17 【半突発身内村】前略、扉のこちら側から
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[ どこかの町のありふれた家でした。
夫と妻と一人息子がいて、 贅沢はできないけれど、飢えることもない。 時に喧嘩もするけれど、お互いを大切にしている。
多くの人が喉から手が出る程に求め、 あるいは当たり前すぎて忘れてしまうような、 穏やかで優しい、平凡な家族でした。
唯一特筆すべきことがあるとすれば、 夫であり父である彼は発明家でした。]
(117) 2022/03/08(Tue) 18時頃
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[ 彼には夢がありました。 人々の助けになる道具を作りたいのだそうです。
魔術のように選ばれた者だけが使えるのではなく、 お金持ちだけが得られる特権でもなく、 誰もが等しく享受できるくらいささやかな 日々をほんの少しだけ豊かにする、そんな何かを。
仕事を終え、子どもが寝静まった後、 箱≠フ上面に広がる夜空を見上げながら語る姿を ”それ”は傍らで見ていました。
”それ”の内には夜空に似た濃紺が揺蕩います。 ”それ”の役目は、夢のサンプルになること。 ――そう、思っていました。]**
(118) 2022/03/08(Tue) 18時頃
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[竜のお食事について答えられないタルトでも、 少女の疑問に答えるために、>>8 にせものの竜がどんなものか、タルトなりの言葉で説明することができたでしょう。 しかし、先の疑問を呼び水として、 タルト自身のことについて訊かれたため、>>9 黙り込むような間をつくりました。
彼女の言葉から、鋭さというものを感じはします。 このことを知ってどうするのでしょうか、 そんな思考がちらりと過ぎりはしましたが、 こくこくと黙って二度うなずきました]
(119) 2022/03/08(Tue) 19時頃
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肉の匂いがしない……? ……、それより、鼻が利く、って……?
[まるで犬みたい……。
直後に少女が起こした行動は、>>10 タルトのそんなささやかな思考をあっさりと上書きしました。 目の前で、少女の細い腕が獣のそれに変わる瞬間を見たからです]
す………… すごい……。 ね、ねえ、ちょっとだけ、さわってもいい……?
[タルトが手を伸ばしたのが先か、 少女が獣の手で頬を撫でてくれたのが先か。 そのような順番は些細なことでした。 タルトの感覚はこれを現実だと思いました。 さっき飲んだクリームソーダのように]
(120) 2022/03/08(Tue) 19時頃
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狼男……。話なら聞いたことがあるよ。 昼間は人に紛れて、夜に人を襲うって……。
あなたが“そう”だってもちろん信じるけど……、 背中を向けたらタルトも食べられちゃう?
[こうは言うものの、背中を向けて逃げるそぶりは見せません。>>11 続く少女の言葉には、]
「おいしくないよ?」って言おうとしたのに、 先回りされちゃったなあ……。
[ふんわりした笑みとはやや重ならない、 自嘲めいた言葉を返しました]
(121) 2022/03/08(Tue) 19時頃
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[若葉色の竜が暴れるのではないか、という心配は、>>12 タルトもそんなにしていません。 お腹をすかせたままというのはかわいそうだよねえ、 と、そういう方面での心配はありますが、 どうにかなるような気もします。クリームソーダが目の前にあらわれたように。
そして今、タルトが願った通りにクリームソーダは増え、 手つかずのままのそれは少女へと横流しされました。 彼女が手をつけなければタルトのもとへUターンするだけでしたが、 彼女はタルトの言葉を信じて、あっさり飲みはじめました]
(122) 2022/03/08(Tue) 19時頃
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[そこから先の少女の様子といえば、>>13>>14 実に美味しそうにクリームソーダを飲んでいました]
すごい……、とっても語彙力がなくなっている……。 まるで尊いものを見たオタクのように……。
[小声でさりげなく失礼なことを言ったのは内緒です。 彼女の耳が良ければ内緒にできなかったかもしれませんが。 彼女がグラスを空にする前に、 カウンターの上に願って、紙ナプキンを数枚出させました。 再びタルトと彼女の視線が交わることがあるなら、 「これで口を拭くといいよ……」と言って、紙ナプキンを渡そうとしたでしょう]
(123) 2022/03/08(Tue) 19時頃
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これはね、クリームソーダっていうの……。 わたしの世界の飲み物で、 メロン味のソーダの上にアイスクリームを乗せたもの。 アイスクリーム……は、わかる? 牛乳とあと色んなものを混ぜて冷やしたお菓子。
[そうやってクリームソーダの説明をしたところまではよかったのですが、>>15 顔を赤らめ、ごにょごにょとした調子でお代わりを頼む様子を見て、 タルトの中で何かが限界を迎えました]
む……むり……かわいすぎる……。 かわいいしあまりにも……、 これもとうといのひとつだとタルトは思います……。 ああ……。
[なんということでしょう、 オタク化した発言をする少女(の見た目をした人)が増えました]
(124) 2022/03/08(Tue) 19時頃
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[タルトはしばらくぼんやりと少女を眺めていましたが、 やがて我に返るとおかわりを願いました。
そのグラスともう1枚の紙ナプキンを少女の方に横流ししつつ、質問をひとつ]
そういえば……あなたの名前が知りたいなって。 タルトは……タルトだけど。
[“お人形さん”としての名前を名乗ることにはためらいもなく*]
(125) 2022/03/08(Tue) 19時頃
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宝珠 コーラは、メモを貼った。
2022/03/08(Tue) 20時半頃
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[タルトの世界には奇跡も魔法もありません。 しかし、伝承ならば未だ廃れずに残っています。
