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じゃあ少し失礼して……
[ベッドに座った彼女の顔に向き合う。その貌をよく見て、触れる。骨格から、パーツの位置までじっくりと。
……当人は野暮ったいと言われがちだとは言うが、こうして見ると中々に整った顔立ちである。華やかではないが、素朴で、純粋そうで。眼鏡に印象が持っていかれてしまいがちだが、大きい目からは力強さも感じられて。]
……良い貌ね、生命力を感じる。目の周りが特に……人に好かれる形だわ。黒目と白目のバランスもいい。
それから、唇も。意外とふっくらとしているのね……愛情を注ぐのも、注がれるのも、上手なかたち。
[指先が彼女の唇をなぞり、その形を覚えようとした刹那。
…………衝動的に、己の唇をそこに重ねていた。]*
面白そうだな、って興味。あったから。
残りの灰を掻いた模様で?色々な法則がありそう。
絶対同じ模様が出る、ってわけでもないだろうし。
じゃあ、話してみるわ。
多分快く貸してくれると思う。
[何せ、私や友人にも隙あらば占術を極めてみないかと
勧誘してくる人物なのだから。
機関の魔術師見習いは割合癖の強い者が多い。
――私含めて。
そして、他者の魔術に対して興味津々な者も多い。
私は、特に。
なので前のめりになる私への窘めにも、
反省はしつつ仕方のないことだと主張したい。
確かに。
レポートの書き損じのものとか、
取っておくべきだったかしら。
人相占い!面白そうね。
私、一体どんな結果が出るのかしら。
[金欠とか言われたらどうしよう。
いや、それより勉学に難ありとか言われたら。
まあ、東洋の端の諺に、当たるも八卦というのがあるらしいので
その金言を信じてしまおう。と内心の言い訳。
良い結果が出ますようにと、じっと彼を見つめる。
期待と、高揚と。
水晶占いを初めて見た時のように。]
[そして爆速で後悔していた。
――顔がいい!
そう、顔がいいのだ。それがとても近くにあるのだ。
あまつさえ、形よく美しい指が振れるのだ。
頬の輪郭、否。骨格をなぞる様に。
或いは、眦や瞼の様子などを知る様に。
顔がいい。
声もいい。
つまりはとても間近に、私は美の極を見ているようなものだ。
思わずはわわ、と真っ赤になってしまう。
緊張が襲ってきた。羞恥も襲ってきた。
結果は、占い結果があまり頭に入ってこない、それに尽きる。]
[慈しむようになのか、或いは確かめるようになのか。
なぞるように、弧を描くようにして指先がかすめる唇
――離れた、と。思ったら。
指ではない感触が。
もっと近い距離で、貴方の瞳が私を、見ていた。
声を出すことすら、忘れ。彼を見る。*]
[私が自分のより冷たい肌の質感を、楽しんでいる時
坊ちゃんは止めてと言いたげな声を出していたみたい
ベルトに一目やって]
いいのよ、無理に脱がなくても。
付けたままでも……なんだか。
[坊ちゃんの白い肌に巻きついてるのが、扇情的に見えて。
含み笑いをして「興奮する」って教えてあげた。]
[肩ら辺に抱きつかれて、少し身体を震わせる。
不意に触られたのを、昂っている神経が敏感に
拾い上げたのか、坊ちゃんが少し冷たく感じたのか
きっとそのどちらも。
でも……今日の坊ちゃんのお体全体は
いつもよりもっと暖かい気がする。……気のせい?]
[布擦れの音や金属の少し動くようなのや……
あなたの熱の篭った声を聴きながら。
1番耳に入ってくるのは口内でつくられる水音。
何度も何度も舌を絡めて。彼の口の中をたっぷり味わって
口を遠ざけた時に、つうと糸が伝うのが好き。
架け橋みたいで綺麗だと思うの。]
ふふ、坊ちゃん。私にこういうことされるの、
好き……?
[ふぅと1度、坊ちゃんのを触っていたのを離して
口の銀糸を拭ってから。]
私は坊ちゃんのお身体触るの、
大好き……。いっぱい、可愛いのが見られるから。
[ぐりぐりと掌で先っぽをいじめていたのをやめて
手の全体で先も包み込んで。竿の方と同じように上下に。
力加減を弱めたり、強めたりしながら動かす……
精を吐くのを促すみたいに。]
何時でもいっていいからね……?
