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[彩雲のようなあなた。長い曇りを映した髪が、
近づいたときに肌に触れる感覚が心地よい。
こうして言葉を重ねてくれる
丁寧なところも。細やかなところも。
渡しにはない、貴方の良いところ。
そんなあなたが好む姿が。今まで通りに
興味あることにのめりこむ私の姿なら。
これまでと変わった関係性も。
傍目からはあまり変わらぬように見えるのだろう。
メタ・モルフォーゼ
……友人曰く、一度経験すればおもいきり変化があるとは、いうけれど。
貴方の変化には陶酔するくらい惹かれるけれど。
私はどうかしら。
誰かに選んでもらうのではなく
自分の欲をきちんと伝えてくれるようになったあなた
[その後の話。
彼が養父と話している間。
私は自室で爆睡していた。
養父が、彼氏できたっていうのに
挨拶任せて部屋で爆睡しているなんて……。
うちの娘がなんかすまん。と逆に恐縮していたが
睡眠に勝てなかった理由は今後日の目を見ることはない
……はずだ、きっと。**]
お義父さまの許可は必要よねえ。
あと、婚姻関係を結ぶにあたって必要なもの……元奴隷だったけど今は違うから、大丈夫なのかしら。今度確認しに行きましょ。
[相槌を打ちながら今後について提案を出してくれるのはありがたい。お互いに初めての事だらけだから、一緒に先へ歩んでいける事。
それがこんなに嬉しいだなんて、知らなかった。
『今日』ではなく『明日』を考えて生きる事は、貴女から沢山学ばせてもらおう。
「魔道とは探求なり」と教えてくれたのは『師』であった。これからも、探究の道は形を変えながら続くだろう。]
[その麦穂の色も、透き通った瞳も、知識に貪欲な性格も、全部。己を通して、彼女が自身の魅力に気がついていってくれると良いなと思う。
……だけど、魅力的になりすぎちゃったら。周りの人間が放っておかなくなっちゃうかも。
まあいいか。最初に彼女の魅力を見出して、磨き上げる一助になったのは俺だし。周囲がリッキィを素敵な女の子だと気づいた時には、隣で微笑んでやればいい。
「あたしの恋人、素敵でしょう?」
って。
あなたたちの知らない場所で、美しく咲くようになったのよ。他でもないあたしの手でねって、誇ってしまえ。]
[
申し訳なさそうにしている義父の前で、「起きてこないのは俺のせいなんですけどね……」を内心秘めつつ。
思っていたよりもずっと承諾を得るのは難しくなかった。義父としては、立場よりも何よりも義娘の選んだ相手を尊重してくれる姿勢らしい。]
ありがとうございます。
……不束者ではありますが、
絶対に幸せにします。
[深々と頭を下げた。]*
書類とか身分上のあれこれとか
考えたこともなかったから確認大事だね。
[養父と同じく独身貴族状態のまま
人生終わると思っていたものだからね。
いわれて気づくあれそれや。
彼の言葉に頷き、必要なこと、手続き諸々
考えながらピロートークは続く。
魔法に関しては興味深い「人」を見つけても
貪欲なまでに興味は削がれないのだから
成績が落ちて云々まではなさそうなのは安心だ。
何せ、興味深まる相手も魔法使い。
1人ではなく、2人で学べればよい。
その間に互いに深みにはまっていけば、尚。]
[自分が魅力的になるとしたら
彼に磨かれるからであろう。
――隣で笑む貴方の魅力は、
周囲も誑かしそうな気がするのだけれど。
その時にはこっそりと
こんなに素敵なのに可愛いところ、あるのを
知ってるのはきっと私だけねと
心の中で思うことに、しましょうか。]
[ところで。
爆睡から目覚めた際に、養父と顔を合わせたとき。
言われた言葉がこちらになります。]
「お前、愛想つかされないようにな……。
