14 冷たい校舎村10
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[ 飛んでいける わたしたち、翼も持っていないのに?
星々に囲まれた校舎の中で、 誰かさんが残そうとした言葉を思い出して。
孵らなかった無数の卵たち。 あるいは目には見えないだけで、 なにかが飛び立っていくところなのだろうか。
ポケットの中、薄く尖った感触を確かめながら、 わたしを屋上へと導くボタンを押し込んだ。]
(50) 2021/11/13(Sat) 12時半頃
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[ その扉が再び開くとき、 わたしが目にするのはきっと、 先客二人分の背中だ。>>38*]
(51) 2021/11/13(Sat) 12時半頃
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[死んだのが俺だったらよかったのに。]
(52) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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[ただの代替品。
15歳までしかなかった兄。 15歳からまだ先がある俺。
どちらが望まれていたかなんて、 聞くまでもない話だった。]
(53) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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[時間が経つにつれ、兄の記憶は薄れていくのに。 兄が残したものは、輝きを増していくようで。
品行方正で優秀だった成績も。 誰にでも優しく愛想のいい笑顔も。
どんどん俺には、手が届かなくなっていく。]
(54) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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[年齢と身長だけは、兄を追い越して。
お下がりだった服は全部着れなくなった頃に、 兄が行くはずだった高校に進学した。
家はまた荒れていったけど、 入学前に亡くなった生徒を覚えてる者はいなくて 俺はまったく兄の名残がない場所を手に入れた。
それなのに気づけば、 事あるごとに兄と比較してしまう。 やりたくもないのに、まるで呪いのように。
──その度、思わずにいられなかった。]
(55) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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── 教室 ──
[夜がくる音が響き渡り。>>#0]
あ、チャイム。
[俺はまだ校舎に居た。猫の着ぐるみ姿で。]
(56) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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[うっかり卵を踏んづけて割ってしまったあと。 教室でぼんやりしてたら、 河合がパンケーキを持ってきて。>>4 朝食のあとはまだ食べてなかったことに気づいた。 古香と作ったのだということも、聞けただろうか。>>15
腹ごしらえをしたあとは、 3-2教室に到着した夏見似人形を見にいったり。 演劇部倉庫から探し出せた猫の着ぐるみを 教室まで持ち帰って、着てみたり。
しているうちに、チャイムが鳴って。]
(57) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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──っ、なんだ?
[続いて、廊下で何かが弾ける音。 着ぐるみ頭があちこちにぶつからないよう注意しつつ 教室の扉から顔を出せば、 そこには割れてしまった卵の残骸があり。 ふ、と前触れなく照明が落ちた。]
(58) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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次は停電かよ……って。星?
[上を見れば天井に小さな光が点々としていて 校舎の中なのに、まるで星空のように見えるそれは プラネタリウムというやつだろうか。 とにかく大きく様変わりした校舎内を確認するべく、 教室を出ながら記憶を辿る。
確か、プラネタリウムをやってたのは最終日の午後。 文化祭の終わりが近づいてるのかもしれない、なんて。]
(59) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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[エレベーター前に着いて表示を見れば、 それはちょうど今、動いていて。>>13 最上階で止まったようだ。
少なくとも誰かがそこにいるんだろう。 「飛んでいける」と、送ってきた主か。 それとも、それに気づいた別の誰かか。
星明りの中で、エレベーターが戻ってくるのを待ち。 扉が開いた箱に乗りこもうとして、ぎょっとした。]
雄火……ああ、そっか。
[エレベーターにいた先客は、 ボールを抱えたクラスメイト似の人形で。 数時間前まで話してたその口は、もう喋ることもなく。]
(60) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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悪いな、すぐ運んでやれなくて。
[やりたいことは、やれたんだろうか。 皆のいる3-2教室へ運んでやれないことを謝りながら。 傍らにしゃがみこんで いつかのようにその頭をぐしゃぐしゃに撫でてやれば。
いつの間にか動き出してたエレベーターが2Fで止まり、 乗りこんでくる気配に、狭い視界を向けた。>>46]
(61) 2021/11/13(Sat) 15時頃
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[見えたのは、古香の驚いた顔。>>48>>49 着ぐるみ姿に言及があったかは、さておき。
さも自然に雄火似の人形へ向ける いつもの古香らしい声を聞けば、 無意識に張ってた緊張感がほどけた気がした。]
……屋上、誰かいるみたいだぞ。 さっきエレベーターが止まってた。
行ってみるか?
