― 前日・平原 ―
[ライジの駆る二足歩行探査機の数少ないウリのひとつは、陸上における機動力だ。
本来の機種特長は重量のある荷物を曳く馬力と、落石等の危険のある場所での作業を想定した頑丈さであるのだが、『スペランツァ』に来てから重ねた改造により、移動速度が格段に向上した。
そこに乗り手であるライジの操縦技術が加われば、障害物の多い場所でも安定した速度の移動が可能である。その代償として、機体姿勢の安定と快適な乗り心地は放り投げているわけだが。
がっしょんがっしょんがっしょんがっしょん。
一歩を大きく、跳ねるように。
引っ張られて重心が斜め前に傾く勢いのまま、次の一歩を踏み出す。バランスを崩し切る前に次の姿勢に移動することでどうにか走り続けているような、そんな危うい走行姿勢。もしも袋に詰まった粘弾性流体が同乗しようものなら、零れるどころかドーム全体がビッチャビチャになることだろう。
しかし中に乗っている男は涼しい顔。受け取った携行食>>2:112を齧りながら、片手間といった様子で操縦桿を操っている。低木や茂みを飛び越えつつ、旧型探査機はずんずんと進んでいく。]
(19) 2021/11/11(Thu) 13時頃