― 安置室 ―
[前日の探索を終えて帰投していたイワノフが、ドスドスと足音高く安置室に入っていく。
片手に端末。端末と、カプセルに横たわる影を見比べる。LOST:アシモフの文字と、アシモフの亡骸を。]
おお、なんてこった、アシモフ。
お前はたいそう足が速くってすばしっこかったが……
こんなところまで急がなくったってよかったじゃないか。
まだ一日だぜ、アシモフ。
クソッ……。
[しばらくの沈黙のあと、端末をポケットに仕舞う。帽子を取り胸に当て、片手で正十字を切った。]
…… Аминь。
[ローカルな惑星の、クラシカルな祈りを口にする。アシモフの故郷は知らない。イワノフの故郷の惑星ももはや死の星と化した。同郷ではないだろう。遠い祖先まで遡っても。だがアシモフの名前が持つ音の響きには、懐かしい親しみを感じていた。
銀河の片隅。マーレ10とよく似た惑星、地球にあって、スラヴと呼ばれた土地たちの言葉にそれは似ていた。**]
(14) 2021/11/09(Tue) 03時半頃