[ 「プログラム6番 鷹羽 虹乃」
場内アナウンスに合わせて、コーチと手を握り合ってから、緊張した面持ちでリンクの中央へ向かう。
観客が見守る中、静まり返る場内には氷を削る音だけが続いて。
――喜び以外、この世の全ては狂気。
華やかなオペラ楽曲に合わせて、銀盤で娼婦の純愛を演じるその首元には、深い菫色の石が輝いている。
長い手足は指先まで神経を研ぎ澄ませて。氷に吸い付くようなスケーティングから繰り出されるジャンプは次々と成功し、会場の手拍子に合わせて、綻ぶような笑みで踊る、駆ける、舞い上がる。
三回転のコンビネーションジャンプ、シークエンスに、得意のドーナツスピン。
――愛は束の間、生まれては枯れる一凛の花。
切々と謳いあげるヴィオレッタに合わせて、弧の軌跡を重ねながら、氷の上で優美に咲き誇る。
演技の終盤から拍手が鳴りやむことはなく、頬を紅潮させた虹乃は礼を終えると真っ先に、リンクサイドで花束を抱えた幼馴染の元へ走り出す――TVで初めてノーカットで流れた、その一部始終。]
(-319) 2023/04/29(Sat) 20時頃