[来賓と話すだけの語彙やなにやは持ち合わせていなかった
けれど、一人で黙って席に座っているのも
偉そうな上、不躾な印象を与えるのではと思い当たって。
だから、坊ちゃんの腕に手をかけて、共に巡り歩いた。
仕立ての良い服を着ている、育ちの良さそうな面々を見、
ふとそばに目をやると古巣の、パルテールにいた顔も。
彼らは私が男ということには、知っていてもおかしくない
でしょう。だって、私の体は男だから……
風呂やらなにやらは、男用のを使っていたんだもの。]
[でも、彼らを見かけただけで警戒をすることは無かったわ。
色眼鏡の彼は、人の世話を焼いてるのをよく見たから
意地悪な人には見えなかったし。
金髪の彼は……自分からは言いそうにないのではと。
そういう印象を持っていたものだから。
顔を合わせれば、他の来賓にするのと同じように
会釈ぐらいは返して、後は御歓談を静かに聞いて、
必要があらば頷くぐらいの、相槌も返して。
後に、式が少し落ち着いた時にでも
「世間って狭いのね」と、傍らの彼に呟いたとか。]
(*190) zazakiti 2024/03/04(Mon) 08時半頃