[そう教えたなら、 行き先ボタンの迷いはなくなっただろうか。>>50]
(62) 2021/11/13(Sat) 15時半頃
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[そうして、エレベーターが屋上に着いたなら>>51 雄火の傍らから立ち上がり。 古香の後を追うように、扉から出ただろう。**]
(63) 2021/11/13(Sat) 15時半頃
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── 現在 ──
[ そこに、驚きがもう一つ。
当たり前のように声をかけてくる猫に、>>62 わたしは当然、ひどく驚くことになる。]
──っ、は、はるみちい?
…………あのさー、 人気のない校舎で突然遭遇する着ぐるみには、 100人いたら99人は腰を抜かすと思うよ。
[ わたしが情けない声をあげるだけで済む、 気丈な女の子で本当によかったね! 人形より先にわたしを運ばせるところだった。]
(64) 2021/11/13(Sat) 16時半頃
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[ どう考えてもさておけない事実に、>>62 わたしの緊張も少しとけたらしい。 気の抜けた笑い交じりの声で言って、 わたしはそのエレベーターに乗り込む。
屋上とハルミチーは言い、>>62 わたしはそれに迷いなくうなずいた。
その箱が上昇しきるまでのわずかな間、 ただ待つことももどかしく、 わたしはぽつりぽつりと言葉をこぼす。]
(65) 2021/11/13(Sat) 16時半頃
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……広いねえ。 大きな猫ちゃんと大きめのわたしと、 バスケ少年が一緒に乗り込んでても。 この世界を作った人は、みんなに優しい。
[ 着ぐるみ姿のままらしいから、 君の目を見て──とはいえないけれど。
高い位置にある着ぐるみの大きな頭。 それを見上げて、わたしも言った。]
(66) 2021/11/13(Sat) 16時半頃
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春満、知ってた? あのプラネタリウム、 和歌奈ちゃんが作ってくれたの。 天文部、もともとやる予定じゃなかったの。
[ だから、この世界は──というほど、 意外性はない結論だ。この星空を見てしまえば。
言い終わるのとほぼ同時みたいに、 エレベーターが目的の場所で扉を開く。
彼女たちはまだ扉の前にいただろうか。 ゆっくり開く扉の先になにがあるのか。
なにかを祈るような気持ちで、 わたしの鼓動は今もひどく速い。*]
(67) 2021/11/13(Sat) 16時半頃
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[かえってしまった“きみ”について考える。
全部猫語で接客するなんてやるじゃん、って、
文化祭の時の私は暢気に思ってた。
そんなきみがココロに秘めてた欲望を知ったら、
情けない顔をしちゃってたかな。
自分に負けてこの世から逃げた私には、
眩しすぎる欲望だからね、それは。
ひとつ、天文部チックな言葉を残すけれど。
この不思議な時がいずれ過去の一点になったとしても。
過去からの光は未来のきみにも届くよ、きっとね]
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―― 回想・チャイムが鳴る前 ――
[時間は遡る。 文化祭の時できなかったことをやるにも、 肝心の私達の喫茶店がない……という問題は、 あっさり解決した。 古香ちゃんが調理室にやってきて、それを追い返すわけもなく、 「いいよー」と答えて、卵の割れる音が増えて。>>15 その後黙々と調理をするだけで終わることなく、 言葉を交わした折。 どうやら猫のボタンが喫茶店に繋がってるらしいと知った。
しかも猫耳装備の店員もいるって。>>3:174>>3:175]
(68) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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喫茶店があって店員さんもいるなら、 商品を用意しないと。
[なんて楽しそうに言って、 パンケーキにカラーチョコペンで盛大に猫の顔を描く。 お届けは古香ちゃん、君に任せた。 ――って、すっかりお店やってる気持ちになって頼んだけど。 結果はどんな感じだったかな]
(69) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[卵を見てて、 校舎のいたるところにばらまかれていたそれを、 思い出さないわけはなかった。