少女が口にした狼男の伝承もそうですが、 タルトが伝承という言葉を聞いて強く思い浮かべたのは、 “妖精の目を持つ者”という伝承でした。
左右で違う色の瞳を持つ者のおはなし。 その左目は運命を見通すこともできたそうです]
(126) 2022/03/08(Tue) 20時半頃
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[それ、に強く憧れたこともありましたが――――
むかしの話です。 伝承は伝承にすぎないという諦めも、 自分は物語の主人公などではないという諦めも、 こどもの頃からすでにこのちっぽけな心の中にありました]
(127) 2022/03/08(Tue) 20時半頃
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[生まれつき、左右で色が違う瞳。
この目は■■にほとんどいいことをもたらしませんでした。 両親は互いに不貞を疑って仲が険悪になり、 やがて母の方についていって、 いろんな場所を点々とする暮らしをするようになりましたが、 どこに行っても向けられるものは同じでした。
奇異の眼差し。
いかに瞳の色を隠そうとも、 誰かに見られているという意識はずっとつきまとい離れない。 陸に打ちあげられた魚のような気分がずっと続いているようなものです。 窒息死こそしなかったものの、がんじがらめでした]
(128) 2022/03/08(Tue) 20時半頃
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[すべての人が■■に優しくなかったわけではありません。 幼い頃、家を抜け出してひとりで訪れた喫茶店の店主は、 無一文の■■に事情を訊かずに、クリームソーダをただで飲ませてくれました。
幸せな記憶は色彩とともに心に焼き付いているけれど、 現実の世界はただただ灰色に見えていました。 景色も、人の姿も、すべて]
(129) 2022/03/08(Tue) 20時半頃
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[だけどタルトは違います。 タルトの目を通して見た世界は、色に溢れています。
電脳世界の極彩色、だけではなく。 眠る竜の春めいた色も、 狼少女の纏う毛の色も、 それから――― あちらに見える色とりどりの扉のうちのひとつ。 本能的にタルトが潜るべきだと理解している扉の、 晴れた日の海のような蒼も]
(130) 2022/03/08(Tue) 20時半頃
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[あの蒼を見ると目がちかちかする。 鏡のむこうの自分を見ている時のように。
そっと扉に流していた視線を戻すと、 目の前に手紙がありました。 ただ一文だけを記したシンプルなもの。>>1:65
完全に廃れたわけではないとはいえ、 紙に書いた文章のやりとりとは、ずいぶんとアナログな光景です。 タルトの目は自然と細められました。
それに、これはどこからきて、どこへと向かうのか。 興味も尽きません]
(131) 2022/03/08(Tue) 20時半頃
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[目がちかちかするような蒼とも他の極彩色とも違う、 ミルクチョコレートのようなふんわりとした茶色のペンで、 タルトは手紙を書きました。
その書き出しは――]
『 扉のこちら側の樽兎より、 どこかのだれかさんへ 』
(132) 2022/03/08(Tue) 20時半頃
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『望みは、少しでも楽に息ができる場所にいくこと。 それは叶いました。
苦しい時に潜っていられればいい、 それだけの場所だったのに。 いつからだったのでしょう。 そこから出られなくなってしまったのです。』
[ログアウトができなくなった、 という言葉を使った方がわかりやすいでしょうか。 相手がどのような者なのかさっぱりわからないので、 結局誰にでも伝わるような言い回しを選ぶにとどまります]
『今の望みは、わからないです。 外に出たい気持ちはあるけれど、 外での息の仕方を、もうとっくに忘れちゃったかもしれなくて。』
(133) 2022/03/08(Tue) 21時頃
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[灰色のひとりぼっちの部屋の中。 クリームソーダ。 「現実が苦しくても生きたい」という誰かの言葉。 そんなものたちがぐるぐると頭を駆け巡り、 やがて一つの言葉に集約されました]
『あなたにとって生きるって何ですか?』**
(134) 2022/03/08(Tue) 21時頃
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お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2022/03/08(Tue) 21時頃
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[ 呼び止められると思ってなかったから>>98 振り向いた僕の顔は驚いていたと思う。 だって"他にも"引きとめる人がいるなんて 見知らぬ場所で思うはずもない。
失礼してしまったかな? そうじゃないなら いいけれど。
音のない空間が僕とあなたのあいだを通って お節介さんが束ねたのは2人分の言葉で。
どうしようか。 迷って、……迷ったから。
僕はも一度だけ、
あなたと向き合うことにした。 ]
(135) 2022/03/08(Tue) 21時半頃
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"僕"が好きなのは 夕焼けの色です。
そのうち眠りについて星の宙になる前の 真っ赤な空。
誰かの笑う顔に似てる気がして。
もうひとつの方の答えは
もう1人の方が目を覚まして いつかどこかでもしあなたが会えたとして
……もし、
(136) 2022/03/08(Tue) 21時半頃
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……もし、
あいつが応えたのなら。
(137) 2022/03/08(Tue) 21時半頃
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そのときは、 よければ僕にも教えてくれませんか?