挨拶くらい2人できなさい。
眠かったのかもしれないけどさぁ。
1人でいかせるのは、な?」
[うんうん頷いた。完全同意である。
私も、気を付けよう。これからね、これから。
心配かけてごめんね、お父さん。*]
− 私と君 −
[謹啓 若草が萌えたち春も深まってまいりました
皆様におかれましては益々ご清祥のことと お慶び申し上げます
このたび 私たちは結婚式を挙げることとなりました
つきましては
日頃お世話になっている皆様のお立会いのもと
人前結婚式を行いたく存じます
皆様には証人としてお立合いいただき
二人の門出を見守っていただければ幸いです
挙式後はささやかではございますが
心ばかりの粗宴を催したく存じます
ご多用中まことに恐縮ではございますが
ぜひご出席をお願いしたくご案内申し上げます]
[招待状を各所に送ったのは、ひと月ほど前のこと。
その間に様々なことがありました。]
[まず始めに、ロイエさんのこと。
突然、当主が婚約すると出自不明の人を屋敷に招いたことにより
大なり小なり、屋敷の中で混乱が起きました。
『田舎の出の人で、
店で出会ったのをきっかけに仲良くなり、最近は逢瀬を重ねていました』
君の人となりを嘘をつかない範囲で説明し、
あの時に誓ったように、奴隷の出で″男性″である事実を隠し通しました。
初めは不審がっていた家従たちも
私の説得や、彼女の頑張りを見守ってくれたようで。
なんとか、皆が婚約を認めてくださった時。
·······嬉しさから涙が零れてしまったことを、昨日のことのように覚えています。]
[次に、私のこと。
喜ばしいことに、最近は少しずつ体調が良くなってきています。
今まで回復の兆しの見えなかった体質に光明が差したのは、
君と一緒に過ごすようになってから。
完治は難しくとも、この命を少しでも延ばすために。
正確な治療法の解明に力を入れている最中です。
今、分かることは
『病は気から』という言葉は本当のことだった、ということだけでしょう。]
[体調の回復により、活動時間と範囲が増えたことで。
魔術の原理について研究に更なる熱を注いでいます。]
[私は野望を抱えていました。]
[『魔法が根本が解明されれば
才のないものでも特別な力が使えるようになり
格差のある世の中も変わるのではないか。』
誰もが平等に過ごせる世界は、
現状を見ると、無謀としか言えない望みでしょう。]
[それでも、諦められない望みを抱え。
今日も今日とて
私の瞳は文字を追い、私の手はペンを握るのです。
······私がいなくなった後も、
家従たちと、君が過ごしやすい世の中になることを願って。]
[さて、話は現在。結婚式の当日まで戻ります。
暖かな春の陽だまりは
まるでお天道様も私たちに微笑みかけてくれているようで。
リュミエル邸の庭園には。
純白の百合の花々が咲き誇り、会場を華やかに彩っておりました。]
···百合、当日までに綺麗に咲いて良かったですね。
[それらを自室兼、新郎新婦の控え室の窓から眺め、
仕切りの向こう、式の準備をしている君に向かって話しかけました。]
[白百合と同じ色のタキシードに袖を通し
蒼色のネクタイが曲がってないか、ほつれや皺はないか。
それを何度も何度も、確認をして。
また仕切りの方へと、視線を向けます。
新婦は時間かかると耳にしたことがありました、
特に君の場合は、秘密を守る為に
1人でドレスを着用しなくてはいけませんから、尚更。
だから、ここは大人しく待つことにしましょう。
·········そう大人しく、大人しく。]
[最初、お目通りをした時のざわつきと言ったら。
何者かとこちらを探り見る視線に、正面から返して
何かあっても坊ちゃんが何とかしてくれるでしょうと、
すました顔を保っていたけど、
説明中は気が気じゃなかった。……ばれやしないかと
