1 冷たい校舎村(別)
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〇月×日
生理が来なくなった
(627) 2020/11/15(Sun) 22時半頃
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[ 誰にも言えなかった。 言えるわけ、ないじゃんか。
そんなのありえない、って自分で否定して 通販で検査薬を買って、 何度だって線が出てくるから震えてた。
病院に行った。医師の姪だと嘘を吐き、 罪悪感を紛らわせながら待合室に立った。 医師は私の意図を汲み、会ってくれたが 当然の行為として親を呼びつけた。
すべて、バレちゃったんだ。 ]
(628) 2020/11/15(Sun) 22時半頃
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[ 母は泣き、父は黙り、 あたしはその両方をした。
幼いあたしは、産むなどと口走った。 両親は堕ろしてほしいと懇願した。 産むリスク、育てる大変さ、 あたしたちがまだ子供であること、 彼は受験生で、この妊娠すら知らなかったこと。 懇願というよりも、切実な説得だ。
あたしは感情的に反発したけれど、 やがて二人の希望に頷かざるを得なかった。
だって、二人の言うことのほうが どう考えても、正しいんだもん。 ]
(629) 2020/11/15(Sun) 22時半頃
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[ バレてしまってから、 あたしは先輩と一言も喋れなかった。 会うことも、なかった。 ]
(630) 2020/11/15(Sun) 22時半頃
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[ 双方の希望もあり、 事態は最小限に、収まったと思う。
あたしは部活を辞めた。 親は辞めてとも言わなかったけれど そうするべきだと思って、辞めた。
友達にもバレてはいなかったようだけど、 あたしは気まずくて、段々と一人になった。
父が片月のパンフレットを持ってきたので あたしは入学することに決めた。 部活を辞めてから勉強ばかりしていたから 学力のレベルは問題はなかった。 ]
(631) 2020/11/15(Sun) 22時半頃
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[ 無事入学して、あたしは女子校の生徒となった。 父も母も、喜んでいた。 弟だけはあの騒動から、あたしを毛嫌いした。 当然だろう。と思う。父と母は大人なだけだ。
やがて、片月にも、バスケ部があると知って あたしはやんわりと、入部を仄めかした。
女子校だし、たいして強くもないのだ。 もしかしたら、という淡い期待は 両親の硬い表情を見て、打ち砕かれた。
あ。って、あたしは思う。 ごめんね。なんでもない。って、言って、 よくわからない表情のまま、嘘ということにする。 ]
(632) 2020/11/15(Sun) 23時頃
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〇月×日
私の命は、二人分だった。 もう、一つしかありません。
ほんのすこしの間でも、私は母でした。
(633) 2020/11/15(Sun) 23時頃
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[ あの日から、あたし、 蛭間家の“娘”の顔が、分からなくなった。* ]
(634) 2020/11/15(Sun) 23時頃
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─ さよなら、みんな ─
[ 外はすっかり、暗くなっているみたいだ。 文化祭の装飾も、音楽も、 チャイムが3回鳴った後も変化はない。
ただ、蝶が増え、花が増え、釘が増え、 段々と形に歪さが垣間見える文化祭は 相も変わらず、続いていく。
曇った窓ガラスを袖で拭えば、外は雪。 窓ガラスに映った自分の顔は よくわからない顔をしている。 ]
(652) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ みんなと居る時は、 こんな顔にならないのにさ。 もっと、いつも通りにできるのに。 学校に居るだけじゃ、ダメだなー。
自分の頬に触れる。冷たい指先。
まだ、あたしは生きてる。 まだ、みんなは生きてる。 まだ、間に合うかもしれない。
そう思って、歩き出す。 ]
(653) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ 不意に、誰かの人影が見えた。 ]
(654) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ べつに、誰の人影でも可笑しくはないはずだ。 この校舎には、まだ人が残っている。
それでもあたしは駆け出して、 その人影を追う。今度は見失わないように。 息を切らし、階段を駆け下りて、走る。
文化祭の装飾が施された体育館に、その影は居た。 文字通りの影だった。 あたしの形をした、影だった。
影はすっと、ステージの上を指さす。 ]
(655) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ そこには、先の丸くなった縄がぶら下がっていた。 ]
(656) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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……そっか、そうだよね、 あたし、死ぬんだ
[ いつの間にか、影は居なくなっていた。 あたしは、ステージの上へ、 吸い寄せられるように進んでいく。
ご丁寧に、縄の下には踏み台が用意されていた。 チャコールブラウンのその木目を眺めて あたしはステージの上で顔を上げる。 ]
(657) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ 観客のいない、文化祭のステージ。 本当はね。 中学校の頃は友達に誘われて 文化祭でダンスを踊ったりも、した。