それまでに僕も、僕の万年筆とインクを手に入れて あなたにお礼の返事を書きます。
きっと いつか。
[ 叶う約束かはわからないけれど こんな場所に迷子になるくらいだ、 案外叶うかもしれない なんて ]
(138) 2022/03/08(Tue) 21時半頃
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[ 瞬きしたおれのめからは ひとつぶ雨が流れるんだ
途中まではうまくいってたのに。 どうして此処には2人居ないんだろう。
君しかいないんだろう?
忘れたくない、忘れたい、忘れたくないのに
もうひとつの瞬きは、 さよならの我儘を覆い隠してしまう ]
(139) 2022/03/08(Tue) 21時半頃
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じゃあ、僕は行かないと。
……どうか、元気で。
[ さあ、時は来た。
繋いだ手は離すんだ。 カラになった手で、
それぞれの鍵を受け取ろう。 ]
(140) 2022/03/08(Tue) 21時半頃
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[ 恐らく もう 戻れない いつか忘れる
君と あなたと
居た場所。 ]**
(141) 2022/03/08(Tue) 21時半頃
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[ 彼らの家は大きくも小さくもなく、 暖かな橙色の光が部屋の中を照らしています。
どうして、その色が 私の周りをぐるぐるまわっているのでしょうか。 ]
(142) 2022/03/08(Tue) 22時半頃
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[ 彼と彼の妻の慌てた表情が横切っては消え、 私の骨組みが風を裂くような音が響きます。 私の中を揺蕩う濃紺が大きく波打ってようやく、 振り回されていることに気づきました。
「落ち着いて」と彼の慌てた声が聞こえます。 「やめなさい」と彼の妻が手を伸ばしています。 するとぐるぐる回っていた動きが止まって、 余韻が私を天頂に留めました。
それから、引き戻されるような強い力。 嗚呼、私は地面に叩きつけられるのだと、 ついに終わりが訪れたのかもしれないと、 そう、思いました。]
(143) 2022/03/08(Tue) 22時半頃
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[ 私には閉じる目がありません。 そんなものがなくとも、見えていますから。 私には塞ぐ耳もありません。 そんなものがなくとも、聞こえていますから。
だから私が白くて柔らかいものの上にいて、 傍らの小さいものを彼らが抱きかかえたのが すぐに分かりました。
坊や、と彼らがその子を呼びます。 その子は無邪気に笑っていました。]
(144) 2022/03/08(Tue) 22時半頃
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[ 彼は私に百万年自動筆記具という名称をつけました。 万年筆と縮めた方がいいと言ったのは彼の妻です。
しかし、坊やが私を気に入ったから、 私の役目はなくなってしまいました。
それなのに、私の内から 色が失われることはありませんでした。
――どうして?]
(145) 2022/03/08(Tue) 22時半頃
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[ 今、私が名前に見合う役割を担うことはありません。 しかし”バキュラム”でもありませんでした。
歩けるようになった坊やは、 私をどこへだって引きずっていきましたから。
未知の物質でできているらしい私の骨組みは、 多少の段差では傷つくこともありませんでしたし、 身の内に揺蕩うインクが零れることもありません。
私はただ、”坊やのお気に入り”として 何もしないことを求められました。]
(146) 2022/03/08(Tue) 22時半頃
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