己の手の甲をさりげなく、組んで、見えづらくして]
[当然急な話だったし、認めない人も出てきたでしょう。
そこを何とか出来たのは、ひとえに私の努力のおかげ
……という訳ではなくて、坊ちゃんのひたむきな説得が
彼らの心に、響いたのでしょう。
私は、日々講師に習い学をつけながらたまに、手伝いをと
忙しそうにしている人達に申し出たぐらい。
努めて人当たりよく振舞ったから、屋敷の人にも嫌われず
に済んだ。……多分、これも私の努力と言うよりは。
毒気のない主人に似た、心根の良い人ばかりが居たから]
[そういえば、努力……習い事の方と言えば。
坊ちゃんが厳しいと言ったのは、全くその通りで。
フォークとナイフの使い方から何から何まで矯正され。
そちらはまだ、お店ので積んだ下地があったから何とか
なった、けれど。
勉強というのは、本当に……本当に、苦戦した。
紙とペンと本を持たせられて、金にもならない作業に
勤しむ時間は、あまりにも初体験がすぎて。]
無理。やだ。疲れた。もう辞める。
[……最初のうちは呪文のように、貴方と相対する度に
湯気たつ茶の前で突っ伏しふてては、
貴方を困らせたでしょうね。
お勉強の、少しづつ教えられている内容が
理解出来るようになって来る事には。
愚痴よりも先に、貴方に"ここは?"と教科書片手に
教えを乞うようになったとか。]
[体調が良い日が増える度、私はそれを喜ばしく感じる
朝は眠気であまり回らない口で挨拶をして
日中顔を合わせればじゃれ付きに行って。
お勉強はお仕事のない日は、一緒にお出かけをして
夜は、たまに愛し合ったりなんかもしながら、
同じベッドの中でおやすみと囁く。
お店より穏やかなのに、何故かお店の頃より刺激的に
感じる、尊い日々をすごしていた。
貴方におやすみとおはようを言える日が、
長く続きますようにと、願わずにはいられない。]
[願いはあれど、私に野心や野望のたぐいはない。
人のために何かを成し遂げようという高尚なのは
なお……生まれてこの方考えたことが無い。
だからそれを思いついて、そこに向かって努力する姿は、
最も尊敬すべきものに見える。
私にもそれを、触りでも話してくれた日があったかしら
あったのなら、背中を押したでしょうね。
「応援してる」って]
[それが私の為に役立つのだと思われているのも、
ありがとうと笑って、否定はしないであげる。]
[過去にお母様が植えたという希望の花は、
時期を外れてしまったけれど。
代わりに私の好きな花は沢山。
百合の花は大好き。垂らした頭は優美なのに、
背はしゃんとまっすぐな所がいい。]
えぇ、綺麗。
[着付けの最中、ふと眺めて。私も式中はかくありたい。
むしろ彼の妻としてそうあらねばと思いつつ。
それより先にこちらをなんとかせねばと服に視線を戻し
また手を動かす。
普通なら複数に手伝ってもらう所をひとりで進めるのは
かなり……骨が折れ、時間もかかり、疲れる。
何度も人に手伝ってもらいたい気持ちになったけれど……
しかし、今自分の正体を知られたら、
せっかく認めて貰えたこの話もご破算になるかもしれない
そうでなくても、今後何かしら言われることは
増えるだろうと思うと、やはり気は進まなくなり。結局
式には間に合うようにと念じながら一人作業を進める。]
やだ、見ないでよ。まだ首のもつけてない。
[仕切りの間から覗き見た貴方が見るのは、
まだケープや何やらを羽織っておらず肩や首が見える所。
プリンセスラインのドレスだけを身にまとった姿。
丸みのない肩も肉薄い背中も。次いで私が振り返れば、
普段は隠している喉仏も見られたでしょう。]
あら、珍しい髪型……素敵よ。
でも、そんな素敵な坊ちゃんが、
婚前の乙女の素肌を見るだなんて……感心しないわね?
