―― 中央病院/208号室 ――
[次に目を覚ましたのは、最早自宅より見慣れた病室だった。
未だ奇妙な乖離感があって、ともすればこの世界をモニタ越しに見ている気さえする。]
「鷹羽君、非常に言い難いことだが、
君の足は――――」
[目の前の主治医の言葉に、傍らに控えた両親がワッと泣いて左足に取り縋る。
それすら物語の一幕のようで。
ぼうっと両手を見下ろし、そして窶れてしまった両親の震える肩に触れてみる。その体温で、漸く一枚膜が剥がれ落ちたよう。トク、と心臓が跳ねた。]
し、んぱい、いっぱいかけて、ごめ ――なさ、
おか ぁ さん おとー、さん
[謂れ無き中傷と悪意に晒された一人娘を守ろうと必死だった両親。
抱きしめ、噎び泣く、嗚咽の度にまた一つ。現実と虚構を隔てていた靄が次第に晴れていく。]
「二度検査し直したが、奇跡的に完治している」
[見舞い品の果物籠の隣には、クルーエル社のパンフレットと、深い菫色した灰簾石(タンザナイト)が置かれていた。]
(45) りしあ 2023/04/30(Sun) 23時半頃