――11月XX日/新横浜スケート会場 選手控室――
わざわざごめんね、急な日程で。
[出場選手でごった返す一室、鏡の中の自分を確かめながら、傍らの幼馴染に詫びる。
彼女は昨晩の帰国直後から、この日のためにデザインした衣装のサイズ合わせをしてくれていた。
前シーズンと似たシルエットの衣装は、椿と情熱をイメージした華やかな花紅色。首元のチョーカーには、クルーエル社からの大粒のタンザナイト。少し伸びた髪はまた頭頂部で小さなお団子にして、半日後には枯れるだろう紅の椿の生花を飾って。]
〜〜〜〜試合じゃないのに、
めっちゃ緊張するぅ。
[足踏みしながら両頬をぺちぺち叩いては、化粧が崩れると窘められる。
何度も靴紐を結び直し、タイツに隠れた鷹羽と桜のタトゥーを押さえてスケートの神様に願掛けを。舞台用のくっきりしたルージュを小指でなぞって、準備は万端だ。]
(350) りしあ 2023/05/05(Fri) 13時半頃