高校に入ってからは、そういう目立ち方が こわくなって、もう出来なかった。 親に怒られるかもしれない、と思ったし それを言い訳にしている節があった。
いつ、だれに指をさされるか分からなくて あたし、ずっと臆病になって、 それでも心のどこかで他人を馬鹿にしながら 生きてきて、しまった。 ]
(658) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ 踏み台へ顔を戻すと、 あたしが昔からつけている日記帳がある。 ずぼらながらに、そこそこ忘れず、 日々を記している、日記。 ]
(659) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ うさぎの描かれた表紙をそっと撫でて、 あたしは最後のページに綴っていく。 ]
(660) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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〇月×日
恋を病とするのなら、 きっとこの苦しさはその後遺症なのでしょう。
ふとした時に、自分が分からなくなります。 誰かに恋をすることが怖く、怯え、 どう振舞えばいいのか、迷子のようになる。
堕ろしてしまえば、終わり、ではないのです。 この痛みは今も私を蝕み、三年間苦しめ続けました。 年月が傷を癒すなど、嘘だと、私は思います。
(661) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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だったらいっそ、と思ったのは 最近のことだったはずです。 自ら命を絶つ権利など、私にはありませんが 選択はそれ以外ないように思うのです。
さよなら、みんな
(662) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ ぱたん。と閉じて、横に置き あたしは踏み台へ登る。視線が高くなる。
頑丈なロープへ手を伸ばし 首に掛けようと──… ]
(663) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ 温かい雫が、あたしの手に落ちる。 ]
あ、あれ……
[ あたしは泣いていた。 涙が頬を伝って、落ちていく。 熱い、と思うくらいだった。
唇や歯が震えて、縄を握る手だって震えている。 どうして。と思うのに、 頭の中に浮かぶ言葉は、怖い。たった。 ]
(664) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ そうだ。あたし、怖いんだ。 死ぬのが怖い。死んでしまうのが怖い。
こんなにも他人に迷惑をかけたって言うのに まだ生きたいなんて思ってるんだ。 思ってしまっているんだ。
なんにも正しくなんて無いじゃん。 ためになることも言ってやれないし、 誰かのためのいいことも、してやれない。 生きている意味も、生きてく意味も分かんない。 そんなのあたしが、一番わかってんだよ。
でも、怖い。死ぬのは怖い。 ]
(665) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ だからあたし、あの遺書の送り主じゃない。 ]
(666) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ それでもあたしは泣きながら、 首に縄をかけようとする。 誰かが世界を閉じなきゃいけないのに、 あたし、また、逃げようとしてる。 ]
ねえ、止まって、 止まってよ…ねえ…!
[ そう零しても、あたしの手は止まらない。 あたしの手じゃないみたい。
いやだ。 死へ、以外の恐怖が、あたしの頭を過る。 そのまま心を満たして、涙があふれる。 ]
(667) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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─…止まってよ!!
[ まだ、間に合うんでしょ。 間に合うかも、しれないじゃんか。 まだ校舎に残っている子たちを思い出す。
死ぬべきならきっと、あたしじゃんか。 あたし、ひとごろしなんだよ。 みんなに言ったこと無かったけど。 言えなかったけど。
ねえ。お願い。 ]
(668) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ あたしの足が、踏み台を蹴る。 ]
(669) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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あ。
(670) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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[ おちる。 ]
(671) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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─ おやすみ、ばいばい ─
[ がらんどうの体育館に、チャイムが鳴る。
あたしはもう、そこには居なくて ステージの上、あたしに似たマネキンが 照明器具から下がる縄から 首をぶらんぶらんさせて、吊られている。
傍には、うさぎの描かれた表紙の日記帳。 嫌な思い出は全部なかったことになっていて、 さよならのページももちろんなくて、
3年1組になってからの楽しいあたしの思い出だけが だいすきだよ、って、綴られている。** ]
(672) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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/* いっこ発言の区切り間違えた…と読み返して思いました>>664
(-54) 2020/11/15(Sun) 23時半頃
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