[なんて言葉も息を整えていそうなあなたの耳元に添えて。]
私の手を、あなたのでよごしてほしいの……。**
[夜道を滑る馬車は、やがて聳える邸宅の敷地へと。
分厚い門扉が、下男の手で押し開かれる。
庭先では、花々が見頃を迎え始める季節だが、
夜更けの今は、月下に朧な輪郭が見えるばかり。
ただ、門扉に括り付けられた灯りに、
枝垂れるウィステリアが照らし出された。
馬車を降りると、玄関から繋がる
天井の高いホールを抜ける。
進む足音は、敷かれた絨毯が吸い込んだ。
マントルピースの暖炉の上、先代の父と母が
佇む肖像画を、シャンデリアが柔らかく照らす。]
[さて、ジャーディンを何処に通そうかと考える。
客人を招いて晩餐会も開くダイニングルーム。
居心地の良い応接間。異国の本を並べた書斎。
自室に通しても良かったが、連れ帰ったばかりの
彼には刺激が強そうだ。]
まずは、食事ね…、
そういえば、パルテールではどうしていたの?
他のドール達と一緒に?
[控えるメイドに、軽食の用意を申し付ける。
もてなしをすれば、彼にまた恐縮されかねないと踏んで、
パンと温かなスウプと、コールドミート程度を。
自身には、チーズとフルーツ、それにワインを。]
[お互いに、目は開いたままで。視線同士が交差する。
はっと我にかえり、すぐに離れる。
俺は何をしているんだ?]
…………あ、その。ゴメン。綺麗なかたちしてたから、つい…………
[多分それだけでは無いのだ、衝動的に及んでしまった理由は。
ずっと、心の奥底に仕舞い込んでいた本能が、理性を食い破ろうとうごめいている。
……軽い接触程度なら、ときおり店でする事はあれど。性的な意図を載せた触れ合いは一切彼女とはしなかった。望まれていないから、自分はドールだから、という理由でどうにか覆い隠して。]
…………もう一回、する?*
[ジャーディンを伴ったのは、大窓が庭に面する
開放的なパーラー。
今は、窓枠が夜暗の漆黒を切り取る。
時折お茶会を催すガラスのテーブルと椅子が
置かれている。
ダイニングのそれよりは、ずっと小振りの設え。
カコが庭を眺めて、お茶を飲むこともよくある場所だ。]
どうぞ座って。
食事の間に、差し当たっての着替えや
身の回りのものは、部屋に用意させるわ。
[引かれた椅子に座り、ジャーディンにも向かいの
席に着くよう促す。
直に軽食の準備は整った。]
[ジャーディンのグラスには葡萄ジュース。
カコのグラスには、赤ワインが注がれる。]
ようこそ、ジャーディン。
[彼の方へと軽くグラスを掲げ、
葡萄の馥郁とした香を薫る。
一口含んでから、彼にも食事を勧め、
フルーツを摘み始める。]
明日は、執事長とメイド長に会ってもらって、
近いうちに園丁にも。
与えられた仕事をこなすうち、
自ずと得手不得手も知れるでしょう。
好きなことや、新たな興味も
出てくるかも知れない。
けれど先ずは、何よりも。
私と、それにこの家で暮らすことにも
慣れて頂戴。
ここが、貴方の終の棲家。
───ここで生きて、ここで死になさい。
ジャーディン。
[言葉の傲慢さに反して、声音は柔い。
彼が選べないというのなら、選ぶまで。
一度己を選ぶと言わせた以上、
もう躊躇いはなかった。]**
[綺麗な顔が、離れていく。
視線は絡み合ったままで。多分、私は茫然として。
そのまま顔を真っ赤にしている、ことだろう。
「つい」
だと、彼は言う。
麦穂の、くすむ金色の髪で
赤縁の野暮ったい眼鏡の子でも
唇が綺麗な形なら。触れたくなるの?
――ことばがきっと足りない、あなたと、わたし。
でも、1つだけ。]
煙さんは、したいの?
[尋ねると同時に、手を伸ばす。
貴方の頬には触れられたかしら。
触れられたなら、頬から唇の方へと指を動かして。
上弦の月のように弧を描こうか。
ああ、確かにそうね。
綺麗なかたちをしていたら。触れたくなる。
”選ぶ”の、ならば。]
私はそうね。してみたいわ。*
……………あのねえ…………
ちょっとは躊躇しなさいな、口調がこれだから忘れてるかもしれないけれど。
……「俺」は男だよ?