[いやらしい人とにやりと笑って。
「残りは式でのお楽しみ」と、さっきまで着ていた服を
坊ちゃんの頭めがけてふわりと投げて目くらまし。]
[肩はケープ、首はレース。
細長い手腕は長いフィンガーレスのサテングローブ
肉付きの少ない男らしい部分を純白の布で覆っていく。
元々男の中では華奢な方だから。十分ごまかせる筈。
……晴れの日の、乙女の格好にしては
肌の出ている部分が少なすぎるのは、
違和感を抱かれるかもしれないけど。
その時は、あの人は日光に弱いとか言って
適当にかわしてくれると信じているわ、坊ちゃん]
[化粧も小物もつけ終われば、式のお時間。
ベールを被り、貴方の隣に並び立ち
人の視線を浴びながら、前だけを向いて
バージンロードを静かに歩く。]
[読み上げられる誓いの言葉、それに「誓います」と
神の前で約束する貴方を見て。
あぁやっと本当に、名実ともに、
貴方の伴侶を名乗る資格を得た気がして。
……少し、感慨深い。]
[私も神に誓って、指輪の交換に移り。
私は貴方に向き合って左手を差し出した。
前のとは違う、氷製では無い指輪。
両者分あるつがいの指輪は、新たな絆を紡ぐ証。]
[何を話すでもなく、目を細めて促す。
どんなに熱く愛し合っても溶け落ちないような、それを。
友愛でも情愛でもない真の愛の形がこの指に嵌まる瞬間を
少し緊張した微笑みを湛え、今か今かと待っている。]**
[仕切りを隔てた先にいたのは、
純白のウェディングドレスに身を包んだ、式の主役の姿。]
········綺麗だ。
[ふんわりとした広がるドレスは、君が好きな百合の花弁のようで滑らかで。
一緒に選んだものだからか、より煌めいて見えました。
時間をたっぷりとかけて悩んだかいがあったな、などと考えていたら。
意地悪な言葉が物と共に飛んできたでしょう。]
下心はないですからね!?······わっ!
[目くらしが顔に掛かり、情けない声をあげました。
いそいそと布と共に仕切りの向こうに引っ込む花婿。]
·······単純に心配しただけなのですが。
[せっかく褒めて貰えた髪型もくしゃくしゃになってしまっ。て
それを鏡の前で整えながら、不満そうな独り言を呟いていました。
···まぁ、本音を言えば。
最愛の人の晴れ姿を早く見たかった気持ちも強かった、····です。
本音を見透かされたような気分になり、頬にほんのり赤らめていたでしょう。]
[今度こそ、大人しく君を待っている間に、ふと自室に視線を向けました。
つい最近、買い換えたベットは
二人で寝ても、充分に余裕があるもの。
『一日の始まりを告げる、おはよう。
一日の終わりを告げる、おやすみ。』
それを君の口から聞けるのが嬉しくて、
熱い夜だけでなく、温かな夜を過ごすことも増えました。
ほんの少しだけ狭くなった部屋には
置き忘れたり、飾ってくれたりした、君のものが段々と増えてゆき、
それらを見る度に、幸せを感じる日々を過ごしています。]
[準備が整い、
雪のよりも真っ白な花嫁の衣装に身を包んだ君を見て
私は、また君に惚れ、恋におちる。
上質な白のシルクで作られた、丈の長いドレスは
すらりとした手足を持つ君によく似合っていて
露出の少なさと清楚な雰囲気の黒髪が、君の上品さを引き立てていました。]
今日は、一段と綺麗ですよ。
[ベールの下から覗き込むように、身体を傾け、
柔和な笑みを浮かべました。
左手の親指を中に入れて握り
それを体の正面に置いてエスコートポーズをとります。
どうぞ、ここに右腕をお掛けください。]
[最初の一歩を同時に踏み出して、控え室を後にしました。
歩幅を合わせ、廊下を歩き、階段を降りてゆくと見えてくるのは
私たちを祝福する、家従たちの姿。]
···知っていますか?
会場を埋め尽くす百を越えそうな花たちは、
庭師だけでなく、
ここにいる皆が協力して植えてくださったんですよ。
[そっと、隣を歩く君に耳打ちをします。]
[それはきっと
君が私の婚約者だからではなく、君自身が好かれている証拠。
······ですので、今日も、これからも胸を張って歩いてください。]
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