声の意味するところ。 不知火ちゃんが知りたがってたこと。>>2:339 解答欄は未だに空白。
卵が聞かせてきた言葉。 「お願い」――あとはなんだっけ? >>2:120 とにかくあれは不特定多数への祈りというよりは、 誰かひとりへ向けられた切実な願いのように思えた。 和歌奈だったら聞き届けてしまうだろう。 もちろん倫理にもとる範囲で。 そのココロを潰さないように、慎重に]
(70) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[なんて考えてたら、 ホントの卵をまたうまく割れなくて、 ボウルの縁から白身がだらっと零れてしまったから、 慌てて布巾を取りに動いた。
だから卵について考えたのはそこでおしまい]
(71) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[そうして今。 もう私の校舎(せかい)に卵は必要ない]
(72) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[私が今までお人好しの振りして聞いてきた、 抱え込んできた誰かのココロからの声。もう守る必要はない。
あるいは、 呼んじゃった誰かのココロから生まれた――のだと思う、 まったくかわいくないことを囀る卵も。>>2:200>>2:377 私がその中身を揺さぶろうという変な気を起こすことも、もうない。 私がこのまま死んでしまえば、永遠に。
ここが私の世界であることを示すパーツは、 最終的には直接私に己の罪を突きつけた。 私は気付いた。だから役目はおしまい]
(73) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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―― 屋上前、扉を開け放って ――
[ドアノブを回して扉を押し開ける。 冷たい風が入り込んできて髪を揺らした。
一歩だけ。 そう、一歩だけ外、つまりは非日常の側に踏み出して、 空を見上げた。ただの真っ黒な空だった。
……そういえば校舎に足を踏み入れる前は、 雪が降っていた。一部の隙もなく。 試しに晴れろって念を送ってみたんだけど、駄目だった。
吹きすさぶ風の音は、あの日に吹かなかったものであるけれど、 確かに記憶を連れてくる。 そう、飛び降りてしまった日の。
誰にも伝えず私の中に抱え込んでしまう気はあったんだけどね]
(74) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[ 声が、聞こえる。>>38 ]
(75) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[理性を総動員させる。 後ろを振り返って彼女の顔を見ないように。 見たら決意が鈍ってしまいそうで。
こと座の話を思い出してた。 よく覚えてる。何せ文化祭のプラネタリウムの内容に、 夏の星座のことが含まれてたから。秋だったのに。
あの世に連れてかれた大事な人を連れ戻そうとしたんだけど、 後ろを振り返って失敗したって話。 おおまかに言うとそんな感じ。 つまり振り返ったら失敗する。 私がやろうとしてるのはむしろあの世に行く方だけど]
(76) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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ふむ。不知火ちゃんはどんな気持ちだと思う? ……きみの思うそれが案外正解。 ってことでいいんじゃないかなあ。
だって、ほんとうのことはぐちゃぐちゃしてるんだよ。 自由になれるかも、って思うくらいがちょうどいいんじゃないかなあ。
[振り返らないまま、優しげな声を振り絞る。 私のほんとうは、そう。 自由になりたくて飛び降りたわけじゃない、 他に行くところを知らなかった。 遠くの星に行けるロケットなどないから、地面に墜ちるしか]
(77) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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……それでも知りたいの? 知ってどうするの? こんな国語の勉強の参考にもならないこと。
それよりやることがあるんじゃない?
[……ちょうど、エレベーターの到着する音が聞こえたような。>>51>>63 猫耳店員さんだった君か、 パンケーキを作った君か、 パンケーキを食べてくれた君か。>>57 振り返って確認はしない。話は終わりじゃない]
(78) 2021/11/13(Sat) 20時半頃
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