[先程問うたのは己の方だと言うのに、この言い種である。ある種の最終通告に近い。
――蠱惑的な笑みを浮かべられて、ぞくりとしたのだ。普段はすぐに引っ込んじゃうくせして、そんな顔も出来ちゃうのか。本当に、この子は。
人の気も知らないで。]
……したくないのなら、
お誘いなんてしないでしょ。
了承は取ったから、ね。
[己へと触れた手に、自身の手を重ねて握り。
再び口付ける。今度は重ねるだけのものではなく、より相手を求めるように。舌先で唇を突き、隙間から忍び込ませる。「逃げちゃ駄目」と言い聞かせるよう、唾液を絡ませて、深く深く。]*
[夜道を馬車で進むのは初めてのことではないが
思い出はどれも憂鬱だった。
今も不安が無いわけではなく、夜闇に刺激されてか
ジャーディンは重い気分になっていた。
やがて屋敷へとたどり着けば
灯に照らされたウィステリアに迎えられ、
馬車を降りて入った邸内は
絨毯のおかげで靴音が響かない。
暖炉の上に飾られた夫婦らしき肖像画は
恐らく彼女の両親であろうと当たりをつけた]
食事は、はい、ドールたちは皆一緒に。
自分たちで作ることがほとんどでした。
材料はオーナーが用意してくれました。
[料理ができない者は互いに教え合うか
オーナーに教えてもらうか、
あるいは作る以外の仕事をするか。
質素なメニューを用意してもらえば安堵して、
彼女の後をついてパーラーへとたどり着く]
あの……カコ様と一緒のテーブルで……?
[案内してもらった席は彼女と一緒のようだ。
そのことに戸惑って問いかける。
呼びかけは彼女の返答通り、今までと同じだ。
主人との同席がこの屋敷のルールだというなら
従う以外にないが、ジャーディンにとっては
あまりにも慣れないことであった。
グラスに葡萄ジュースが注がれたのには気付いても
彼女に応じるようにグラスを掲げる知識はなかった]
着替えは持ってきました。
パルテールで着ていたものですが……。
他のものを着るべきでしたら
そのようにいたします。
同室の方にご挨拶しなければ。
[接客のためと用意されたものの他はない。
眠るときは下着である。
使用人は相部屋とジャーディンは思い込んでいる。
過去、短い間勤めた勤めた屋敷は
いずれもそうだったからだ]
[彼女はやはり、奴隷を一人の人間として
尊重してくれる人のようだ。
その慣れない扱いには末恐ろしさがあったが、
一方で安心できることもあった。
『ここで生きて、ここで死になさい』
死をこの家で迎えて良いのだと、
これ以上どこかに行くことを考えなくていいのだと
そう保証してもらえることに心が安らいだ。
ここでどんな扱いを受けることになるかは
日々を過ごしてみなければわからないだろうが、
何度も路頭に迷うよりは命を絶たれたほうが楽――
奴隷の人生とはそういうものだろう。
もうパルテールに戻ることはないのだから]**
わ、忘れてはいないけれど。
でも煙さん、は煙さんだと思ってて。
[憧れて、綺麗だなと思っていて。話し上手で。
仕事を真面目にこなす人で。気遣いのひとで。
指折り数えることができる、貴方の良いところ。
そんなあなたが呆れたようにつぶやく言葉に、
反射で反応すれどもあまり育たぬ危機感は未だ蕾。
されど情緒は未成熟でも。
成年している、娘なのだ。
重ねた手をほどくこともせず。
――触れるだけのものから、口の中へと侵入し、
互いに絡む舌に。混ざる唾液と、鳴る水音に。
息すら、忘れてしまう程。
知りたがりの娘は、逃げることすら忘れて。]
―― っ、ふ、 ぅ。
[口の端から時折漏れる声は、
口づけの合間の呼吸の仕方を知らぬ、証。
蹂躙される柔肉は、其れを味わう舌に濡れぼそり
取られた手の指が縋る様に、甲を握る。
くらくらするのは酸欠から?今の状態への酩酊?
或いは、
両方*]
……あたしはあたし、か。
[彼女の言葉を反芻する。リッキィらしいといえば、らしい答えだ。……果たしてこの先まで行ってしまっても、そう思ってくれるのだろうか。
……それでも一応、ギリギリの所で理性が押し留めてはいる。性急に、コトを進めないようにと、戒めるように。
……許諾を得てしまったからには、彼女を満ちたりさせるまで。]
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