務をこなしながら裏で動く成海の負担の軽減になっていた。
義務を教えられて生きてきた成海には、 支配から脱却を望むようになってもやはり、 努力する様子は尊く眩しいものに思える。
上司と部下の仮面を着けたまま、 職場で飲みの席で労うことが時折あった。 募っていく感情を押し隠すのは、なんとも大変だったけど。 彼に何かがあってはならず、二人の未来を邪魔するものが現れるのも避けたかった。]
(602) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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── それから ──
[高祈の中で最も大きな子会社は、 幹部に入れ替わりが発生しつつも経営が続いた。>>566
ただし成海はホールディングス復活の象徴化される為に 元通りに帰ることは出来ず、持株会社へ移った。
持株会社で働くのは多くが子会社で経験を積んだ者だ。 徳人が仕事を続ければ再び同じ職場になるかもしれないし、 子会社同士を繋ぐ役割上顔を合わせることもあるだろう。
余りに忙しなく身の危険も感じる日々には、 酒を酌み交わし相手の前だからこそつい限度を超えた二人どちらも泣いてしまって、後日笑い話とした思い出があるあの部屋にも通えなくなって 今この時彼の身に何かが起きていたらなどと、憂いてしまう瞬間もあったけれど。
同じ気持ちでいたと分かった瞬間、全て報われた気持ちになったのだから。感情とは不思議なものだ。>>567]
(603) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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[そんな相手の他に愛せる存在などいるだろうか?
二人の想いは一瞬で熱烈に燃え上がりすぐ分かち合ったようなものではなく、きっと別の形でも共に居られれば幸せだった。 緩やかに育まれた感情は、いつどの時決定的に芽を出したのかと聞かれても定かではない。
そうした感情以外の側面でも、今でも彼が大切だ。 唯一無二の対象、その性別などどうだっていい。 男性だったから男性としての格好良さ頼もしさも好ましく思っているだけのこと。 何も語らないまま密接な関係を続けてくれた彼も、きっと同じなのだろうと言う思考が思い上がりではないと良いのだが。>>571
けれど悲しい現実から引き離した時のように手を繫いで生きたかった。 忘れぬように抱き締めた温度に、何度だって触れたかった。 無価値な存在の生に意味を注ぐ言葉は眩ゆかった。
──仮定の死者として呪いを吹き込もうとした時、きっと確かな執着が存在していた。
長らく温めても腐らなかった初恋。 驚いた様子、変わりなく頼もしい冷静な言葉、綻んだ表情。>>571>>-808>>572 ……その一つ一つが愛おしい。]
(604) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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……俺は徳人君一筋だったよ?
[君もでしょうと、困惑する様子に目を丸くした。>>573
恋人というのはつまり人生の相手を定める前のお試し期間。 そんな不誠実なことはしないし、 何より二人に必要とは思えない……というのが成海の考えだ。
彼が理解し、受け入れる姿勢を示してくれたので 生い立ちに関わる思考の跳躍は置き去りに 愛する人をその身体で、抱き締めた。]
(605) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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[誰がなんと言おうと、 彼が受け入れるのならばこれが正しい選択だ。 君が厭うかもしれない花言葉に、想いを込めた。 けれど縛る何もかもを切り捨てた身は、己の口でも告げる事ができた。
──ずっとこうしたかった。
今でもあの日々を覚えていると語るような姿で応じ、自分が好んだスイートポテトを持参してくれた。>>568 何もかも他人事だった日々には感じ得なかった、感情の波の強い打ち寄せがそこにはあって。
祝福の場で見とれた姿を見慣れたものにした今>>569 けれどかつてのように語らい距離と隙間を埋めて ほんの少し無理をして食したスイートポテトが、ずっと欲しかった穏やかな幸せの味を感じさせてくれた後。>>570
まるで過去と現在、どちらの福原徳人も抱き締めているようだった。]
(606) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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[胸いっぱいの温かさ、感じる体温。 それらは夏場でも決して不愉快ではなく いつまでも感じていたいものだったけれど。
いつかと立場が逆転したような触れ合い>>574 10cmの差はほんの少しの努力で容易に互いを近づける。
その意味に気づかない程、 愛する人と結ばれて尚恥じらう程、 子供の心を持っているわけではない。
回った腕は淡く繊細な色を宿した髪に触れる。 二人の唇が重なった瞬間、 吹き込んだ夏の風が白いカーテンを乱した。
二つの別れを経験した季節。 その傷を抱えたまま、幸せも積み重ねて どんなことがあっても、この人と最期まで生きようと決めた。*]
(607) ガラシア 2023/08/11(Fri) 23時頃
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