―― 6月XX日/桜森高校 ――
[ゴールデンウィークの女子会で、旧桜森高校を訪れて以来、虹乃は単身何度も足を運んでいた。
まだ、リンクの手前で足が動かず、練習を再開することもできない。パニック障害も酷くて、スケート場まで辿り着けない日も少なくない。
それでも、折角あれだけの経験をして治った左脚だ。再び滑らない選択肢はなかった。見たいと言ってくれる人がいる内は、諦めるわけにはいかない。
だから何度でも繰り返す。あの日、保健室から出て、東階段の踊り場で、――]
――っ、ぅ、 はぁ、はぁ…… 、 や、やだ、
[真っ青な顔で、廊下の途中に踞る。喉から酸素でなく血が噴き出す錯覚。全身冷や汗が引かず、震えも止まらない。]
――――だ、 大丈夫、 もう
痛くない、痛くない。
[自分に言い聞かせるように唱えて、今日もまた駄目だったと帰ろうとして。曇天の体育館の方から、物音が聞こえた気がした。>>247]
(275) りしあ 2023/05/04(Thu) 15時頃